「婚約破棄させてやる……」最低王子が企むも、純粋な公爵令嬢にその手は効かない。

オコムラナオ

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頼み事(マリルノ視点)

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タラレッダさんが向かった先にあったのは、馬小屋でした。

「おいパージさん、いるかね!」

そう言うと馬小屋から、パージさんが顔を覗かせます。

「どうした、タラレッダ。

おや、マリルノ様まで。こんにちは」

パージさんは私を見ると、すぐに馬小屋から出てきてくださいました。

「ごきげんよう、パージさん」

「今日はどうされたのですか?」

「えっと……」私はタラレッダさんの顔を見ました。

「パージさん、あんたにちょっと頼みたいことがあるんだよ」

「ああ、なんだい?」

「ちょっくらナテナまで行って、アルダタの坊やの様子を見てきてくれないかね。

マリルノ様の送った手紙が急に届かなくなったみたいなんだよ」

えっ。

私は驚いて、タラレッダさんの顔を凝視しました。

タラレッダさんは軽い調子でパージさんに言いましたが、ナテナは最寄の国とはいえど、他国であり、それなりの距離があります。

町の果物屋でちょっとリンゴを買ってきて欲しいと頼むのとは、訳が違うのです。

「なんだ、アルダタは体調でも崩したのかな。

じゃあ国王様から外出許可をとって、様子を見てくるとするかね」

「悪いね。マリルノ様の望みとあれば、国王様も反対はしないだろうよ」

「そうだな。ここしばらく大した仕事もなかったから、馬たちの気分転換にももってこいだな」


「ちょっ、ちょっと待ってください!」

私はとんとん拍子で話を進める二人に、ストップをかけました。

二人は不思議そうな顔を私に向けました。

「そんな……申し訳ないですよ。

ナテナは最も近い国の一つではありますけれど、隣町に行くような距離ではありません。

道中で何日も休まなければならないだろうし、そんなあっさりと……」

するとパージさんは、にっこりと笑いました。

「マリルノ様。

あなたのお力に少しでもなれるのなら、私は喜んで、外国だろうと何だろうと馬を走らせますよ」

「でも……」

「それにこれはお嬢様だけの問題ではなく、

この屋敷の仕事仲間である、アルダタに関わることなのでしょう?

私やこのタラレッダにとってみたら、昔から一生懸命働くあの子のことは、可愛い息子も同然なんですよ。

だったらなおさら、躊躇する理由がありません」

「パージさん……」

パージさんの瞳には、馬を撫でる時に見せる温かさが輝いていました。それを見ていると私の胸まで、じんと熱を持ちました。

溜まっていたものがどっと溢れてきて、泣き虫の私は堪えることができませんでした。

「ごめんなさい」

「お嬢様。お嬢様は何も気にされる必要ないんですよ」

パージさんが気を遣って、私に言ってくださいました。

タラレッダさんは何も言わず、大きな手で私の背中をさすってくださいました。

「違うんです。その……アルダタさんからの便りが来なくなってから、私、ずっと不安で。

でも自分ができることなんて何もなかったから……」

「泣かないでください、マリルノ様。

あなたが泣いていると、私まで胸が苦しくなってくるんですよ」

そう言ったタラレッダさんの声も、私のものと同じくらい、湿っていました。

「ごめんなさい、そうですよね。

せっかくお二人がお力を貸してくださったのですから」

「気にしないでください。

この屋敷の主人がいなくなってから、馬たちも外に出ることがぐんと減って、退屈しておったのです。

遠出させてやるくらいが、丁度いいんですよ」

「ありがとうございます」

私は涙を払い、顔を上げて言いました。

「パージさん。

わがままを承知で、もう一つだけお願いがあります」

「ハハッ。

その意気ですよ、マリルノ様。

私にできることなら、なんでもおっしゃってください」

私は意を決して、パージさんに大きな頼み事をしました。
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