我ら狂気の軍団

原口源太郎

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 ビルの二階は客がいなくなり、棚や売り物まで総動員してエスカレーターの周りにバリケードを築いてしまったので、中は広々とした空間が広がっている。
 とど店、パンドコロ、小ケン、色美、大沢の五人がフロアの中央で丸くなって相談をしている。
 東郷、甲斐、しのぶ、売買はそれぞれ東西南北の窓にへばりついて外の様子を窺っている。
 突然、ドンという音とともに、振動がビルを揺らした。土方が二階から三階へと上がる階段を爆発させた音だ。
「びっくりした。爆発させるんならさせるって言ってからにしてほしいわ」
 色美が音のした方を見て言う。
「それより早く警察に連絡を」
 パンドコロが言った。
 五人の輪の中心に幾つかのスマホが置かれている。慌てて逃げた客や従業員が置いていったり、落としていったものだ。
「誰が電話する?」
 とど店がおどおどした様子で言う。
「あんたが電話するの。当然でしょ」
 色美がとど店を見て言った。
「でも、僕じゃ迫力がないからなあ」
「電話じゃ顔が見えねーからいいだろ!」
「は、は、は、はい」
 色美の剣幕に、緊張した顔になってとど店が返事をした。
 とど店はスマホを一つ手に取り、番号を押していく。
「あー、我々は西横ハンズのビルを占拠している者だ。ここには客が百人いる。無事に人質を解放してほしければ、金を十億と飛行機を用意しろ。外国へ行ける飛行機だ。終わり」
 ぽちっと画面のボタンを押して、とど店は電話を切る。
「よくやった」
 パンドコロがとど店の安心したような顔を見て言った。
「上出来です」
 大沢も続く。
「これで億万長者だわ」
 色美は夢見る表情になって言った。
「どこに電話したの?」
 小ケンが尋ねた。
「うち」
「うち!?」
 とど店、全員から足蹴りを食らう。
「俺が電話するよ」
 パンドコロが言った。

 髭の署長とスーツ姿の部下が、乗っ取りにあったビルを眺めている。署長のお腹は引っ込めていられるだけの時間をとっくにオーバーして、元に戻っていた。
 制服姿の部下の部下の男が、スーツ姿の署長の部下の元に歩み寄り、ごにょごにょと耳打ちする。
「どうした?」
 それに気付いた署長が部下に尋ねた。
「二百人の人質を取っているそうです。要求は二十億円の現金と海外逃亡用の飛行機です」
 部下が答える。
「大きく出たな。しかし、そんなに人質がいるのか?」
「人質はいませんね。いたとしても、せいぜい数人といったところでしょう。奴ら、やっぱりただのアホですな」
 西横ハンズの周りのビルには何人もの警官が配備され、双眼鏡で中の様子を窺っている。店内にはとど店以下、十人の姿しか見えない。
「さっさと逮捕しろ。ああいう奴らは殺しても構わん。全く」
 署長はイライラしたように言った。
「さっさと逮捕しろ。ああいう奴らは殺しても構わん。全く」
 部下は署長の言葉をそのまま部下の部下に告げた。
「さっさと逮捕しろ。ああいう奴らは・・・・」
 部下の部下は、部下の言葉をつぶやくように反芻しながらそこから去っていった。
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