異世界転性 ~竜の血脈~

草野猫彦

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38 迷宮への道

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 雷鳴の牙のパーティーは、次の8人からなる。
 まずリーダーのバルガスと、その娘シズナ。バルガスは大剣を、シズナは長剣を得物にしている。
 そして盾を使うのがヴィルとゲイツ。ヴィルは背丈よりも巨大な盾と、戦棍を持っている。ゲイツは普通の盾に片手剣という、カルロスと同じスタイルだ。
 斥候がシャールという、これがまたマールと同じ猫獣人であった。ただし体毛は白地に黒斑。
 後衛の三人は、まずゾロという弓使い。剣も使えないわけではないらしい。彼は地図の作成も受け持っている。
 魔法使いは、付与魔法と治癒魔法を得意とするジェイソン。ここまでがシズナを除いて、おおよそ40歳ぐらいの年齢である。パーティーを組んで10年にはなるそうだ。
 残りの一人、セルフェルミント通称セルは、エルフの精霊魔法使いだった。年齢は300歳。エルフとしてはまだ若いうちに入る。
 シズナ以外は全員男。紅一点というわけであった。

 顔合わせの済んだ日の午後、一行は改めて買い物に出かけた。
 ベテランパーティーから見たら、リアたちの一行はまだまだ準備不足と見えたからだ。それと顔見知りの店主たちに言って、秘蔵の商品を出させることにも成功する。
 このあたりはやはり、敵わないと言うべきだろう。

 ついでにリアは、アナイアスまで行くという隊商を探して、王宮への手紙を預けた。
 オーガの村から迷宮都市、そしてコルドバの軍との諍いまで含めた、長い手紙である。事実関係に加えて、自分の見解までも付け足すとそうなった。
 それを箱に入れ蝋で封じ、印章を捺す。厳重に、中を見られないようにしたのである。
 もちろんこんな物を預けるためには相応の金貨をはずんだし、加えて届け終えたら追加の報酬まで貰えるように、別に一筆書いた。
 そろそろ本気で心配しているであろうと思ったのと、コルドバへの対処には本格的に、国を挙げて行ってもらいたいと思ったからだ。
 リアの価値観からしても、カサリアの国益を考えても、コルドバの問題は今の内に手を付けないとまずいと感じた。そしてこういったリアの勘は、まず外れない。



 そしてさらに次の日の正午、一行はジェバーグを出発した。ここから半日かけて迷宮の入り口に着き、そこで一泊してから攻略に入るというのが定石らしい。
 実際、前後して複数のパーティーが同じ道を進んでいる。しかもリアたちに付かず離れずという距離だ。
「このあたりは飛行系の強い魔物が出るからな。いざとなったら助けてもらうつもりだろう」
 実際に助けるかどうかは、その時の状況次第だという。
 バルガスの説明通り、多くの魔物に襲われることになった。

 このあたりはゴブリンの集落などない。なぜなら魔物の餌になるだけだからだ。
 グリフォンやワイバーン、火蜥蜴といったレベル70前後の魔物と頻繁に遭遇するらしい。
 ワイバーンに襲われ、まずは見本とばかりに、雷鳴の牙が応戦する。盾役の二人が攻撃を防ぎ、バルガスとシズナが削っていく。魔法使いは最低限の支援をして、魔力を温存する。
 地味ではあるが、全く危なげのない戦闘であった。

「次はそっちの腕を見せてもらうぞ」
 バルガスの言葉は、こちらに向かってくるもう一匹のワイバーンを見つけたからだった。
 パーティーの役割や連携を見る。それがバルガスの目的だったのだろう。
 だがここに、空気を読まない男が一人。
「ロンギヌス」
 時空魔法の一撃が、ワイバーンの胴を貫いていた。
「ワイバーンの肉は硬いから食べにくいんだよね~」
 呑気に呟くサージである。彼はルドルフの背に乗っていて、この中では一番楽をしているが、子供だから仕方ない。

「な、何だ今の魔法は……」「分からん。火魔法と風魔法の混合のような気がするが、あるいは物理魔法かもしれん……」
 驚愕の呟きをよそに、墜落したワイバーンからリアが鉈で魔石を取り出す。かなり大きく、魔結晶の一歩手前という純度だ。
 出来るだけ魔力は温存すべきだというジェイソンの意見に対し、サージは消費魔力軽減のスキルに加え、魔力回復速度上昇のスキルまで覚えているのだと返した。
 毎日毎日、限界まで魔力を使ってはぶっ倒れるという荒行を行ってはいたが、それに加えてやはり、魔法の天稟のギフトの恩恵が大きいのだろう。
 一行は歩みを再開した。道のりはまだ半ばを過ぎたところだった。



