さんざんノーパンパンスト姿にされた腹いせにたまには彼氏にその恰好になってもらおうとする女の話

かめのこたろう

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さんざんノーパンパンスト姿にされた腹いせにたまには彼氏にその恰好になってもらおうとする女の話

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 毎晩のように何度も何度もノーパンでストッキングを履かされる方の気持ちをたまには味合わせてやりたい。
 単純にそれだけの気持ちだった。

 正直、それまではさほど気にもしていなかったのだ。
 それくらい、世の男女が行う夜の付き合いの中では取り立てておかしくも珍しくもない、ありふれた趣味嗜好くらいに思って受け入れていた。
 むしろ普段は一切そういう類のものを見せない感じさせない人が、私の前だけでは赤裸々に正直に自分を晒して求めてくれるのがうれしいくらいに感じていたと思う。
 ちょっと変態ちっくで、おいそれと人様に表立って言えないような行為だからこそ、隠微な秘密を共有しているような連帯感と高揚みたいな。
 そんな、前向きなものさえ抱いてしまっていたのは間違いない。

 本来は温度変化や物理的接触などの負の影響から敏感で繊細な肌を守るための純粋に機能的な服飾品であるパンスト。
 腰の上から足の先まで包み込む滑らかな黒い薄布を、下着を含めて他の一切を身に着けずに纏うという、これ以上ないほど間の抜けた無様な恰好をどれだけさせられても。
 初めて身体の関係ができてから数度目、ある日いきなり打ち明けられてそれなりの驚きと何だか可愛い滑稽な可笑しみのような気持ちで受け入れてしまってから一度も途切れることなく、愛し合うたびに。

 そりゃあ、あんまりまじまじ見られたり、熱心に感触を確認されたりすると少しは恥ずかしかったり、自分が今している恰好がまざまざと思い浮かんでやるせないような切ないような気持になったりはしたけれど。
 でも、そんな心理的抵抗すらお互いの気持ちよさを助長する適度なスパイスでしかなかった。

 彼だけでなく、私自身も確実にそれで盛り上がっていやらしくなって湿っぽくなってしまっていたのは事実なのだから。

 だからまた今日もその恰好をさせられそうになった瞬間、それまで感じたことがなかった微妙な想いに包まれてしまったのは我ながら全く意図していたものでも予感していたことでもない。
 本当にただ突発的に。
 なんら作為的なものも計算もなく。

 降ってわいたようなアクシデント。
 
 ただ、いよいよこれから始めるという段になったときに彼が見せた、ちょっとした仕草とか何気ない表情。
 そこになんとなく手慣れた感、さもそうするのが当然のような雰囲気を感じてしまったような気がする。
 もはや当たり前になって久しい、互いに了解事項であるから特に感じることも思う必要もないみたいな。
 機械的に淡々と処理をして行為に移れば何にも問題がない、自分が望むものが理想の状態が自動的に実現できる、あまりにも手頃で簡単に可能になってしまったことへの無感動さ。

 なんらの感謝も感激もない、いや、むしろ叶わぬならば怒りや不快感さえ催しかねない。
 そんな「傲慢」のようなものをなんとなく見出してしまったのだろうか。


 気が付いたら、「たまにはあなたが着てみてよ」と口にしてしまっていた。
 自覚すらないごくわずかな苛立ち、不満、不平等感のようなものがそれ以外の愛情とか性的欲求とか、ちょっとした意地悪な感情とか、そのほかの雑多なものと複雑にまじりあって醸成された、なんとも悩ましい衝動そのままに。


 その時の彼の顔と態度にはとても筆舌にしがたい、写真や動画にしてとっておけなかったのを心底後悔するほど絶妙で奇跡的なものがあったけど、それ以上に傑作だったのは少しごねるようなことをしただけでさほど時間もかからずに合意したこと。
 何だか最初こそ信じられないものを見るような顔で、「何言ってんだ?」って感じだったくせに。
 「やってよ」、「なんで?」っていうやり取りが数回続いた後に、私が放ったひとことであっさり納得しやがったんだ。


 「自分ができないような恰好を私にさせてたの?」。


 これがよほど効いたようだった。
 その語感の響きに「仮に断ったりしたら、もうやってあげない」っていう意思を匂わせてやったのがよかったのかもしれない。

 突きつけるように差し出していた、本当は私が纏う予定だったはずのパンストをしぶしぶという感じで受け取り、勝手がわからないように少しの間弄(もてあそ)ぶようなそぶり。
 十分わかってて把握しているはずの形とか機構を今更あらためて確認するようなわざとらしい動きを示した後、ゆっくりと、とても不器用に足を入れていった。
 あからさまに表情をゆがませながら。

