遥かなる故郷は宇宙

原口源太郎

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 人類が地球の衛星軌道に超巨大宇宙ステーションを建造し、移住を始めてから150年余りが過ぎた。№1と名付けられた実験用の巨大宇宙ステーションに続き、改良型の№2、№3が建造されて試験運用され、四番目に建造された№4から本格的に人々の移住が開始された。
 今では№4型の宇宙ステーションが、小さな改良を経ながら№30まで建造され、100万人以上の人間が宇宙へと移住した。
 実用実験を兼ねたステーション№1から№3と、旧老化した№4から№9は解体破棄されたが、今は新型で今までの倍の人間が暮らすことのできる次世代宇宙ステーション№31が建造されている。
 それぞれの宇宙ステーションには5万人ほどが暮らし、小さな国家のように独立した自治権を確立していた。
 そうした中、月の開発は主にステーションにある業者によって行われてきたが、やがて希少資源の所有権をそれらの業者が主張し始めた。地球の国家は、月の資源は特定の者たちのものではないとして、それを認めなかった。
 月の資源流失を防ぐべく、全てのステーションが同盟を結び、宇宙国家として地球からの独立を宣言した。
 それに対抗し、地球の人々は地球上の様々な物資を宇宙に送る事を停止した。地球の国々は月の資源に頼らなくても暮らしていけたが、宇宙の人々はそういうわけにはいかなかった。地球の国々は宇宙に暮らす人々が一体となって国家を形成することを許さなかったのである。
 窮した宇宙同盟国家は、地球から月への定期輸送船団を攻撃して壊滅させた。さらに地球よりも進んでいたロボット技術を利用して、人型の戦闘マシーンを造り、地球上へと降り立った。
 ここに宇宙同盟国と地球連邦との戦争が勃発した。

 低く身を伏せた戦闘マシーン、型番号F104、通称ガールの頭部にある巨大なレンズがギラリと光る。
 森の中から一発のミサイルが発射された。
 F104は高くジャンプする。空中でマシガンを構え、撃つ。
 乾いた銃声が響いた後に、ミサイルは空中で爆発した。
 F104はさらに空中を飛びながら、ミサイルが発射された辺りの森にマシンガンの弾を撃ちこむ。
「やったか?」
 森へと降下しているF104のコックピットでジョン・スカイがつぶやく。
 別の場所で何かがキラリと光った。
「ん?」
 再びミサイルが発射された。F104のコクピットに警告音が響く。
「しまった、いつの間に!」
 ミサイルは120度の角度をもってF104を囲むように三方から同時に発射された。スカイのF104は完全に敵の術中にはまっていた。
 落下スピードが増していく中、一瞬にしてスカイのF104は三発のミサイルを撃ち抜いて森の中に着地した。
「甘く見るな!」
 ふたたびF104をジャンプさせようとした時、メインモニターの隅に少女の姿が映っているのに気が付いた。
「なんだ? 何でこんな所に!」
 F104は少女の元に走った。
 空に数本の白線を引いてミサイルが追う。
「ユウ! 応戦しろ!」
 スカイは無線に叫び、振り向きざまミサイルを撃ち抜いた。爆風から守るようにスカイのF104は少女に覆い被さる。
 そのF104の背にミサイルが直撃した。
 びりびりと震えるコクピットの中でスカイが吠える。
「ふざけるな! 子供がいるんだぞ!」
 もう一機、ユウの操るF104が森の中から現れ、ミサイルが発射されたと思われる辺りをマシンガンでめくら撃ちする。あちこちで巨大な爆発が起き、炎が上がる。
 スカイはコクピットのハッチを開け、少女に叫ぶ。
「来い! 死にたいのか!」
 子犬を抱える少女を収容すると、スカイのF104は立ち上がった。
「ユウ! 引くぞ!」
 スカイはまた無線に叫ぶ。
 戦闘マシーン用の巨大な手榴弾を投げ、ジャンプして二機のF104はその場を離れた。

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