とりあえず異世界を生きていきます。

狐鈴

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突然の招待

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「ふあ~……よく寝た」

 おはようございます、シラハです。
 目が覚めたら、ささっと着替えてー…と。

「あ、母さんおはよう」
「あらシーちゃん、おはよう」

 起きて、部屋を出ると母さんと遭遇。
 こういう時は、おはようのハグを母さんがしてきたりする。
 まだ眠気が残ってるから、母さんの体温でぬくぬくすると眠くなっちゃうんだよね。
 でも気持ちが良いからハグするんだけどね。

 母さんは私を抱きしめるのが気に入ってるのかな?
 眠ってたり意識失ってたりすると、抱きしめられてる事が多いんだよね。
 というわけで今日もギューっと抱きついてみる。――ん?

「母さん、今日調子悪い?」
「え、そんな事ないわよ?」
「そうなの?」

 ふむ……毎日とは言わないけど、時々ハグしてる私の気のせいという事もないと思うんだけど……
 いや、私の体温が高いという可能性もあるか……

「母さんの身体…少し冷えてる気がするの」
「自分では分からないけれど、シーちゃんが言うのならそうなのね……。でも心当たりがないわ」
「他の竜でも、そういう事ってあるの?」
「さぁ……私は聞いた事がないけれど、一応ガイアスにも聞いてみましょうか」
「うん」

 そして、すぐに父さんを起こして母さんの身体の変調を伝える。

「ふむ……確かに少し体温が低い気がするな。だがレティーツィア自身に自覚がないのなら、様子見するしかあるまい」
「大丈夫なの?」
「念の為、マグナスにも聞いてみるが奴も知らんだろうな」
「そっか……」
「シーちゃん、大丈夫よ。身体は普通に動くし問題ないわ」

 私が不安そうにしていると、母さんが優しく頭を撫でてくれる。

 母さんに気を遣わせてどうするんだよ私!
 普通に…そう普通にしてなきゃだよ。本当にたまたま体温が低いだけかもなんだし。
 私は竜の生態に詳しいわけじゃないんだし、私に出来ることは日常生活の中で母さんの体調を気にかける事くらいだ。

 でも一日ずっと母さんに張り付いてても気を使うだけだろうし、
それなら今日もいつも通りに過ごすだけだ。



 よし! 朝ご飯食べて、リューダスさん達をやっつけに行くぞー!

 

 そして今日もいつも通りリューダスさん達に負けて、スキル練習の為にぶらぶらと魔物を探す。

 今日は、あまり戦いに集中出来てなかったなぁ……

 私は魔物を探しに森を彷徨いながら一人反省会をする。うーん……魔物でスキル練習もやめておこうかな。身が入らない……

 なんだかんだと母さんの体調が気になってるのは分かるんだけど、こういう時はどうやって気を紛らわせたもんかなぁ。
 集落には本も無いし、何かを調べる事も出来ない。
 まぁ竜について調べたくても、人が書いた本に手掛かりがあるとも思えないんだけど……


「あれ……ここ何処だろ。いつもより奥に来ちゃったかな……?」


 反省会したり、ぼんやり考え事をしながら歩いていたら、知らない場所に来てしまった。
 魔物も見つからないし、なんか今日はダメダメだ。

「空飛べるから迷子になる心配はないけれど、今日は切り上げて帰ろうかな……」

 仕方がないので空でも飛んで帰ろうかと考えていると【側線】が微かな音を捉えた。

 私は音が聞こえる方へと歩いて行くと、木々が途切れて小さな岩山が目の前に現れた。
 聞こえてきた音は、その岩山にできた裂け目から鳴っている。
 風の音かな?

「ん~……奥は光が見えないけど、反対側にでも通じているのかな?」


 裂け目を覗いてみても、分かる事はない。
 少し興味を惹かれた私は気分転換も兼ねて、裂け目へと入ってみる事にした。
 小柄な私が窮屈に感じるくらいだし、父さん達じゃ入れないだろうなぁ。


「くっ……小さい身体に感謝する日がくるだなんて……」


 ちょっと自己嫌悪しつつも、どうにかこうにか裂け目を通っていくと、裂け目の奥には何も無い空間が広がっていた。


「なんだろう……自然にできたって感じじゃないような気がするけど」


 一応、周囲を警戒しつつ周りを見渡していると、ポツンと扉が置いてある事に気が付いた。


「扉? 裏側には何も無いし……何の為の扉なのかな?」


 その扉の周りをぐるっと見て回ってみたけれど、私の目にはただの扉がそこに置いてあるだけのようにしか見えない。
 明らかに人の手が加えられた物だし、もしかすると竜人族が設置した物なのかもしれない。
 何か宗教的な意味があるかもしれないし、長居はしない方がいいかな?

