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彼女に別れ話を切り出してから無性にお別れセックスしたくなった男の話
振られたくないから先に振る。
いつもそんな感じだった。
だから今いきなり切り出した別れ話に目の前で硬直してる彼女に何か不満とか問題とかあったわけじゃない。
特に理由も原因もなく、日常化して当たり前になりつつあったものになんとなく破局の予感を感じ始めたから。
一緒にいることが普通になってなんの違和感も持たなくなり、自分の一部になっていくに従って否応もなく終わりの時が頭をよぎり始めたから。
安住が齎されると同時に訪れる失うことへの恐怖。
矛盾しているようだけど、必然的な心の挙動。
単純にそれだけ。
でも俺にとっては十分で切実な理由。
何時か来るかもしれないその時を座して待つことに我慢ができない。
どうせ引導を渡すならば自らの手で行いたい。
受身なのが性にあわないんだ。
いや、単に小心者ってだけなんかもしれない。
たぶん他の誰でもよくあることなんだとは思う。
そういうのがふと頭をよぎるなんて。
別に特異で珍しい稀有な現象ってわけじゃないはず。
ただ、大抵はそんな想いが沸き起こったとしても深刻にならずに受け流し、自然とそのままの状態を維持し続けようとするだけ。
いろんな要素が重なって釣り合って成立した心地良い平衡状態を、それなりの努力と誠意を持ち合って末永く保てるよう、特に意識するでもなくやりこなすもんなんだ。
こんな風に少し気になっただけで全てをご破算にするようなことはまずしない。
俺に他人と違うところがあるとすれば、たぶんそこだけなんだろう。
気取った言い方すれば「幸せの怖さに耐えられない」って感じ。
要は自己抑制が効かない、忍耐力が無い未熟な人間ってだけなんかもしれない。
いずれにしろ、これが一方的に人の尊厳を踏みにじって傷つけるとんでもなく手前勝手で冒涜的な暴挙であり、完全に悪いのは自分で彼女は純粋な被害者だという自覚はあったから、ぷるぷる小刻みに震えて涙を浮かべ始める様子に酷く罪悪感が込み上げてくる。
腕とか膝とかを適度に露出した色っぽさとおしゃれさが適度に釣り合ってる、ちょっと前に流行ったコンサバっぽい格好。
本当はそんな趣味ないのに俺の好みだからって、わざわざそうしている気持を想像してますます胸が痛む。
いじましささとか哀れみとかいろいろこみ上げてきて、こっちも泣きそうになる。
自分でやっておいてそんな風になるなんて我ながらどうかしていると思うけど、その申し訳ないごめんっていう気持ちもまた俺の真情だった。
嘘偽りない本心だった。
傍から見ていたらただの自己陶酔と自己満足だけのエゴエゴしい醜さに満ち溢れた偽善でしかないんだろうけど。
別にそうしようと想って意図的にしているわけでもなく、自然とそうなってしまうんだからもうしょうがない。
今の自分がとっても恥知らずな有様なんだという自覚があって、もっと毅然とはっきりと「悪いヤツ」であるべきだと思ってはいるのにそうなっちゃうんだからどうしようもない。
とにかく只管謝った。
誠心誠意、悪いのは俺でお前は悪く無いって何度もいった。
しゃくりをあげる彼女の肩を抱き、やさしく手を握った。
たとえそれがどれだけ欺瞞に満ちたあざとい態度なのだとしても、少しでも彼女を落ち着かせる効果があるなら、現実的な解決方法になりうるならいくらでも厚顔無恥にやってやる覚悟だった。
そうして最初は「なんで?」を繰り返していたのが「ヤダ」、「別れたくない」に変わって、終いには「酷い」「許さない」っていう恨み言に変わっていって。
それすら通り過ぎて、やっと彼女が俺という存在に見切りをつけて空虚な表情をし始めた頃。
ああ、これで彼女とも終わりだという実感をひしひしと感じ始めた頃。
突然、俺を全く想定外で計算外のアクシデントが襲ってきた。
