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意外な提案(マリルノ視点)
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私は慌てて、声を振り絞りました。
「ど、どうしたの、スコッテ」
「だって、マリルノ、私のこと嫌いになったと思ったんだもん。
私のことが鬱陶しくなって、それで遊ぶのが嫌にいなったと思ったんだもん」
「ちがいますよ。そんなこと……」
「でも、さみしかったんだもん……」
スコッテはそういって、わんわん泣きました。
私は、人のいないところで話せてよかった、もしここがカフェテリアだったら、周りの目を集めたに違いないと思いました。
「ごめんなさい、スコッテ」
私は彼女の肩を抱き寄せました。
「うう、うう……」
泣いているスコッテの体は、小さな子供のようにあたたかでした。
それからしばらくして、スコッテは泣き止みました。
憑き物が落ちたかのように、スコッテはすっきりとした表情を取り戻していて、私はほっとしました。
しばらく私たちは、無言で隣に座っていました。もう私たちの間にとげとげした雰囲気はなくて、私は穏やかな気持ちで、窓の形に切り取られた光が、美術室の床に落ちているのをぼんやりと眺めていました。
「ねぇ、マリルノ。私も聞いて欲しい話があるの」
しばらくしてスコッテはそう言い、立ち上がりました。
それから幾つもの絵がおさめられている棚から、一枚を引き抜きました。
「これ……私が描いたの」
「えっ、すごいです!」
それは、とても素敵な絵でした。
黄や紫、赤、緑などが美しく光る花畑を背景に、一人の女性がこちらを振り向いて立っているという情景でした。
背景はかなり仕上がっており、また中心にいる人物も全身が描き込まれているのですが、唯一、顔の部分だけが空白で、まだ手付かずの状態でした。
「この絵、描いてたの。昼とか放課後とか」
スコッテは気恥ずかしそうに言いました。
「そうだったんですね」
「うん」
「これは、芸術科目の課題ですか?」
「ううん」
「あれ、でもマリルノって美術部ではなかったですよね……?」
そういうとマリルノは、唇を尖らせました。
「だって、マリルノばっかりいつも予定がたくさんあるの、悔しかったんだもん。
遊びに行こうって言っても、ふられるのはいつも私の方だし。
だから、私も何かしようと思って。
先生に相談したら、絵を描いてみるのがいいんじゃないかってすすめられて、この準備室を自由に使っていいから、少しずつでも進めてごらん、って……」
私は芸術は音楽を選択していたので、スコッテがこんなに素晴らしい描き手だったことは全く知りませんでした。
照れくさそうに絵の前でたたずむスコッテの表情を見ながら、何でも分かっているようであっても、まだまだお知らないところがたくさんあるのだなと、私は当たり前のことに改めて気付かされました。
「ねぇ、この絵、誰がモデルだと思う?」
スコッテが楽しそうに尋ねてきました。
「スコッテのお知り合いですか?」
「もちろん」
「えっと、ちょっと待ってください」
私は頭の中で何人かのクラスメートを思い浮かべました。しかしどの人を絵にあてはめてみても、あまりぴんときません。
私は降参しました。
「分かりません、どなたですか?」
「えー、わかるでしょう。
マリルノだよ」
「あぁ!」
私はぽんと手を叩きました。自分という候補が、頭の中ですっかり抜けていました。
「うわぁ、嬉しいです、ありがとうございます」
「そう。へへ」
スコッテは鼻の先をこすりました。
「いつも見ているから、マリルノだったらよく描けるとおもったんだ。でもさ、描いてみたら思ったより難しくて。ちょっとつまっちゃっててさ。
それで、長期休暇を利用して、マリルノと一緒にいろんなところにいけたらなって思ってたんだ。
そうすればいろんな表情のマリルノが見れるからさ。
ほら、なんていうの? そう、インスピレーションもすごく湧くんじゃないかな、って思ったんだよね」
「そうだったんですね。それなのに、私……」
「ううん、もう大丈夫。
それより、マリルノがちゃんと話してくれたから、すごく安心した。
だってマリルノ、いつもは自分のこと、全然、話してくれないんだもん」
「そうですか?」
私は首を傾げましたが、思い当たる節もありました。
たしかにこれまでも、何人かの人からそのようなことを指摘されたことがあったので。
隠すつもりは毛頭ないのですが、自分の話なんかしても相手は興味ないだろうなと思ってしまい、どうしても聞き手に回ってしまうことの方が多い気がします。
「じゃあこれからは話すようにするので、また今日みたいに、聞いてもらってもいいですか?」
スコッテはにこりと笑いました。
「もちろん!」
ゴーン、ゴーン、ゴーン……
チャイムの音がなりました。
いつの間にか話し込んでいて、すっかり時間を忘れてしまっていました。次の授業まで、あと十分という合図です。
「ああ、そろそろ教室に戻らないとだね。よかった。別にけんかしていたわけじゃないけど、またマリルノと友達に戻れたみたいで嬉しい」
スコッテが呟いたのを聞いて、私はこれまで、随分寂しい思いをさせていたのだなと痛感しました。
荷物をもって美術準備室を出ようとするスコッテの腕を、私は掴み、引き留めました。
「ん? なに、マリルノ」
「スコッテは午後から、何の授業をとっていますか?」
「え? 化学と経済だけど。どっちも面倒くさいなぁ……」
