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綺羅 きらり

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side A 夢から覚めて

「うぅー...」

 アシュリーは目覚めると割れそうに痛む頭に呻き声を漏らした。理由はわかっている。昨日飲み過ぎたことによる二日酔いだ。大して強くないと分かっていたのに婚約者となったライオスの屋敷に移り、半年も過ぎたのにもかかわらず未だ慣れない、新しい家にも、ライオスにも。その日々のストレスが溜まりに溜まって爆発してやけ酒してしまったことに後悔するも時すでに遅し。

 (今何時だろう)

 起きて婚約者であるライオスより先に朝食の席についてなければならないが確実に寝過ごした気がする。
 
 でもあれ?と思う。飲んだのは飲んだけどあれは夢ではなかったのか。アシュリーはガンガン響く頭を押さえながら体を起こし重い瞼を開けた。


「なにこれ」

 アシュリーの目に広がるのは見たこともない風景だった。今座っているベッドを見る、小さい。アシュリーの寝室と比べ物にならないほど小さい。その上見たこともない何かが所狭しと並んでいる。

 ぐるりと部屋を見回し、写真たての中で笑う理沙を見つけて目を見張った。

「...嘘」

 あれは夢だ。夢であったはず。
 痛む頭がこれは現実だと言っているようで不安に襲われる。

「本当に入れ替わっちゃったのかしら」

もしそうだとしたら家族が心配してるだろう。父、母、兄3人の顔が浮かぶ。そして婚約者ライオス、彼もまた心配してくれているだろうか。いや、いなくなったことにも気づかないかもしれないと考えて悲しくなる。

アシュリーはポスっとベッドに横になると現実逃避すべく目を閉じて故郷に想いを馳せた。

昨夜はいつも通り夕食後自室に戻り、着替えてベッドに入った。ひんやりとするベッドに1人横になるとアシュリーは決まって泣きたくなる。26歳になったアシュリーに上がった遅すぎるとも言える縁談の話。兄3人の中生まれた待望の女の子であったため家族皆から溺愛されて育ち、結果婚期も遠のいていくのは必然だった。
そんな中舞い込んだ婚約相手に不足は無かった。むしろ社交界で年頃の女の子達の憧れの的だった騎士団長ライオス・ルガラントだったからだ。最初こそ胸をときめかせていたがそれも本当に最初だけだった。何が辛いって相手に全くその気がないのが分かったからだ。
婚約が決まり、半年経った今も手の一つも触られたことも、甘い時間を過ごすこともない、朝食と時間が合えば夕食を一緒にするだけ、話すことも次第に事務的なやり取りのみになっていった。

 恋愛結婚ではないにしてもアシュリーはそれなりに結婚生活に夢をみていた。結婚してから移って来ればいいとライオスに言われたが婚約期間中に徐々に愛を深めることができればと思いライオスの屋敷に移り住んだのだがライオスはほとんど家におらず、2人の関係性は平行線のままただ時間だけが過ぎアシュリーは次第に自信をなくしてしまった。かと言って破談になんかできるわけもなく、いつも忙しくしているライオスの前では迷惑をかけないよう聞き分けの良い婚約者を演じ続けたが、既に寂しさで心が折れそうだった。

そんな中見た夢でリサと意気投合し、ついつい楽しくなって飲み慣れないお酒を飲みすぎてしまったのだ。

理沙はどうしてるだろうと考えた時、ガチャガチャと響く音にアシュリーはびくりと体を起こした。

ドアが開く音と共に男の声も聞こえてくる。アシュリーは音がする方から目を逸らすことも身動きすらもとることができない。


「理沙ーなんで電話出ないんだよー」
(どうしようっ)
「今日出かける約束してただろー......って...酒くさっ!!?」


慣れたふうに靴を脱いで部屋に上がった徹の目に映ったのは、そこにいるはずの理沙ではなく金髪美女と漂うアルコール臭だったことに驚きつつもどうもと会釈する。
理沙ー?とキョロキョロして部屋に声をかけるが反応はない。徹は理沙の不在にため息をこぼし、微動だにしないアシュリーに視線を戻した。
こぼれ落ちそうなほど目を見開いたまま動かないアシュリーの目の前でひらひらと手を振って声をかける。


「おーい」
「….」
「理沙のお友達?はじめまして。俺理沙の彼氏の徹って…」
「っ!」


怪しくないですよーという気持ちを込めてにこやかに話しかけた徹の言葉にアシュリーの体がびくりと震えた。


「…トール?…リサが昨日」
「あ、俺のこと聞いてた?よかったー!」


無反応だったアシュリーが反応してホッとしたのか梨沙どこ行ったの?とか、今日約束してたの忘れたのかなーなど、主のいない部屋で知らない人と2人の空間の気まずさを打ち消すかのように矢継ぎ早に話しかけるが、アシュリーの大きな目からぽろりと涙がこぼれ落ちたのを見て徹は固まった。
ぽたっぽたっと静かな部屋に涙の落ちる音が響く。そして堰を切ったかのように、わっと顔を覆って突然大泣きを始めたアシュリーに慌ててティッシュ箱を探す。


「なんなんだよーもー!」


わけわかんねー!と、泣きたいのはこっちだと徹は頭を抱えるしかなかった。

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