 とりあえず現時点で分かる事はないので、帰ったらクーリヤさんにでも聞いてみよう。

 私は最後にペタリと扉に触れてみる。すると唐突に景色が切り替わった。

「え…此処は……」

 私は今、真っ白いだけの空間にいる。

 私は此処を知っている。
 そう【主の部屋】で訪れる迷宮核の内側の世界だ。

 でも何で今、此処に居るのかがわからない。
 いや、さっきの扉に触れたから…であろう事は分かる。

 けれど此処は迷宮核の内側ではない。それは感覚的に理解できる。
 でも、それに近い場所であるとも認識している。

「お~、漸く来おったか」

 いきなり聞こえた声に私が振り返ると、そこには動物の耳を生やした女性が立っていた。
 よく見ると後ろから狐のような尻尾がぴょこんと出ている。

 もしかして獣人……というヤツなのではないのだろうかっ!

「驚いておるようじゃの……薄々勘付いているであろうが、妾がお主を此処へと呼んだのじゃ」

 目の前の女性が私を呼んだ?
 少し得意気な感じで、そう言った彼女は嬉しそうに尻尾が動いている。
 あの尻尾に触りたいなぁ……

「お主……聞いておるのか?」
「ちゃんと聞いてますよ、貴女が私を呼んだんですよね。――あ、尻尾触って良いですか?」
「良くないわ! 話を聞いていれば、触って良いとでも思ったか!」

 残念……減るもんじゃないし少しくらいいいじゃない。とか思ったけど私も自分の翼を触られるの苦手だったわ。
 やっぱり遠慮しておこう。そうしよう。

「触られるとこそばゆいですもんね。いきなり変な事を言ってスミマセンでした」
「わ、わかれば良いのじゃ。……コホン。それより妾がお主を此処へ呼んだ理由なんじゃが……少しくらい心当たりがあるじゃろ?」

 心当たり……?
 全然全くもってないんだけどなぁ。

「扉を触った事くらいしかないんですけど……」
「あの扉を触ったから此処に連れて来られたのは確かなんじゃが……まあよい。お主を此処へ呼んだのは、テラに飛ばされた魂と直に会ってみたかったからじゃ」
「テラ?」

 聞いた事ないなぁ、と思ったのは一瞬だけ。
 その後の「飛ばされた魂」という言葉で、なんとなく理解した。

「テラって、私をこっちの世界に転生させたドS様……?」
「なんじゃ、そのドS様とは……」

 あれ、違ったかな?
 以前、変異種に殺されかけたあたりで、その辺の事を思い出した。
 その後すぐに死闘だったから、すっかり忘れてたけども。

「テラはお主らの言葉で言うと神……という事になるの。お主がこちらに生まれ落ちる前の世界での神の名じゃ」
「そんな名前だったんですね」
「興味薄そうじゃの……」
「まぁ……」

 私があのドS様に仕返しが出来るとも思えないしね。
 それにしてもテラか……何というか安直な名前だ。私も名付けでどうこう言えないけどさ。

「それで、私と直接会ってどうするんです?」
「実際に会ってみて人となりを知りたいと思っておるだけじゃ。それにお主の生まれについては、多少なり思うところがあるからの。少しくらいなら知りたい事に答えてやってもよい」
「えっ本当ですか! なら私の母さんの体調について教えて欲しいんですけど!」

 やった! まさかこんな所に母さんの調子についての手掛かりがあるなんて……!

「ああ、待て待て。答えるのはお主の事だけじゃ」
「えっ……」

 せっかく聞けると思ったのに……コイツ使えねぇ。

「お主…今、物凄く無礼な事を考えておらぬか?」
「全然まったくこれっぽっちも考えてませんよ」

 私の思考が筒抜けってわけじゃないのか。危なかった。
 メチャクチャ失礼な事を考えてたよ。

 えっと、それより質問質問……

「私の事って言うと……」
「例えば、お主の力…異能とでも呼べば良いかの? アレの事についてなら妾が理解しておる範囲でなら教えてやろう」
「……なんで、その事を知っているんですか?」

 相手は前世での神の事を知っているし、不思議ではないけれど少し身構えてしまう。

「それくらい知っておる。なにせ妾はこの世界の神じゃからのう!」
「あー…やっぱりそうなんですね……」
「なんじゃ、その気の抜けた反応は!?」
「えー……だって自称神様って碌な性格してないじゃないですか」
「自称ではないわ! 妾は神じゃ! あと、お主が知っておる神などテラしか居らぬではないか! あんなヤツと妾を一緒にするでないわ!」

 凄い剣幕で怒られた。
 私って神様を怒らせる才能があるのかもしれない。
 下手すると今度は地獄にでも落とされちゃうんじゃない?

「えっと……貴女は良い神様なんですねーすごーい」
「なんかぞんざいな扱いをされておる気がするんじゃが……」
「気のせいです、気のせい。神様はあまり細かい事を気にしない方がいいですよ」
「そ、そうか? なら先程の発言は忘れてやるのじゃ」

 この神様チョロいな。

「お主、今……」
「気のせいです」

 鋭いな神様。
 変な事を考えるとバレるかもしれないから、話を変えよう。

「じゃあ、話を戻しまして……私の力ってなんですか?」
「それはのぉ……あんの馬鹿者っ…! テラが大きく関わっておるのじゃ……」

 あ、神様が急に遠い目をして語り出した。

「ある日、妾が魂の流転の処理をしておった時の事じゃ……。いきなり妾の世界に異物が飛び込んできおったのじゃ……!」
「その異物って、もしかして……」
「お主じゃ!」

 ズビシ! と私を指差す神様。
 そっかー……私って異物扱いだったのか。……ひどいっ!