 夕暮れになってようやく、目的の山の山頂付近にたどり着いた。
 この山の中を地下に深く降りていくと、暗黒竜の住処に至るのだと言われている。
「や、やっと着いた……」
 慣れない山道で、ルルーがへばっていた。時折サージとルドルフの背を換わってもらっていたが、揺れがひどくて酔ったようだ。
 こんなことならロバの背に、とも思うがそれは無理な話である。ロバを無事に置いておける場所がない。

 ぽっかりと暗い穴を開ける入り口の中に入る。そこは広大な空間になっていて、既に野営しているグループがいた。
「外で野営しないのか?」
 迷宮の中で野営することもあったが、魔物が出ると分かっているのが不思議で、リアが尋ねる。バルガスの答えもシンプルだった。
「飛んでくるのに奇襲されるとまずいからな。この中の方がまだ安全だ」
 なるほど。程度問題か。
「じゃあ、風呂に入ろうか」
 リアが言うと、雷鳴の牙のメンバーが「何言ってんだこいつ?」といった顔で見つめてきた。
「風呂だよ風呂。山道を歩いて汗もかいたしな。せっかくだから露天にするか。サージ、道具を出してくれ」
 洞窟入り口の脇に、リアは風呂を作る。土魔法、水魔法、火魔法、もはやこの合わせ技は、風呂魔法と言っても過言ではない。しょーもない魔法であるが、高度な魔法でもある。
 人目があるので、しっかりと壁まで作る。完璧である。
「あのな、そんなものを作る魔力があるなら、しっかりと温存しておいた方が……」
 ジェイソンがまた常識的なことを言った。
「風呂に入って綺麗にしてから休んだ方が、体力や魔力の回復が早いんだ。野営続きだと体力が回復しきらないのは知ってるだろ?」
 事実である。だが、誰も今までそんなことを検証した者はいなかった。よって作成や見張りの手間を考えて、わざわざ風呂など作らないのが普通である。
 そしてリアは普通でなかった。
「少し大きめに作ったから、女全員で一気に入れるぞ」
「あたしはいい。風呂なんかに入ってる時に襲われたらどうするんだ」
 当たり前のことをシズナは言ったが、リアに当たり前のことは通用しない。
「その時は裸で戦えばいいだけだろう」
「無茶苦茶言うな!」
 無茶ではあるが、無理ではない。
 第一これだけ人数がいるのだから、女衆が欠けても、どうにかなるだろう。
「どうする? バルガス」
 決定権はシズナにはない。それを知ってリアは問う。
 必死の視線を向けてくる娘に対し、バルガスはゆっくりと首を振った。
「何事も、試してみるべきだな」
「よし決まった! 一緒に入ろう!」
 絶望に顔を染めたシズナの腰を軽々と抱え、リアは土壁の向こうへと消えていく。それにマールが風呂道具と着替えを持って素早く続く。
 周囲の目を伺った上で、ルルーもゆっくりと入っていった。今日はリアに弄ばれる危険は無さそうだと判断したのだ。このあたり計算高い。
 一方、シズナは悲惨だった。
「やめろ! やめろって! どこ触ってんだ!」
「よいではないか。よいではないか」
「ぎゃー! やめてー! お父さーん!」
「マール、靴下から脱がせるんだぞ。それが美学だ」
「合点承知」
「ぎゃー!」
 ざばざばと湯の音がする。
「わ、分かったから……。自分でするから……」
 やがて何もかも諦めたような、シズナの声が聞こえてきた。

 だがリアは容赦しなかった。

「遠慮するな。洗ってやるから」
「ぎゃー! 遠慮する! マジやめて! 謝るから!」
 もはや自分でも何が何だか分かっていないのだろう。
「うわー! どこ触ってんだー!」
「え? 腹筋」
 明らかに面白がっているリアの声に、周囲を警戒する男たちは戦慄していた。
 そしてサージだけは萌え死にそうになっていた。
「ぎゃー! 何でそんなところまで触るんだ!」
「ん~? だって汚れるところだろうが」
 さすがにこのあたりでバルガスは頭を抱えた。



 やがてふらふらと壁の向こうから現れたシズナは、がっくりとその場に崩れ落ちた。
「ううう……。磨かれてしまった……」
 リアの手はあくまでも優しく、一切少女の身を傷つけることは無かった。
 だが、心には深い傷を残した。痕を残したのである。
「あ~、いいお湯だった」
 タオルを首にかけて、リアとマールが現れる。ルルーはやはり少し遅れて出てきた。
 リアの表情は、何かをやり遂げたかのように爽やかだった。
「それじゃあ男の人も順番に入ってくれ。お湯が温かったら熱くするから」
 その言葉に、バルガスたちは顔を見合わせる。そしてカルロスとギグの方を見て、確認してきた。
「その……お前さんたちの中に、そっちの気があるやつはいないよな?」
「いない!」
 カルロスのギグの声が揃った。
「ホモは勘弁してください」
 サージは嫌そうにそう言った。
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