あの娘のスクール水着を盗んだ ~ちょっとエッチな短編集~

かめのこたろう

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人妻と付き合っていたゲス男が不倫をやめた理由を独り言する話

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 「指輪を外すな」と言ってみたのも、何か深い意味とか特別な想いがあったわけではなかった。


 気だるい平日の午後、薄暗い逢引宿の一室。
 遊び相手の人妻。
 自分が不倫相手の間男という関係になって少なくない時間が経っているその女。

 先に気がついたのは彼女だった。

 今正にことを始めようとしたその時、普段は外してくるはずのそれがしっかりと薬指に嵌ったままなのを発見し、己のうっかりを、瑣末な失敗を軽く笑うような顔をした。

 細い白金色のリングと、控えめで上品な輝きを放つダイア。
 過剰な装飾とも野暮でケレンミ溢れるサイズ感とも一切無縁な。
 仕事の出来と家庭を冷やす能力に溢れた、典型的なエリートビジネスマンがかつて今とは全く違う未来を思い描いて贈ったであろうそれ。
 物理的には数年でしかないはずが、彼女にとっては遥か遠い昔、記憶の彼方になっているのは間違いないはずの。

 間抜けなようだが、それまで全く認識していなかった。
 目に映ってはいたのだろうけど、意識の表層にはまるで浮かんでこなかった。


 その程度のものであったのだ。


 別にあろうがなかろうが全く関係ない。
 たとえ視界に入ったとしても何らの感慨も想いもわき起こさない。
 許されざる破戒を、男と女の最も爛れた悪徳の悦びを得るのにどんな障害にも抵抗にもならない。
 二人にとって、まず間違いなく瑣末で無意味なもの。

 殊更、彼女をそういう人間だと見込んでいたというのもある。
 背徳感とか後ろめたい気持とか、その手のステレオタイプな心理的抵抗とは無縁に効率よく互いの欲求を満たして最大限に快楽だけを得られる関係を築けると。
 ある種の信頼感をすら抱いていたと思う。

 決して若くはないが枯れるには程遠い、張りと艶を色濃く残したままやわらかく熟した身体。
 匂い立つ芳香、ゆったりと甘やかな所作と言動。
 勿論、顔貌を初め容姿の出来は言うまでもない。

 そしてなにより惹き付けられたのはその中に宿る精神、人格にこそあった。
 
 天真爛漫で無邪気な明るさの中に、時折混じる暗い深みを感じさせる影。
 生まれ持った天性に、幾多の経験が齎したであろう成熟と歪み。
 生来の気質に夫との現状で決定的にされた怒り、不審、諦めや達観が完成した魂。

 交わるたびに彼女が見せる反応、声と動き、表情に魅せられた。
 初々しく怯えて恥らいながら、揺るがない。
 好奇心と心理的抵抗を並存させて、どんなに激しく汚らわしい行為にも適応していく。
 無垢と淫蕩、受容と反発、緊張と余裕、清純と堕落が矛盾することなく同居する。


 その在り様にこそ、楽しく愉快で刹那的な理想の火遊びの相手を見出したのだ。
 

 だから何気ない所作で外したものを小さなハンドバックに仕舞おうとした彼女の動きを制止したのも、唯の思いつき。
 前もってそうしてやろうと考えていたとか、計画的に算段していたということは一切なく、純粋に突発的な。
 衝動的に浮かび上がった悪戯心でしかなかった。

 ただの余興。
 何時もとは違う、ちょっとしたイレギュラーを取り入れて盛り上がったらそれでいい。
 そんな期待にも満たない浮かれた想いだけを抱いていた自分の前で展開された全く想定外の衝撃的な光景。


 一瞬ピクリと震えて止まる。
 確かな硬直の後。
 泣き笑いのような顔。


 彼女自身が意図したものではなかったのは明らかだった。
 何故、そんな反応を見せてしまったのかという困惑。
 語らずとも十分すぎるほど伝わってきた。

 もうすっかり打ち捨てて踏みにじったはずのもの。
 裏切って久しい、夫である男ももはや永遠に顧みることなどないはずのものが。
 今この瞬間、彼女の中に凄まじい勢いで沸き立ち蘇っているのが傍目にもはっきりとわかった。

 それは一組の男女が生み出して育んだものの記憶。
 何よりも貴重で美しい、人が成し得る関係性の中でも至高の在り方。
 かつていじましくも献身的に作られようとして破棄されたものが、その概念そのものが目の前で最後の断末魔を上げているのだと鮮烈に理解した。


 機敏に彼女を抱き寄せて押し倒す。
 それがもう間も無く完全に失われて亡くなってしまうのはわかりきっていた。
 今、一人の女の中に起こっている現象、濃密な密度と質量を持った概念が消失する寸前に見せる劇的な反応がすぐにも終わってしまうことを理屈を超えた超常的な悟性によって、はっきりと確信する。
 まだ彼女が完全に我を取り戻せず、混乱の只中にいる今の内しか時間がない。
 徹底的に味わいつくして堪能する機会はもう永遠にない。

 不意に訪れた千載一遇のチャンスにすっかり焦っていたから、普段と全然違う荒々しさで一気に貪るように襲い掛かった。
 そして発端となった契約の証をこれ以上無いほど徹底的に汚して貶めた。
 あらゆる粘つく体液で犯し、不躾で赤裸々な言葉で辱めた。

 たぶん、その時自分は赤黒い激烈な衝動によって機能する、陵辱機械とでもいうものになってしまったのかもしれない。
 彼女の指に嵌ったままの小さな指輪を、その持ち主と同時にあらゆる方法と発想で蹂躙することしか出来なくなった。

 そして後は只管ガムシャラに動き続けて。
 やがて彼女の中にあったものが小さく細くなっていき。
 遂には完全に消えうせて何をしても反応しなくなったときに唐突に終わりを告げた。

………


 彼女とはその日を限りに会うことはなかった。


 別にそれがきっかけで嫌われたとか、ましてや自分が罪悪感とか申し訳なさとか罪の心に目覚めたとかいうわけでは勿論ない。
 その後も何度か向こうから連絡は来たし、その都度旦那に悪いとか会うのに抵抗があるという想いは全然わいてこなかった。

 単にもう彼女を求める気持がなくなったというだけだ。

 彼女は終わった直後にはもう何時もの様子に戻っていたし、興奮したとか気持ちよかったとかあっけらかんと語っていた。
 その様子は確かにそれまで価値を見出していた「割り切り上手で見栄えのする遊び相手」で、一緒に過ごして求め合いたいと心から願っていた存在そのものであったが、何故かそれまでのような魅力を感じなかった。

 そう、もはや彼女に何も感じなくなっていたのだ。
 体も顔貌(かおかたち)も性格もそれ以前とは全然変わらない、相変わらず世間並みで見れば水準以上のイイオンナなのは間違いないのに。
 何故か、あれ以降全く興味がなくなってしまった。
 そしてそれは彼女だけでなく、他の一部の女に対しても同様だった。

 結婚したり、既に特定のパートナーがいる女、所謂「人妻」や「恋人持ち」に対する興味と欲求が一切合財なくなってしまったのだ。

 あの指輪がきっかけで齎されたひと時に自分が目の当たりにしたもの。
 「浮気」とか「不倫」とか。
 そんな俗な言葉で表現される関係性に求めるものが、見出して堪能したいと思っていたものの全てがそこにはあった。
 そしてあまりにも濃密に過剰に一挙に飽和されるほど満たされてしまい、まるで宗教儀式のイニシエーションのように自分を変えてしまったのかも知れない。


 確かなのは自分がもう火遊びはやめたということだ。




 了
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