あの娘のスクール水着を盗んだ ~ちょっとエッチな短編集~

かめのこたろう

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キャリアなウーマンが年下の可愛い系男子な部下にメロメロになる話

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 朝。

 ヒールの音を響かせながらビルに入り、社員証のカードでゲート認証。
 目的の階でエレベーターを降りて、薄暗いオフィスの自分の席に座ったらすぐにパソコンを立ち上げる。
 ひんやりと乾いた空気の中で啜り始める、有名チェーンのカフェラテの味が口内に広がった。
 間も無く始まるメールチェック、ずらずらと赤い未読の題名がイヤってほどならんでいる光景ももはやすっかり慣れ親しんだもの。

 ざっと一通り流して優先順位の高いものを識別し、ピックアップしたものを全て消化したところで小さなため息と共に視線を上げると周囲の様子が視界に入ってくる。
 資料棚で覆い尽くされている壁に囲まれた広い空間、いくつかのデスクが一塊(ひとかたまり)になった島が無数にひしめきあっている、典型的な企業ビルのオフィスの風景。
 そこにやっと顔が識別できる程度、決して会話ができるほどではない距離を置いてぽつぽつと見える同僚の姿。
 皆一様にモニタの明りで顔だけが薄ぼんやりと暗がりに浮かび上がっている彼らは、全て自分と同じ管理職の人間であろう。

 この時間に出社している一般社員は基本的にいない。

 社会機能が動き出す前でまともにできる業務など限られるであろう時間帯の労働を我々管理職が安易に許可するわけなどないし、フレックスを使ってわざわざ早く来る者もまずいない。
 労働者とは時間管理に守られていると同時に縛られてもいる存在なのだ。

 もちろん違法就労が無いという前提ではあるが。

 少なくとも自分が在籍し、人生のほとんどを奉げるつもりになったこの巨大な営利組織では労務管理が健全に機能している。
 恐らくこうなるまでには幾多の権利と義務のせめぎ合い、労働者と経営者の闘争、生々しく荒々しい濃密な歴史的背景があったのだろうが、さほど興味もない。
 現状自分が理解して実行しなくてはならないのは、部下の時間外労働を最小限に抑えて最大の成果を得ることを課せられているということだけ。
 その二律背反、本来であれば両立しえようがないことをこなす程度の能力を求められ、見合った待遇と報酬が保障されているということだけである。

 だからこの朝の静かな時間に省エネで光量を抑えられた、最も厳粛で崇高な雰囲気の中で労働できるのは自分達経営者側の人間の特権であろう。

 そう自嘲気味に心の中で一人ごちてからメールチェックを再開する。
 今度は一度も集中力を切らすことなく最後までやりきるつもりで。

 カフェラテを飲みきるころにやっと終わった。 
 既に始業時間を迎えてすっかり明るくなった室内、ほとんど埋まったデスク、行きかう人の足音と声、ざわめきと喧騒の予兆。
 

 愛すべき静寂と薄闇はもう何処にも残されていない。


………


 数席のデスクが一塊になった島のひとつ、そこを全て見通せるように配置された場所に座る己の視界の隅。
 睡眠という機能を保持する生物が必然的に行う、しかし何故か人間社会では公に行うのは良しとされない現象が発生した。

 溜め込んだものを、並々ならぬ抵抗を超えて絞り出すように。
 最初は控えめに始まるも、終いには限界まで開けた口。
 細めた瞳、その端に膨らむ涙。

 大きな欠伸。

 己が責任と義務を持つ領土の隅で不意に起こった現象。
 決して褒められた行為ではないが、まず普通は見過ごして特に気にもしないはずのそれを目にした瞬間、思わず衝動的に発してしまった言葉。


 こら。
 もう始業時間はすぎてるんだから、もっとシャキっとしなさい。


 瞬間、ビクッと反応して気弱そうに頭を下げてくるのは自分の部下。
 そしてオトコでもある存在。

 まるで女の子のように柔和に整った顔、色素の薄い猫毛の髪。
 中肉中背、決してひ弱ではなく締まった身体であるにも関わらず、その顔貌と全体から発する雰囲気が逞しさ雄雄しさなどという概念とは対極の印象を与えざるを得ない。
 
 一回りも年の離れた新人として配属されてきた時には、「大丈夫か、このコ?」とただ心配に思った記憶しかない。

 外見に反することなく、内面もまた見た目どおり。
 よく言えば穏やかで謙虚、控えめで優しい。
 悪く言えば気弱で頼りない。

 典型的な優男。

 実際に仕事の出来も可も無く不可も無く、特筆して優れたところがあるというわけでもなかったから、余計に頼りなく危なげな印象を助長する。
 だから指導担当として面倒を見るのにも熱が入ってしまったのは当然だったのかもしれない。
 
 業務のノウハウをそれなりの厳しさと優しさを持つように努めてイチから叩き込んだ。
 出来たら褒めるし、ミスをしたら叱る。

 そしてそのたびに浮かべる無邪気な笑顔、健気な言葉。
 情けない顔でぺこぺこ謝りながら、すがるようにこちらを見詰める眼差し。

 指導者としての責任と焦燥は、いつしか母性本能と保護欲にとってかわっていた。
 彼もまた自分に対してただの指導役を見るのとは違う視線を向けているのはわかりきっていた。
 例え周囲にはどれだけ想定外の取り合わせに見えて、同じオフィスの誰も二人の関係に気付くことがなかったとしても。
 当事者である私達にとってはあまりにも明らかで赤裸々な、むしろ不器用なほど互いをはっきり意識し合っていたのだから。

