遥かなる故郷は宇宙

原口源太郎

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 スカイのF104は慎重に歩みを進めた。一気にジャンプしながら行きたかったが、今はまだ基地に近い。それに連邦軍に見つかり、戦闘になるのを避けなければならない。
 最近の戦争は、開戦直後の巨大兵器がぶつかり合うような派手な戦いは少なくなっていた。戦闘を重ねるたびに物資は減り、供給が追い付かない状態になった。Fマシーンを有する宇宙同盟国軍が有利に戦いを進め、地球連邦軍は次第にゲリラ的な戦術に変えていくしかなかった。
 それが厄介だった。小さな弱点をネチネチと突いてくる。生身の兵士がFマシーンを狙って仕掛けてくる。あちこちに潜んでいる兵士を捜し出すのは一苦労だったし、生身の人間をFマシーンの兵器で狙うのには抵抗があった。ミサイルやマシンガンの爆発のあおりで何人もの人間を殺しただろうし、戦闘機や輸送機は何機も撃墜した。基地や戦車も破壊してきた。生身の人間は撃てないなどと甘いことを言っていれば、いつか殺されるだろうとは思う。だが、今のところ自分の主義を変えるつもりはない。少なくともパイロットとしてFマシーンに乗っている間は。
 スカイは神経をピンと張り詰めていた。どこに連邦の兵士が潜んでいるかわからないのだから、慎重に進まざるをえなかった。

 闇が薄れ、夜が明けようとしている。
 スカイはF104のメインモニターを昼用に切り替えた。頭部のカメラが鈍く光を放つ。
 その時、レーダーが何かを捕らえた。一昔前と違い、世界中に撒かれ続けている特殊微細粒子の影響でレーダーの精度は格段に落ちていて、ある程度近くに来るまでそれが何かわからない。
 スカイはF104の身を低くして動きを止めた。
 程なく、カメラが超低空を飛行する大型の機影を映し出した。
「アカギル」
 モニターの映像を見てスカイがつぶやく。連邦軍の大型輸送機だ。
 スカイはF104の身を低くしたまま、十分な距離を置いて森の中を進み、アカギルを追った。低空をゆっくりとした速度で飛んでいる。着陸地点は近い。
 小高い山に囲まれた小さな盆地にアカギルは降りた。
 山陰にF104を隠し、スカイはコクピットを降りた。岩の陰から双眼鏡で盆地を見る。
「な!?」
 スカイは思わす声を上げそうになった。
 ジャングルのような森を切り開いた土地にアカギルが二機。一機の貨物室のハッチは開かれ、すでに搬出作業が行われている。降ろされているのは二連装の主砲を持つ戦車に、大口径のバルカン砲を装備した装甲車、ミサイルランチャーを装備した六輪車。もう一機も貨物室のハッチが開かれようとしている。急ごしらえらしい滑走路脇には、戦闘機のほかに戦闘爆撃機や重爆撃機が並ぶ。
 今までに見たことのないほどの軍備だ。この地域でそれだけの戦力で攻撃を仕掛けるとしたら、ラ・シュー基地以外にない。
 叩くなら今だ。
 スカイはF104に乗り込んだ。動力パワーを最大限に引き上げ、身を沈めると大きくジャンプする。背のロケット出力を全開にする。
 空中でメインモニターを見ながら、スカイは一瞬にして攻撃目標に優先順位を付けていく。反撃がありそうな戦車や装甲車から潰していく。
 マシンガンを構え、引き金を引いた。
 火柱が次々と上がる。装甲の弱い上部への被弾に、戦車が燃え上がる。砲弾や燃料に引火し、爆発が起きる。爆発は繰り返され、炎がたちまち広がっていく。
 スカイは炎の中に立ち、マシンガンを撃ちながら基地へ無線を入れ、状況を報告した。
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