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綺羅 きらり

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05 我慢できない

理沙は目を覚まし、身体のだるさよりも渇きに耐えきれずベッドから体を起こした。目の前に広がる整然とした部屋に泣きたくなった。ライオスはいなくなったものの、おかれている現状は変わってない。部屋から出るのはまずいかとは思うが水分を摂らないと気持ち悪過ぎて吐きそうだった。理沙はベッドから降りようとして、サイドテーブルの上にグラスとピッチャーが置かれていることに気がついた。

(水だよね...きっと)

理沙は訝しげにそれらを睨む。ライオスの先ほどの態度から考えて理沙のために用意するなんてそんな親切をするはずがない。しばらく考えたものの、渇きを我慢できずピッチャーを掴みグラスに注ぐとその中身は水のようだった。

不安はあったものの、確かめるように少しだけ口に含むとゴクリと音をならして飲み込んだ。そしてそのまま残りを一気に飲み干した。ぷはっと一息ついてからもう一杯飲み干す。ほのかに柑橘の香りのする水は清涼感があり、結局三杯ほど飲み干してからグラスを置いた。

(お腹すいた)

渇きは治ったが今度は空腹にお腹をさする。飲み過ぎた次の日はお腹が空くのはなぜだろう。水があるなら食べ物もあるかもと理沙は部屋を見回した。

「...っ!?」


扉の手前で微動だにしないマリーに気づいて理沙は目を見張った。ライオスからの指示で監視させられていたマリーが警戒を含んだ声で理沙に声をかけた。

「な、何かお探しでしょうか?」

恐る恐る尋ねてくる声は小さく震えている。

「お腹が空いて...水があったから食べ物もあるかと思って」

正直に伝えるとマリーは「左様ですか」と呟く。

「お水は旦那様のご指示でご用意致しました」

理沙はマリーの言う旦那様がライオスを指しているだろうと理解してまさか彼が水を用意するように言ってくれていたことに驚いた。置いてあったものが残っていたと思っていた。そう言われてみれば確かに先ほど飲んだ水はひんやりと冷たかったなと思った。

「旦那様からあなたを見張っているようにと言われてますので...」

そう続けたマリーの言葉に、食べ物は用意できないという意味が暗に込められていると理沙は悟った。

「そう...でもお腹が空いて死にそう」

大げさかもしれないが理沙は本気で思っていた。この空腹をいつまで我慢しないといけないのか考えるだけでぞっとする。マリーは理沙の言葉に困ったように眉根を寄せた。

「ここから一歩も動かないって約束するので何か食べ物いただけませんか?」

それで食べ物が手に入るのなら本当に動くつもりはない。理沙の訴えかけるような目に、マリーの心は揺れているようだった。もう一声かと思い理沙は思いついた事を提案する。

「なんならもーここに縛ってくれてもいいから」

空腹を通り越してもはや吐き気をもよおしているので理沙は天蓋のポールを握りしめてマリーの反応を待った。

「そ、そんなこと」

マリーは焦ったように言った後「わかりました」と言って慌てて部屋を出て行った。意外にあっさり了承してくれたことにほっとしつつ約束通り理沙はその場で動かずに待つことにした。

どのくらい待ったのか、空腹のおかげで永遠にも感じる待ち時間は扉のノックによって終わりを告げた。

「おまたせいたしました!」

軽く息を弾ませ、トレーを手にマリーが戻ってきた。何が乗ってるのかはまだ分からないが、何でもいいから早く欲しい。理沙はポールを掴んでいた手を離すとベッドから降りてマリーに向かって行こうとして、止まった。マリーが怯えるように一歩下がった。その拍子にトレーの上の食器が小さく音を立てた。

「えっと、そこのテーブルに置いてもらえます?」

理沙は不審者でしかない自分の一挙手一動がマリーを怯えさせてしまっているようで申し訳なく思った。ソファの前にテーブルを見つけ、そこを指差す。理沙はその場でマリーがトレーをテーブルに置いて離れるのを待ってからソファに座った。

(いい匂い)

トレーに乗ってたのは具の入ったスープと数切れのパンだった。いい匂いを放つスープに口の中に涎が広がる。たまらずスプーンを取ると「いただきます」と口に運んだ。野菜のエキスが胃に染み渡る。理沙は続けて何口か食べると、はっとしてマリーの方を見た。扉の前が定位置なのか最初に見つけた時と同じ位置から理沙をマリー曰く見張っていた。

「ごめんなさい、お腹空きすぎてて言い忘れてた。持ってきてくれてありがとうございます」

理沙は微笑むとお礼の言葉を口にした。持ってきてくれた時に言うべきだったと思うがそんな余裕はなかった。マリーは驚いたように目を瞬かせた後こくりと頷きで返答した。


ライオスが来るまでに考えをまとめておかないといけない。自分でも信じられないことを信じてもらわなくてはいけないのだからしっかり話をするために紙に書いておいた方がいいかもしれない。夢は忘れるもの。理沙は鮮明な記憶があるうちに夢でのことをメモすることにした。マリーには申し訳ないが用意してもらわないといけない。

「すみません、紙と何か書くものありますか?」

用意してもらった紙とペンとスープを見比べる。行儀が悪いとは思いつつ理沙は食事を止めることなく、昨夜起こったことを思い出しながらペンを走らせた。

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