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同棲相手のパンティに白濁の粘液がこびりついているのを確認していろいろ考えるヒモ男の話
しおりを挟むいつものように洗面所に置いてある洗物カゴの中身を取り出し始めると、その内の一つからぬめぬめとした不快な感触が伝わってくるのに気がつく。
艶々とした光沢を持つワインレッドの女物下着。
上下おそろいの下半身を覆う方、ショーツとかパンティとか言われるヤツ。
アイツがココゾというところでよく着ている、お気に入り。
ところどころ適度に抉れたり細くなったりしたわかりやすいデザイン、何を意図しているものなのかを隠そうともしていない、つまりは女の魅力のごく一部を最大限にアピールするのを目的としていることが明らかなソレ。
本来は伸縮性に富んだスベスベの手触りでシャンとした印象なのが、今は全体的に湿っぽくてシワがより、なよなよと頼りなげにしなびている感じがいかにも使用後といった様子。
かつてまだ彼女と身体の関係があったころからずっとお馴染みだから、見慣れたものではあった。
さらに言うなら、そこにオレ以外の男の痕跡を発見しても何も感じないようになって既に短くない時間が経っている。
案の定、ピラリと開くと股の間の布、女性器が接する場所にねっとりと生臭いものがこびりついていた。
クロッチとか言われる部分に残された、確かな性交の証拠。
生臭い匂いに鼻の奥が刺激され、否応なく昨夜の相手について考えさせられる。
「今夜は遅くなるから」とめかし込んで出かけていったあとは、ありきたりでお約束な一連の工程が淡々と展開されていったんだろう。
メシを食って酒を飲んで、喋って笑って盛り上がって。
他の幾多の相手とも同じようにしてきたやり方そのままにベッドに入って。
くんづほぐれつ、女の楽しみ方をすっかり自分のものにしている彼女は自分も相手も悔いが残らないように全力でたっぷりと己を解き放ったはず。
一度じゃなく、二度も三度も。
イき疲れて動けなくなるまで。
そして相手の部屋かホテルか知らないけれど、一応そこを出る前に身体中を洗って拭って綺麗に掃除しても一番奥に出されたものが帰ってくる途中でどろりと中から垂れてきたと。
たぶんこのマンションのエントランスのスロープを登っているときくらいだろうか。
歩幅とか筋力とか、平地とは足腰の使い方が違う場所に来た途端、そういうのが垂れ落ちて下着が汚れることがあるらしい。
昔、彼女自身があっけらかんと語っていたことを思い出す。
いかにも面白おかしいことを話すような顔で、オトコと過ごした後の四方山(よもやま)を酔談の一説として披露してくれたものだった。
何時ものように、オレは手洗いで付着物を落としてから洗濯機に放り込むことにする。
その匂いと感触は不快ではあるが、それ以外の排泄物や体液などに感じる一般的な嫌悪感以上のものはない。
単に他人が生理上の理由で出したモノに感じる共通の不快感だけ。
恨みとか怒りとか、嫉妬とか独占欲とか。
男女固有の湿った感情とは、もはや完全に無縁になって久しい。
無感動に蛇口から流れる水に裏返した下着を晒し、クロッチを指先でこするようにして粛々とぬめりをとっていった。
そしてグオングオンと必死で全身を震わせて働く洗濯機械を醒めた目で眺めながら、自分と彼女について想いを巡らす。
こうして性的関係がなくなっても彼女は何も言わない。
一銭も金を入れることなく、ただ家事のようなことをしているだけで居座り続けているオレをどうこうしようとする素振りは一切見せない。
メシとか用意したり、洗物や掃除、生活に関わること全般を不出来ではないだろうけど決して上質とは言い難いレベルでこなしているだけのヒモ男をなんの違和感も持たずに受け入れているように見える。
金銭面についてはまったく困っていないのは事実なんだろう。
外資系とかいうデカい会社で、並のリーマンじゃ絶対貰えないような給料が毎月振り込まれているらしいし。
自分独りで生きていけるという自負、自信があるから何者にも縛られない生き方が出来てるんだろうとは思う。
そういう経済的、社会的な優位性に加えて、さらには容姿外観も人並み以上で恵まれているからこそ好き勝手やりたいように生きることができるんだろう。
そのほかのあらゆる生き様、人生観とかポリシーとかいう言葉で表現されるようなものすべてに関してそんな感じだった。
勿論、恋愛とか男女関係についても例外じゃない。
特定の相手に拘らない。
同時多発的に並列進行することも厭わない。
一夜かぎりの関係にまったく抵抗がない。
たとえ恋人がいても他の相手と交わることも当然のようにする。
いや、そもそも「恋人」という概念自体を持っているのか。
オレや他のオトコをそういう存在として考えているかどうかもよくわからない。
貞操不倫、純不純みたいな月並みな結婚観、恋愛観とはまるで無縁なんだろう。
ようは「自分が一番過ごしやすいように、心地よくて気持良いように無駄なく効率よくすごしているだけ」。
だからもう肉体関係などとうに無くなった、恋人とも言い難い男がヒモみたいに寄生していてもどうとも思ってないのかもしれない。
だからオレもさほど切迫感もなく、危機感もなくただぼんやりとぬるま湯に浸るみたいに過ごしていけているんかもしれない。
客観的に見たら、どう考えても将来性なんて皆無の刹那的で破滅的な状況なんだろうけど。
でも今のところはまったくそんな気持や雰囲気になれそうな様子は微塵も無い。
ただ、時々極稀に、無くなったはずの彼女への性的欲求がぶり返すように蘇る瞬間がある。
思い出したかのように、一瞬だけ何かがきっかけにかつて堪能した淫らな快感をあの肉体に求めたくなるときが唐突にあったりする。
それを齎すのは何気ない、どうともないようなもの。
日々の中、ところどころに散りばめられている彼女にまつわるあらゆるものが、不意に強烈な魔術的媒体になって襲ってくる。
ついさっきまで手にしていた「どこの誰ともしらないオトコの生殖液で汚された下着」というこれ以上なさそうな性的象徴ですら喚起されなかったものが、今何故かグオングオンという洗濯機械の音と振動で齎されてくる。
なんて悩ましく、切ない衝動。
忘れ果てたはずの憧憬めいた欲求。
しかしこうしてどれだけ劣情が突発的に襲ってきたとしても、実際に交わることはできないだろうという直感も同時にあった。
あらゆる意味で彼女から自立してその庇護から逃れるまでは、たぶん決してできない、そういうものなのだろうと確信もしていた。
どこまでも温く穏やかな。
あらゆる危険とは無縁な恒久的平穏。
そういう存在を、そうなってしまった彼女を繁殖相手として認識できるようにはできていないのかもしれない。
脱水が済んだ他の洗濯物と一緒に、ワインレッドの下着をベランダにつるしながらそう思う。
澄み渡る秋晴れ。
乾くまでそう時間はかからないだろう。
了
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