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綺羅 きらり

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06 信じられない

ライオスの帰宅を知らされると同時に応接間だろうか、品のいい調度品が並ぶ部屋に通される。
部屋に入るとソファに仕事帰りのままであろう軍服を身に纏ったライオスが座っている。座っていても鍛え抜かれた身体は隠せない、切れ長の青い瞳が理沙を捉える。「顔はいいのよ顔は」と言っていたアシュリー思い出す。いいのは顔だけじゃないと目が合っただけで顔が赤くなりそうなので急いでライオスの向かいのソファに焦点を合わせて座る。
では聞こうか、とピリついた空気を隠そうともしない。部屋にはライオスの側に執事風の男性に加え、警戒してますって雰囲気の若い男性が理沙の背後を固めたことに緊張したが、理沙の分の紅茶も用意してくれたことが一応は客人として対応してくれるように感じ、ほんの少し緊張を解く。



「———で、今にいたります」
「…とてもじゃないが」


信じられないと続けるライオスのに、ですよねーと理沙は乾いた笑いをこぼす。昨夜の出来事を再度説明したがまたも一蹴されてしまった。

もちろん散々パートナーの愚痴を言い合った挙句、チェンジしようなんて大盛り上がりしたところは割愛してある。



「本当なんです!理解できなくても納得いかなくても本当なんだから信じてもらうしかないんです!」


実際理沙も〝夢で扉あけたら美女がいてー、中身のなくならない不思議なグラスで酒をしこたま飲んでー、意気投合して盛り上がってー、酔っ払って寝落ちしたらー、なんと!起きたら違う世界にいたんですよー〟なんて言われても頭ヤバイ人?と思うだろうからライオスの反応はごもっともだと思うからしょうがない、しょうがないけど信じてもらわないと非常に困る。
鼻がツンとするが真偽のほどを見定める目で見るライオスの前で泣きたくはなかった。
負けるもんか泣くもんかと理沙は精一杯の虚勢を張るため背筋を伸ばして歯を食いしばる。



「そもそも彼女は酒を飲まない」
「浴びるほど飲んでましたが」
「…….」
「…….」

「彼女は大人しい女性だ」
「手叩いてバカ笑いしてましたが」
「…….」
「…….」


ライオスの言葉を食い気味に切り捨てる。
どうにもライオスの描いているアシュリー像と理沙の見たアシュリー像に食い違いが生じているようで、ライオスにはそれが信じがたいようだった。

ライオスはアシュリーが飲めないというが昨夜の酒量は飲めない人が飲む量ではなかった。
飲めない人間であれば確実に倒れるであろう量を飲みまくっていたと思う。
理沙と会った時点で既に酔っていたにも関わらず、合流してからも10人中10人に強いと言われる理沙と同じ量を飲んでいた。
その理沙が酔い潰れる程だからアシュリーが弱いわけがない。
ライオスの眉間の皺を気にしつつも、理沙は少しでも信じてもらえる要素となってもらえればと昨夜のことを思い出すだけ全て書き殴った紙を取り出した。


「それは?」
「昨日のことを思い出せる限り書き出したメモです」
「見せてみろ」


文字通り書き殴ったのでお世辞にもキレイとは言えない字の上アシュリーから聞いたライオスの特徴、むっつり、顔はいいなど見せるのは非常に抵抗があったので拒否する。催促してくる手に渋々汚い字で読みにくいと思いますのでとメモをライオスから取られないように身を引くと後ろにいた男にメモを取られてしまった。
そのままメモはライオスの手に渡るとメモを見て顔が険しくなったかと思うと理沙に探るような目を向けてきた。


「汚いも何も、まるで読めない」
「それはそれは失礼しました!」


汚いと断ったこにと理沙はムッとしてメモを取り返そうと伸ばした手は取られまいとするライオスによって空振ってしまい、悔しさからついライオスを睨んでしまう。
先に目を逸らしたのは意外にもライオスの方だった。


「いや、上手い下手もわからない。全く知らない文字だ。生まれはどこなんだ?」
「どこって日本だけど…そういえば普通に話しできてたから気にしてなかったけど、日本語話してます?」
「…日本語」


最初に感じた違和感はあまりにも普通に会話できてるせいで無くなっていたが確かに変だと理沙も思い出した。
ライオスもメモを見せたり控えている男性に聞くが皆静かに首を振るだけだった。
ライオスは紙とペンを用意させるとサラサラと紙に文字を書きそのまま理沙に手渡した。


「読めるか」
「えっと…」
「どうだ?」
「…嘘つきには天罰が下るだろう。ってだから嘘じゃないですってば!」
「そのまま同じように書いてくれ」



言われるがまま渡されたペンで同じように書く。
それを見たライアスは急に黙り込んでしまった。
急に黙られると不安になり、理沙はペンを握りしめたまま返答を待つ。

心臓の音が外に漏れてるのではないかと思うほど早く打っている。ライオスは疲れたかのように目頭を押さえてため息を吐いた。


「ひとまず今日は保留にさせてくれ」
「えっ」
「部屋は別に用意するからそこを使ってくれ。食事も運ばせるしバスルームもあるから部屋からは出ないように。見張りも付けさせてもらう」
「信じてもらえるってこと?」


ライオスは否定も肯定もしなかった。
立ち上がると部屋を出て行こうと背中を向けるが、数歩進んで足を止めて振り返った。
去って行く背中を目で追っていた理沙の視線と交わる。



「最後に一つ聞きたい」
「はい」
「彼女はいまどこに?」
「多分ですけど、私の部屋じゃないかと」
「君の?」

「私がアシュリーの部屋にアシュリーは私の部屋に。きっとチェンジしたんだと思います」
「…そうか」



呟くようにそう言うとライオスはそのままもう振り向くことはなく部屋を出ていった。
部屋に残された理沙は与えられた部屋に促そうとするマリーの声も聴こえず、しばらくの間ライオスが出た扉から目を離すことができなかった。

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