「一緒にさぼりませんか?」
「え?」
スコッテは目を丸くしました。
「ど、どうしたの、スコッテ」
「だって、マリルノ、私のこと嫌いになったと思ったんだもん。
私のことが鬱陶しくなって、それで遊ぶのが嫌にいなったと思ったんだもん」
「ちがいますよ。そんなこと……」
「でも、さみしかったんだもん……」
スコッテはそういって、わんわん泣きました。
私は、人のいないところで話せてよかった、もしここがカフェテリアだったら、周りの目を集めたに違いないと思いました。
「ごめんなさい、スコッテ」
私は彼女の肩を抱き寄せました。
「うう、うう……」
泣いているスコッテの体は、小さな子供のようにあたたかでした。
それからしばらくして、スコッテは泣き止みました。
憑き物が落ちたかのように、スコッテはすっきりとした表情を取り戻していて、私はほっとしました。
しばらく私たちは、無言で隣に座っていました。もう私たちの間にとげとげした雰囲気はなくて、私は穏やかな気持ちで、窓の形に切り取られた光が、美術室の床に落ちているのをぼんやりと眺めていました。
「ねぇ、マリルノ。私も聞いて欲しい話があるの」
しばらくしてスコッテはそう言い、立ち上がりました。
それから幾つもの絵がおさめられている棚から、一枚を引き抜きました。
「これ……私が描いたの」
「えっ、すごいです!」
それは、とても素敵な絵でした。
黄や紫、赤、緑などが美しく光る花畑を背景に、一人の女性がこちらを振り向いて立っているという情景でした。
背景はかなり仕上がっており、また中心にいる人物も全身が描き込まれているのですが、唯一、顔の部分だけが空白で、まだ手付かずの状態でした。
「この絵、描いてたの。昼とか放課後とか」
スコッテは気恥ずかしそうに言いました。
「そうだったんですね」
「うん」
「これは、芸術科目の課題ですか?」
「ううん」
「あれ、でもマリルノって美術部ではなかったですよね……?」
そういうとマリルノは、唇を尖らせました。
「だって、マリルノばっかりいつも予定がたくさんあるの、悔しかったんだもん。
遊びに行こうって言っても、ふられるのはいつも私の方だし。
だから、私も何かしようと思って。
先生に相談したら、絵を描いてみるのがいいんじゃないかってすすめられて、この準備室を自由に使っていいから、少しずつでも進めてごらん、って……」
私は芸術は音楽を選択していたので、スコッテがこんなに素晴らしい描き手だったことは全く知りませんでした。
照れくさそうに絵の前でたたずむスコッテの表情を見ながら、何でも分かっているようであっても、まだまだお知らないところがたくさんあるのだなと、私は当たり前のことに改めて気付かされました。
「ねぇ、この絵、誰がモデルだと思う?」
スコッテが楽しそうに尋ねてきました。
「スコッテのお知り合いですか?」
「もちろん」
「えっと、ちょっと待ってください」
私は頭の中で何人かのクラスメートを思い浮かべました。しかしどの人を絵にあてはめてみても、あまりぴんときません。
私は降参しました。
「分かりません、どなたですか?」
「えー、わかるでしょう。
マリルノだよ」
「あぁ!」
私はぽんと手を叩きました。自分という候補が、頭の中ですっかり抜けていました。
「うわぁ、嬉しいです、ありがとうございます」
「そう。へへ」
スコッテは鼻の先をこすりました。
「いつも見ているから、マリルノだったらよく描けるとおもったんだ。でもさ、描いてみたら思ったより難しくて。ちょっとつまっちゃっててさ。
それで、長期休暇を利用して、マリルノと一緒にいろんなところにいけたらなって思ってたんだ。
そうすればいろんな表情のマリルノが見れるからさ。
ほら、なんていうの? そう、インスピレーションもすごく湧くんじゃないかな、って思ったんだよね」
「そうだったんですね。それなのに、私……」
「ううん、もう大丈夫。
それより、マリルノがちゃんと話してくれたから、すごく安心した。
だってマリルノ、いつもは自分のこと、全然、話してくれないんだもん」
「そうですか?」
私は首を傾げましたが、思い当たる節もありました。
たしかにこれまでも、何人かの人からそのようなことを指摘されたことがあったので。
隠すつもりは毛頭ないのですが、自分の話なんかしても相手は興味ないだろうなと思ってしまい、どうしても聞き手に回ってしまうことの方が多い気がします。
「じゃあこれからは話すようにするので、また今日みたいに、聞いてもらってもいいですか?」
スコッテはにこりと笑いました。
「もちろん!」
ゴーン、ゴーン、ゴーン……
チャイムの音がなりました。
いつの間にか話し込んでいて、すっかり時間を忘れてしまっていました。次の授業まで、あと十分という合図です。
「ああ、そろそろ教室に戻らないとだね。よかった。別にけんかしていたわけじゃないけど、またマリルノと友達に戻れたみたいで嬉しい」
スコッテが呟いたのを聞いて、私はこれまで、随分寂しい思いをさせていたのだなと痛感しました。
荷物をもって美術準備室を出ようとするスコッテの腕を、私は掴み、引き留めました。
「ん? なに、マリルノ」
「スコッテは午後から、何の授業をとっていますか?」
「え? 化学と経済だけど。どっちも面倒くさいなぁ……」
「一緒にさぼりませんか?」
「え?」
スコッテは目を丸くしました。
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