 いや、もしかしたらその不本意で嫌々という態度すら、なんだか疑わしかった。
 そんな態度を形こそとっていたけれど、どうも怪しいような。

 不慣れな手つきで何度もやり直しつつ、なんとか両足を膝まで入れたとき、相変わらず嫌そうに歪んでいたその表情の奥底には、まんざらでもないようなものがあった気がする。
 遥か昔から望んでいたことを、やりたくってしょうがなかったことをやっと実現できる、そんな渇望と期待が同時にあったような。
 作業の間中、それをじぃっとみている私をちらちらと伺う視線の中にも、いつしか卑屈で媚びたものと一緒に滲みだしていたのではないだろうか。

 いよいよ、太ももまで上げて、局部を含んだ腰全体という段になると、一旦私のことすら意識からなくなったようだった。
 なんだか熱に浮かされたような顔で、ゆっくりと慎重に、まるで神聖な儀式を行うような動き。
 あたかも一つ手順を間違えたら取り返しがつかないような、指先一つで世界がひっくり返ってしまうかのような厳かで真剣な雰囲気。

 やがてすべてを完璧に根本まで覆い尽くす。
 艶やかな黒い光沢を放つ薄布が、骨と筋肉で筋張った、柔らかなイメージとは程遠い肉体の下半身をすっぽりと。


 いい年こいた大の男が、素裸にパンストだけを纏っている光景。


 たぶん、私がやったときとは比べ物にならないくらい、不自然で異形なもののはずだった。
 グロテスクで破廉恥な悪夢。
 非現実的な異世界、非日常そのもの。
 エロティックと同時に全く真逆なものが同時に存在する、おどろおどろしくも面白おかしい奇妙奇天烈な。

 でもそれを自ら確認する彼の顔にはかなわなかったと思う。
 もはや私のことなど忘れ果てたように、とても気持ちよさそうに満ち足りたものに浸っているその表情。
 一応、あからさまに出さないように最低限の配慮をしてはいたみたいだけど。
 でももう、そんなやっつけでごまかせるようなものではなくなっていた。
 それなりの年月一緒にいて、心も身体も受け入れあってた恋人であればその程度の虚飾とか欺瞞なんてすぐにわかるものである。
 彼が「まさに今、そういう顔を作ってがんばっていらっしゃる」のは一目瞭然だった。

 忘れられたような疎外感に苛立ち。
 思い知らせてやろうとしていたのを、実際にはまんまと望むことをするよう誘導されてしまったかのような屈辱。

 もっとひどいことをしてやろうと誓う。

 さらに私がいつもさせられているポーズをとらせてやる。
 きっと男にとっては女がそうなるのは普通で当たり前だとすっかり思い込んでいるだろう、まじわりのときに必然的にさせられる恰好。

 あんな風に大股開きで局部丸出しにさせられるなんて、よくよく考えてみたらいつも私の方だけなことに気が付いた。
 全然気にもしていなかったけど、どうもやっぱり改めて考えると不公平である。

 男はなんで行為のときにもさほど股を開かなくても済んでしまうのか。
 いい機会なので、思い知らせてやろう。
 これまでの自分の献身と奉仕の実績を考えれば、むしろ当然の権利と云えよう。

 陶然としている彼の足を持つとビクッと震える。
 「よくみせてよ」と言いながら両の足首をもって徐々に広げていく。
 びっくりするくらい、私がすることに従順で逆らうそぶりも見せない。

 なんだか言いたいことがあるようなないような顔でちらちらと視線を断続的に送ってくるだけ。

 そのまま寝転ばせて、全開にさせてやった。
 さすがに細くも軟くもない男の足を持ち続けるのは疲れたから、自分で膝を抱えるようにいってやる。
 もちろん、あきれるくらい素直に従う。
 もう、この時点ではその状況に違和感すら感じない。

 そして遠慮会釈ない、不躾な視線を最も恥ずべき器官に注いでやる。
 侮辱して馬鹿にして、軽蔑してやる。

 言葉などいらない。
 すべては互いのわずかな息遣いだけの静寂の中で展開していく。

 何時しか私の中は完全にサディスティックな衝動が支配的なものになっていた。
 自分の内側で渦巻き噴出を続ける黒い衝動。

 それを無防備に、なすが儘にぶつけられる対象とされた彼の。
 あまりにも無様で情けない、カエルがひっくり返ったような恰好で晒しているそこ。
 黒いパンスト越しに示された、彼自身の内側に生じているものの象徴。


 それは歓喜に他ならなかった。


 彼の中に生まれたものを私ははっきりと感じてさらに燃え上がる。
 私の中で純化され昂ったものがまた彼に伝わって新たな衝動を生み続ける。

 無限に交感が続いていった。
 自分だけではなく、相手の感覚を通じてまた自らを目覚めさせ至らせていく。

 感覚が循環していく。
 被虐と嗜虐が回転し、混ざり合い、すごい速度でどこか遠くへとひた走っていく。


 官能とは感応に他ならなかった。
 彼にパンストを履かせたことでわかったのはただそれだけだった。







 了
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