遥かなる故郷は宇宙

原口源太郎

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 闇の中でドッグのハッチがゆっくりと開いてゆく。その奥で、F104の頭部カメラが一瞬鈍く光って消えた。スカイが夜間用の赤外線暗視カメラに切り替えたためだ。
 動力を消音モードにし、小さな物音だけでスカイのF104は地下のドッグから地上へと出ていった。
 マクタは見事だと思う。あの巨体のFマシーンが滑っていくようだ。普通の人間が冷や汗を流し、神経をすり減らして行うことを、スカイはF104のコックピットで口笛を吹きながらやっているのだろう。
 面白い男だ。スカイはマクタより五つほど年下のはずだが、同い年か、年上のような口のきき方をする。マクタばかりではない。スカイはあまり年齢というものを気にしていないように思える。もちろん、上官に対してはそのようなわけにはいかないが。
 もしかしたら、スカイはわざとそんな素振りをしているのではないかと思う。どこか言葉の奥に取り繕ったものを感じる時があるし、態度にそれが現れる時もある。
 スカイはヨーロッパ移民の多いステーション№10から流れてきたから、封建的な古いしきたりの中で育ち、その反動で無頓着に振る舞っているのかもしれない。
 とにかく、スカイという男は度胸がいい。楽天家と言い換えてもいいくらいだ。運動神経が特別いいとは思えないが、瞬間的な状況判断力は他のパイロットたちに比べ、群を抜いている。そして感もいい。今まででスカイのF104は敵の攻撃によって大きな損害を受けたことはなかった。
 ミサイルや砲弾の直撃を受けることは、他のマシーンに比べ驚異的に少なかったし、被弾の仕方も被害を最小限にするものだった。それは神懸っているといえた。どうしてそんなことができるのか、マクタには想像もできないことだった。きっと他のパイロットも同じ思いでいるだろう。

 同じころ、基地の指令室でキイダ・マックウィーと副官のショウ・オノは、モニターに映るFマシーンが闇に消えていくのを眺めていた。
「ロン・ワトソンにはどのように報告を?」
 オノがマックウィーに話しかける。
 ロン・ワトソンはこの地域に展開する部隊の最高司令官だ。
「知らなかったことにしておく」
「しかし」
 オノが狼狽えた表情を見せる。
「気にするな。責任は私がとる」
 司令官と副官はしばし無言で動く物のない黒いモニターを見つめた。

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