「その時は何が飛び込んできたかは分からんかったのじゃが……兎にも角にも、まずは世界と世界の間にある壁の修復に従事したのじゃ。アレに穴が空いたままじゃと、フラッと変なモノが迷い込むのでな」

 壁って言うとアレかな?
 私がこっちの世界に来る時に何かが割れたような音が聞こえたし、その何かが神様の言う壁なのかもしれない。

「神様も大変なんですねぇ……」
「それもこれも、あのテラが壁に穴を空けおったのが原因なのじゃが……! とりあえず彼奴からは賠償として魔力をふんだくってやったわ!」
「おお~! あのドS様にやり返してくれたのなら少しは溜飲も下がりますね。さすが神様です」
「ふふん! そうじゃろそうじゃろ」

 少し褒めてあげると神様が満更でもなさそうな表情をする。
 扱い楽だなぁ……

「しかし……」

 急に神様の表情が暗くなった。尻尾もへんにゃりしてる。

「テラから魔力をふんだくった後に、お主を見て驚いたわ……! どれだけの魂を詰め込めば、あそこまで肥大化した魂になるのじゃ! 初めて見た時、妾がどれほど驚いたことか……一度、世界に根付いた魂に妾が直接介入するわけにもいかんし、様子見するしかないと思っておったんじゃが、よりにもよってあんな特殊な肉体じゃったとは思いもせんかったわ!」
「なんかスミマセン?」
「テラの癇癪には困ったものじゃが、お主の肉体には本当に頭を悩まされたわ」
「じゃあ、もしかして私の力って神様が何かしてくれたんですか?」
「そんな訳あるか! お主の肉体については後になって分かった事じゃ。でなければ、そんなトンデモ能力を放置なぞするわけがなかろう!」
「神様がチート能力くれるのって、結構良くある話じゃないですか?」

 私が知ってる小説だと、そんな感じだったし。

「憐れみで特殊な能力与えておったら、世界が滅茶苦茶にされるわ!」
「じゃあ、なんで祝福なんて与えてるんです?」
「与えたくて祝福があるわけではない! あれには妾も困っておるのじゃ……。魂の力は均一化して流転させておるが、魂が宿る器……肉体の方は妾が干渉する事ができん」
「それじゃあ祝福は肉体に備わった能力って事なんですか?」
「そうじゃ。力を磨いた者同士が交配して魔力の高い子が生まれる。それを繰り返した結果が、あの祝福なのじゃ……」

 なんか神様がこめかみを押さえている。
 本当に困った、という雰囲気だ。

「昔はそういった者達が王族だの貴族だのを名乗っておったが……。今は形骸化しておるし、何処の誰が祝福を発現するかも分からんが、それらを戦力として考えておる奴らが多くて困っておる……」
「具体的には、どう困るんです?」
「そうじゃな……国がそれらを使って戦争を起こすじゃろ? そしたら人が沢山死ぬじゃろ? そして魂が妾の所に大量に流れ込んでくるじゃろ? ……もう、あのような事態だけは勘弁して欲しいのじゃ~!」

 神様が頭を抱えて喚いている。
 さっきからコロコロ表情が変わって面白い。

 さっき魂の流転の為の処理とか言ってたけど、何千何万もの魂が雪崩れ込んできたら、その処理にどれだけの労力が掛かるんだろう……


 連日連夜、徹夜のデスマーチ……か。


 神様って大変なんだなぁ。









//////////////////////////////////////////////////////

後書き
シラハ「まさかの神様登場……!」
狐鈴「そういう展開もあるよねー」
神様「あなたが神か……」
狐鈴「…………はい」
シラハ「はい。じゃないでしょ! あんたはただの駄狐じゃん!」
狐鈴「シラハが酷すぎる!」
神様「そういえば作者は、何か知らせる事があると言っておらんかったか?」
狐鈴「そうだった! 少し前のお話で、シラハが温泉の排水処理で地下水脈に排水を流したって言ってたんですけど……」
シラハ「やってて思ったけど、アレって普通に良くないよね?」
狐鈴「温泉施設では色々と処理してから川に流したりしてるみたいなので、シラハがやったのは違法だと思うよ」
シラハ「言われたとおりにやっただけなのにっ!」
狐鈴「なので【潜影】と【丸呑み】のスキルを使って、ゴックンして片付けた、という感じに修正してあります」
シラハ「いつだか貴族を飲み込んだ時みたいな使い方だね」
狐鈴「シラハは雑食系だから、どこでも生きていけそうだね」
神様「二人のせいで手直ししたが、事後報告になってすまぬのじゃ」
シラハ・狐鈴「スミマセンでしたー!」


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