5 / 8
05 我慢できない
理沙は目を覚まし、身体のだるさよりも渇きに耐えきれずベッドから体を起こした。目の前に広がる整然とした部屋に泣きたくなった。ライオスはいなくなったものの、おかれている現状は変わってない。部屋から出るのはまずいかとは思うが水分を摂らないと気持ち悪過ぎて吐きそうだった。理沙はベッドから降りようとして、サイドテーブルの上にグラスとピッチャーが置かれていることに気がついた。
(水だよね...きっと)
理沙は訝しげにそれらを睨む。ライオスの先ほどの態度から考えて理沙のために用意するなんてそんな親切をするはずがない。しばらく考えたものの、渇きを我慢できずピッチャーを掴みグラスに注ぐとその中身は水のようだった。
不安はあったものの、確かめるように少しだけ口に含むとゴクリと音をならして飲み込んだ。そしてそのまま残りを一気に飲み干した。ぷはっと一息ついてからもう一杯飲み干す。ほのかに柑橘の香りのする水は清涼感があり、結局三杯ほど飲み干してからグラスを置いた。
(お腹すいた)
渇きは治ったが今度は空腹にお腹をさする。飲み過ぎた次の日はお腹が空くのはなぜだろう。水があるなら食べ物もあるかもと理沙は部屋を見回した。
「...っ!?」
扉の手前で微動だにしないマリーに気づいて理沙は目を見張った。ライオスからの指示で監視させられていたマリーが警戒を含んだ声で理沙に声をかけた。
「な、何かお探しでしょうか?」
恐る恐る尋ねてくる声は小さく震えている。
「お腹が空いて...水があったから食べ物もあるかと思って」
正直に伝えるとマリーは「左様ですか」と呟く。
「お水は旦那様のご指示でご用意致しました」
理沙はマリーの言う旦那様がライオスを指しているだろうと理解してまさか彼が水を用意するように言ってくれていたことに驚いた。置いてあったものが残っていたと思っていた。そう言われてみれば確かに先ほど飲んだ水はひんやりと冷たかったなと思った。
「旦那様からあなたを見張っているようにと言われてますので...」
そう続けたマリーの言葉に、食べ物は用意できないという意味が暗に込められていると理沙は悟った。
「そう...でもお腹が空いて死にそう」
大げさかもしれないが理沙は本気で思っていた。この空腹をいつまで我慢しないといけないのか考えるだけでぞっとする。マリーは理沙の言葉に困ったように眉根を寄せた。
「ここから一歩も動かないって約束するので何か食べ物いただけませんか?」
それで食べ物が手に入るのなら本当に動くつもりはない。理沙の訴えかけるような目に、マリーの心は揺れているようだった。もう一声かと思い理沙は思いついた事を提案する。
「なんならもーここに縛ってくれてもいいから」
空腹を通り越してもはや吐き気をもよおしているので理沙は天蓋のポールを握りしめてマリーの反応を待った。
「そ、そんなこと」
マリーは焦ったように言った後「わかりました」と言って慌てて部屋を出て行った。意外にあっさり了承してくれたことにほっとしつつ約束通り理沙はその場で動かずに待つことにした。
どのくらい待ったのか、空腹のおかげで永遠にも感じる待ち時間は扉のノックによって終わりを告げた。
「おまたせいたしました!」
軽く息を弾ませ、トレーを手にマリーが戻ってきた。何が乗ってるのかはまだ分からないが、何でもいいから早く欲しい。理沙はポールを掴んでいた手を離すとベッドから降りてマリーに向かって行こうとして、止まった。マリーが怯えるように一歩下がった。その拍子にトレーの上の食器が小さく音を立てた。
「えっと、そこのテーブルに置いてもらえます?」
理沙は不審者でしかない自分の一挙手一動がマリーを怯えさせてしまっているようで申し訳なく思った。ソファの前にテーブルを見つけ、そこを指差す。理沙はその場でマリーがトレーをテーブルに置いて離れるのを待ってからソファに座った。
(いい匂い)
トレーに乗ってたのは具の入ったスープと数切れのパンだった。いい匂いを放つスープに口の中に涎が広がる。たまらずスプーンを取ると「いただきます」と口に運んだ。野菜のエキスが胃に染み渡る。理沙は続けて何口か食べると、はっとしてマリーの方を見た。扉の前が定位置なのか最初に見つけた時と同じ位置から理沙をマリー曰く見張っていた。
「ごめんなさい、お腹空きすぎてて言い忘れてた。持ってきてくれてありがとうございます」
理沙は微笑むとお礼の言葉を口にした。持ってきてくれた時に言うべきだったと思うがそんな余裕はなかった。マリーは驚いたように目を瞬かせた後こくりと頷きで返答した。
ライオスが来るまでに考えをまとめておかないといけない。自分でも信じられないことを信じてもらわなくてはいけないのだからしっかり話をするために紙に書いておいた方がいいかもしれない。夢は忘れるもの。理沙は鮮明な記憶があるうちに夢でのことをメモすることにした。マリーには申し訳ないが用意してもらわないといけない。
「すみません、紙と何か書くものありますか?」
用意してもらった紙とペンとスープを見比べる。行儀が悪いとは思いつつ理沙は食事を止めることなく、昨夜起こったことを思い出しながらペンを走らせた。
(水だよね...きっと)
理沙は訝しげにそれらを睨む。ライオスの先ほどの態度から考えて理沙のために用意するなんてそんな親切をするはずがない。しばらく考えたものの、渇きを我慢できずピッチャーを掴みグラスに注ぐとその中身は水のようだった。
