白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人

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 定期健診日。
 何処で誰に見られるか分からない為、帽子にサングラスそしてマスクと簡単な変装をしていると、竜が車を出してくれると言うので、二人で隣町にある男性Ω専門の産婦人科へ向かった。
 健診を終え、折角だから安産祈願をしようと竜に誘われ近くの神社へ歩いて行く。
 石段を上り、半分を上った所で産婦人科にサングラスを忘れた事に気付いた。

「俺が取ってきてやるよ」
「でも……」
「お前が行くより俺が行った方が早いだろ? 直ぐ戻るから先に上っててくれ」

 そう言って竜は階段を駆け下りて行った。
 葵は階段を上りきると鳥居の側で竜が戻るのを待ちながら、神社を訪れている人を見ていた。
 平日だからか人の数は少ない。だが、皆一様に幸せそうな顔をしている。
 自分も大好きな男の子供を授かったのだから幸せに違いないのだが、今後の不安もありどうしても俯いてしまう。
 くたびれたスニーカーを見詰めていると、影が差した。
 竜が戻ってきたのだと顔を上げると、予想外の人物が立っていた。

「雪路……」

 常に不機嫌そうな表情は何時にもまして不機嫌に見え、その後の言葉が出て来ない。
 もしかして本当の父親が誰なのかバレてしまったのだろうか……。
 不安に思いながら視線を雪路に戻すと、鋭い眼光に怒りが見て取れた。

 ――やっぱりバレたんだ。

 そんな葵の心を読んだかのように「勝手に作りやがって」叱責の言葉を投げられ、どう返事していいか分からずに視線を彷徨わせた。
 舌打ちが聞こえ、身体を震わせると雪路が近付いた。
 ただならぬ雰囲気に思わず後ずさるが、直ぐに鳥居にぶつかり追い詰められた。
 伸ばされた手がお腹に触れ、グッと圧迫するように押され恐怖に動けなくなる。
 地を這うような低い声で「生まれなければいいのに」と吐き捨てられ、葵は目の前が真っ暗になった。

「ふざけんなよ! 誰の子だと思ってんだ!!」

 竜の蹴りが雪路を襲った。
 雪路は左腕でそれをガードし仕返しとばかりに拳を振り上げた。
 幼馴染二人が殴りあいのケンカを始め、止めねばと口を開くが声が上手く出ない。
 近くには階段がある。どちらか、或いは二人とも落ちてしまうかもしれないと必死に手を伸ばす。

「ゃ…めて……」

 雪路の腕を掴み、危ないから止めてくれと叫ぼうとしたその時。腕は振り払われた。
 バランスを崩した身体は階段へと傾いた。
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