 そうして男と女の関係になって短くない時間が流れた。

 近頃では毎晩のように一緒にいる。
 もはや私のマンションで共に過ごし、翌朝は自分が先に出て、時間を置いてカレが部屋に鍵をかけるのがすっかり常態になって久しい。

 だからその欠伸の原因もさんざん明け方まで激しく求めた自分のせいだという確信があるからこその後ろめたさ。
 それが本来はなんら指摘の対象にならない筈のものをそうさせて、上司然とした態度と声色、居丈高な振る舞いに結びつけた。

 そんな自分を自覚していたからこそ、すぐに視線をパソコンのモニタに戻して、もうこれっポッチも気にしていない素振りをする。
 すでになんの興味も意識もしていないことを彼だけでなく周囲に向けて無言でアピールしてしまう。
 
 やがて様子を窺っていたらしいもう一人の部下がカレに慰めるように声をかけはじめる。
 緩く巻いた長めの髪、可愛いらしい明るい色調のメイク。
 愛嬌のある童顔で、如何にも男好きしそうな。
 正直見た目で負けているつもりは無いが、若々しい魅力に溢れていることは認めざるを得ない、やはり年下の部下である彼女。

 如何にも恐る恐るといったおどけた態度で彼に話しかけている。
 恐らく「怖いねぇ」とか「あんなキツク言わなくてもいいのにね」とか言っているんだろう。

 そこに憎からず想っている男に対する愛媚びたものがあるのを確信する。
 怖い女上司に注意された同僚の男を慰めて自分の心証を良くしようとする彼女の明らかな狙い。
 女の本能、狡猾な戦略をはっきりと認めて己の心中に沸きあがる想い。

 苛立ち。
 怒り。
 軽蔑。

 愛する存在に手を出そうとする小娘に対する暗い炎。
 そして同時に。
 
 優越。
 嘲り。
 喜悦。

 自分達の関係と積み重ねの実感、それを一切しらない彼女を哀れみ見下す快感。

 決して悪い人材ではない、仕事の出来はこれ以上無いほど認めている優秀な部下の一人。
 そんな業務上の評価とはまったく別に、対等の「女」としての彼女に対する複雑な想いが一瞬で沸き立って消えた。

 もちろんその間も私の視線と顔はパソコンのモニタから全く動くことはなく、彼も彼女もそんな劇的な内部現象がすぐそばで起こっていたとは想像だにもしていなかっただろう。
 ちょっとした不調法にお小言という、日常のヒトコマが浮かんで消えた。

 そうして今日もオフィスの中は何らの異常も無く、日々の業務とやりとりが変わることなく続いていく。


 全ては二人だけの時間に現れる。
 誰にも悟られぬよう巧妙に秘され隠された情炎のともしびは、どれだけか細く小さくなろうとも消えることなく揺らめき続け、夜闇に世界が包まれたときに彼の前にだけ顕現されるのだ。

………

 自分は肉体の欲求が強い女だというのはわかっていた。
 だから彼の前で遠慮したことなどない。

 むしろ、見せ付けるようにあられもない様を示し続ける。
 荒々しく全力で身体を動かし続け、若々しくてキレイな彼を貪っていく。
 可愛くて苛めたくなるような彼に対する嗜虐的な想いを抑えることなく、むき出しにした欲望をひたすら思い切りぶつける様に求めてしまう。

 傍から見たら、明らかに私が彼を襲っているようにしか見えないだろう。
 それくらい私はアグレッシブに、彼は受身の形で交わるのは何度身体を重ねても変わらない。

 我ながら浅ましいとは思う。
 だけど自分の年齢、日々衰えていく容姿を自覚させられるたびに、この至福の時が決して永遠などではない、一瞬の夢であるという切迫感が襲ってくるのだ。
 何時破綻してもおかしくない、危ういバランスとタイミングの上で成り立っているとても貴重で稀な時間なのだという想いが募り、抑えが効かなくなってしまうのだ。

 獣のような咆哮を上げて、数度目の悦びに至った。
 もはや隠す気にもなれない、己の痴態。
 全身を痺れさせる感覚に力が抜けて、最も卑猥で恥ずべき場所を生々しい行為の残滓がそのままの状態で全開で彼の目の前に晒す。

 そのまましばらく頭が真っ白になったまま動けなかった。
 今日一番の特に強い波に襲われている。

 やがて恍惚と静寂の中、彼が身じろぎする気配。
 さっきまで私の下でアレほど情けない顔で女の子みたいな声をあげていいようにされていた筈の彼は、ぐったりと完全に力が抜け切っている私をやさしく抱え。
 とんでもない方向に投げ出していた身体をゆっくりと整えていく。

 ぼんやりとそれを認識しながら胸中を満たしていくあたたかいもの。
 それまで全身を支配していた肉体の快感と入れ違うように、じんわりと包まれるような穏やかでやさしい気持。

 最後に彼は触れるか触れないかのやさしい口付けをした。
 それまでの行為がまるで別世界だったかのようなソフトキス。

 
 そのあまりにもプラトニックでイノセントな感触。


 私はついさっきまで没頭して耽溺していた肉欲を遥かに凌駕する絶頂感に一筋の涙を流す。
 精神を、心を満たされ魂を揺さぶられる感覚に意識を失うほどの衝撃を受ける。

 必ず毎晩彼がするこの行為、結局この快感に勝るものはない。

 日々の糧を得るために神経をすり減らしあらゆる忍耐を要求される社会行為も、日常の中で見出す醜い嫉妬や不審、怒りや嫌悪といったどんな心理的負荷も。
 淫らな悦び、はしたなくてあられもない獣のような本能むき出しの浅ましい行為の数々も所詮、前哨であり前置きでしかないのだと確信する。
 女の幸福感、その最も根源的な領域に至るための通過儀礼でしかないのだと思い知らされて。


 また明日を迎える覚悟が固まった。





 了
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