不安はあったものの、確かめるように少しだけ口に含むとゴクリと音をならして飲み込んだ。そしてそのまま残りを一気に飲み干した。ぷはっと一息ついてからもう一杯飲み干す。ほのかに柑橘の香りのする水は清涼感があり、結局三杯ほど飲み干してからグラスを置いた。
(お腹すいた)
渇きは治ったが今度は空腹にお腹をさする。飲み過ぎた次の日はお腹が空くのはなぜだろう。水があるなら食べ物もあるかもと理沙は部屋を見回した。
「...っ!?」
扉の手前で微動だにしないマリーに気づいて理沙は目を見張った。ライオスからの指示で監視させられていたマリーが警戒を含んだ声で理沙に声をかけた。
「な、何かお探しでしょうか?」
恐る恐る尋ねてくる声は小さく震えている。
「お腹が空いて...水があったから食べ物もあるかと思って」
正直に伝えるとマリーは「左様ですか」と呟く。
「お水は旦那様のご指示でご用意致しました」
理沙はマリーの言う旦那様がライオスを指しているだろうと理解してまさか彼が水を用意するように言ってくれていたことに驚いた。置いてあったものが残っていたと思っていた。そう言われてみれば確かに先ほど飲んだ水はひんやりと冷たかったなと思った。
「旦那様からあなたを見張っているようにと言われてますので...」
そう続けたマリーの言葉に、食べ物は用意できないという意味が暗に込められていると理沙は悟った。
「そう...でもお腹が空いて死にそう」
大げさかもしれないが理沙は本気で思っていた。この空腹をいつまで我慢しないといけないのか考えるだけでぞっとする。マリーは理沙の言葉に困ったように眉根を寄せた。
「ここから一歩も動かないって約束するので何か食べ物いただけませんか?」
それで食べ物が手に入るのなら本当に動くつもりはない。理沙の訴えかけるような目に、マリーの心は揺れているようだった。もう一声かと思い理沙は思いついた事を提案する。
「なんならもーここに縛ってくれてもいいから」
空腹を通り越してもはや吐き気をもよおしているので理沙は天蓋のポールを握りしめてマリーの反応を待った。
「そ、そんなこと」
マリーは焦ったように言った後「わかりました」と言って慌てて部屋を出て行った。意外にあっさり了承してくれたことにほっとしつつ約束通り理沙はその場で動かずに待つことにした。
どのくらい待ったのか、空腹のおかげで永遠にも感じる待ち時間は扉のノックによって終わりを告げた。
「おまたせいたしました!」
軽く息を弾ませ、トレーを手にマリーが戻ってきた。何が乗ってるのかはまだ分からないが、何でもいいから早く欲しい。理沙はポールを掴んでいた手を離すとベッドから降りてマリーに向かって行こうとして、止まった。マリーが怯えるように一歩下がった。その拍子にトレーの上の食器が小さく音を立てた。
「えっと、そこのテーブルに置いてもらえます?」
理沙は不審者でしかない自分の一挙手一動がマリーを怯えさせてしまっているようで申し訳なく思った。ソファの前にテーブルを見つけ、そこを指差す。理沙はその場でマリーがトレーをテーブルに置いて離れるのを待ってからソファに座った。
(いい匂い)
トレーに乗ってたのは具の入ったスープと数切れのパンだった。いい匂いを放つスープに口の中に涎が広がる。たまらずスプーンを取ると「いただきます」と口に運んだ。野菜のエキスが胃に染み渡る。理沙は続けて何口か食べると、はっとしてマリーの方を見た。扉の前が定位置なのか最初に見つけた時と同じ位置から理沙をマリー曰く見張っていた。
「ごめんなさい、お腹空きすぎてて言い忘れてた。持ってきてくれてありがとうございます」
理沙は微笑むとお礼の言葉を口にした。持ってきてくれた時に言うべきだったと思うがそんな余裕はなかった。マリーは驚いたように目を瞬かせた後こくりと頷きで返答した。
ライオスが来るまでに考えをまとめておかないといけない。自分でも信じられないことを信じてもらわなくてはいけないのだからしっかり話をするために紙に書いておいた方がいいかもしれない。夢は忘れるもの。理沙は鮮明な記憶があるうちに夢でのことをメモすることにした。マリーには申し訳ないが用意してもらわないといけない。
「すみません、紙と何か書くものありますか?」
用意してもらった紙とペンとスープを見比べる。行儀が悪いとは思いつつ理沙は食事を止めることなく、昨夜起こったことを思い出しながらペンを走らせた。
あなたにおすすめの小説
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。
ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。
小説家になろう様でも投稿しています。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
側妃の愛
まるねこ
恋愛
ここは女神を信仰する国。極まれに女神が祝福を与え、癒しの力が使える者が現れるからだ。
王太子妃となる予定の令嬢は力が弱いが癒しの力が使えた。突然強い癒しの力を持つ女性が異世界より現れた。
力が強い女性は聖女と呼ばれ、王太子妃になり、彼女を支えるために令嬢は側妃となった。
Copyright©︎2025-まるねこ