それは俺にとって(もしかしたら彼女にとっても)純粋な事故で偶発的な天災に他ならなかった。
なんだか無性に最後に一発ヤりたくなってきた。
元々、見た目も性格も好みだったのに特に理由も無く別れようとし始めたんだから当然と言えば当然だったかもしれない。
でもこれまで同じようなシチュは腐るほどあったのに、こんなのことになるのは始めてだった。
何故今回、彼女にだけそうなってしまったのか、その理由はわからない。
というより考える余裕なんてない。
もう最後なんだという実感が沸き始めた途端、みるみる真剣で切実な想いと欲求が溢れ出てきた。
いきなり振って沸いたように腹の奥から圧倒的な熱量と勢いで全身に広がっていく衝動。
性的欲求。
我ながらサイテーだと思うけど、この期に及んでものすごく勿体無くなってきた。
さっきから胸に抱いてる、細身なのにところどころ丸みがあって弾力性に富んだエロくて綺麗な身体の感触。
涙の後をそのままに少しぼぉっとした整った顔立ち。
崩れたメイクも妙に色っぽい。
本当に綺麗な女っていうのは、泣き顔こそが美しいんだと心のどっかで納得する。
しかもそんな涙を流して俺にすがっていたイイオンナが、今度は怒りと軽蔑に心を染めて知らない人間を見るような目をし始めている。
いまやもう完全に吹っ切って離れて行こうと努め始めている。
関係の無い存在になろうとし始めている。
だからこそなんだろう。
逆らい難いものが強いうねりを伴って俺を内部から侵食していく。
高い質量と粘度を持った激烈な欲求が突き上げてくる。
ヤりたい。
他人になりつつある恋人を最後にイヤって程味わっておきたい。
この冷たい顔をし始めた女を組み敷いて、思う存分に貪ってやりたい。
俺がお前の体を一番よく知ってるんだ。
どこをどうすればどうなるか、完全に把握してるんだ。
全て網羅するように弄ってやって、反応するところを堪能したい。
別れを決めた男に体を開かせて受け入れさせてやりたい。
もう因果を持ちえようがないからこそ。
もはや触りようがない、感じようがなくなると約束されているものに見出す圧倒的な価値。
この瞬間、この場所にだけ存在する唯一絶対のもの。
宇宙に一つしかない希少物を求める気持がどこまでも無限に広がっていく。
俺の体の中から外へ飛び出そうとする圧力と内へと抑えようとする外壁の半力が反発し拮抗し続けて、破局的な爆発を齎すエネルギーが溜め込まれていく。
それでいて「ヨリを戻そう」という気持は全くなかった。
どれだけ彼女を抱きたい、犯したいという想いが溢れていっぱいになっても、別れるという意思にはまったく揺ぎは無かった。
どこか頭の隅でコレがあくまでも「別れる瞬間」だけの現象で欲求でしかないのだという直感的な理解と割り切りがあったのかもしれない。
純粋に肉欲だけの衝動だってわかってたのかもしれない。
たぶん只管「ヤりたい」と「別れたい」という二つの想いが俺の中で歪に無理やり並存して反応しあった結果、そんな風になってしまったんだと想う。
理屈ではない、動物的な本能とか人間的な理性とか知性とか感情とか、そういうのがいろいろ交じり合って複雑化して破壊と再構築を繰り返して結果的にそうなったということなんだろう。
とにかくそうして刹那に生み出され揺さぶられ高められ育まれて齎されたものがとうとう外部に発露するときが来た。
現実的な物理現象として顕現する瞬間がやってきた。
その時にはもう何も思考なんてしていなかった。
後先なんて考えることはおろか、今がどういう状況だったかすらなかったと想う。
最後に一回セックスしよう、と。
とても真剣で誠意に溢れた宣言は為され。
全力のビンタという真摯な答辞によって儀式は締めくくられた。
了
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