あの娘のスクール水着を盗んだ ~ちょっとエッチな短編集~

かめのこたろう

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フォークダンスの練習中、クラスの男子がお尻にナニかを押し当ててきた。

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 体育祭に向けたフォークダンスの授業中。
 クラスの男子と組んで踊っていたそのときに。

 くるっと回って背中を向けて膝を折った瞬間、体操着のハーフパンツ越しにむにっとお尻に何かが当たる感触。
 右下のお肉を押しあげる、妙な出っ張りの存在。

 「んんっ?」と思う間もなく、瞬時に消える。
 びくっという明らかな怯えと振るえが繋いだ手から確かに伝わってきた。

 振り返ると真っ赤になった、童顔のメガネ君。
 普段から気弱そうな感じで、おんなじようなおとなしい人たちとグループになって固まって、なにやらごにょごにょと隅の方で語らっている印象しかないその人が、汗だらだらで泣きそうな顔をしている。

 その時点ですでに「ああ、アレか~」と冷静に見当をつけていた私は、彼の尋常じゃない切羽詰まった様子に哀れみとか滑稽みたいな感情を持ってしまう。
 保健体育の授業を通じて男子がそうなってしまうのは知識としては持っているし、女子トークで下ネタ的に話題にもよくなるからさほど驚きも嫌悪もない。
 一部ではそういう現象に凄まじい拒否反応を示して嫌悪感をあらわにしている女子もいるけど、私自身はことさら男子が嫌いでも憎んでもいないから別にどうとも思っていない。
 むしろ「ああ、なるほどね」っていう納得感みたいなものしか感じない。

 私たちが持っているのと同様の生理現象の一つらしいからしょうがないのだろうし、こういうことだって起こりうるんだろうなっていう冷めた気持ちでしかなかったのだ。

 いやらしい気持ちでわざとやってるならともかく、彼の様子を見る限りそんなつもりもないのに意図せず不可抗力的に起こってしまっているらしいのは伝わってくる。
 あるいはそういう風を装っている可能性もあるかもしれないけれど、そんな器用な人間にも見えない。
 同世代の中でも特に「子供っぽさ」を感じさせるタイプだったからこそ作為的なものを全く感じず、汚らしいとかおぞましいみたいな感情もほとんどなかったのかもしれない。

 まあこれがもし、死ぬほど嫌いで触れられたら舌を噛み切って死んでやるくらい生理的に絶対無理!っていう相手だったらまた話が違っても来るのだろうけれど。
 あるいはすっごく大好きであこがれてる超絶イケメン男子だったりしたらまた全然変わってくるのだろうけど。

 まったくどうとも思ってない、なんの印象もないような相手にされたとしてもさほどのモノでもない。
 というよりこういう場合、どう感じてどういうリアクションをすればいいのかすらよくわからない。

 好きでも嫌いでもないクラスメイトのおちんちんをお尻に押し当てられたなんてシチュエーションでとるべき最適の反応なんて全く心当たりがない。

 「キャーっ」とか叫んで変に注目を集めるのは嫌だし。
 「マジ最悪」ってめちゃめちゃ不機嫌な顔してにらみつける気分でもないし。
 かといって、こちらも気まずそうに頬っぺた赤くして恥ずかしがってみるほど純情ぶることもできなさそうだし。

 とことん私は冷めているのだ。
 ステレオタイプな「女子っぽさ」を発揮するのがどうも苦手らしい。
 
 だから勝手に追い詰められて今にも暴発しそうな彼の様子とは対照的に、平然と冷めた心持ちの私は無言で振り向きなおしてフォークダンスの続きをすることにする。
 この間も留まることなく音楽は続いているし、特にやめる必要性も思いつかないから身体が覚えている動きを機械的にやっていく。
 「ああいうかんじなんだ~」と、一瞬だけ感じた物珍しい感触を反芻しながら、ステップアンドターン。
 ちらっと彼の股間を見たら、はっきりと膨らんでテントみたいになってるのがおかしかった。

 妙に腰が引けてぎこちない彼の動きはそこをかばって、こちらに触れないようにしている必死の努力なんだと思うと吹き出しそうになる。

 どうすんのよ、それ。
 勝手にそのうちおさまんの?
 ずっとそのままじゃいずれ私以外にもばれちゃうじゃん。
 そしたらまず間違いなくキミの学校生活は不名誉な称号とともに、最悪な形で終焉を迎えることになっちゃうよ。

 なんて、不真面目に心配するふりを心の中でしつつ。

 なんだろう、この愉快な気持ちは。
 真っ赤で必死な顔、泳いだ視線と相まったギクシャクした動きの面白さ。
 羞恥と後悔、自責と逃避が彼の中で渦巻いているのがわかる。
 そしてそれをもたらしたのが自分かもしれないという事実が、妙に自尊心をくすぐってくるような気がする。

 確か、特に好きな相手じゃなくても男の子は性的に反応するんだとか。
 人格、個性とは別次元で「女性」という属性それ自体に反応するみたいなイメージらしい。
 保健体育の受け持ちである女教師の受け売りだけど、正直なところよくわからない。
 好物じゃなくてもお腹が減っていたら食べたくなるのとおんなじようなもんなんだろうか。

 ただ、逆説的には本当に好きな相手だから発情することもやっぱりあるということに他ならない。
 つまりは今彼がこうなっているのは私だからこそという可能性もあるというわけだ。

 実は彼がかねてから密かに想いを寄せていて、片思いしていた相手が私なのだと。

 そう仮定してみた場合の今のこの状況のドラマティックさは一体どうしたことだろう。
 気持ちを打ち明けることもできない片思いの相手とフォークダンスの練習をしている最中、勃起してしまい、あまつさえそれを当の本人に認識されてしまったというのは。

 なんだか、すごいことである。
 何がどうというのはよくわからないけれど、とにかく尋常じゃない劇的なものに心震わせざるをえないというか。
 授業で習ったメロスやら「こころ」のKやら、有名文学作品に出てくる悲喜劇の主人公達と負けず劣らずではなかろうか。
 その苦悩、悲嘆、羞恥、悔悟、心の痛みたるや、想像するだけでわたしはなんとも言えない感動のようなものに包まれそうになってしまう。
 まさか普段何気なく過ごしている自分の日常、フォークダンスの授業中、学校生活という「当たり前」の中でこうも人間の運命について考えさせることがあるなんて。

 図らずとも彼は今まさに渦中の存在になってしまったのだ。
 不意にぽっかりと生まれた非日常に突然放り込まれて、一つのドラマの主人公になってしまったのだ。

 そして誰あろう、私こそがそれをもたらしてしまった原因かもしれなくて、肌身をもってこの現象を受容して認識させられているのである。


 やがてパートナーを変えるタイミングになり、お互い離れ離れになる時を迎えるまでそんなふわふわとした心持に取り憑かれていたようだった。
 「ちゃんちゃん♪」という締めの音楽で我に返るように正面から向き合うと、彼は相変わらず真っ赤な泣きそうな顔で斜め下の地面を見ている。

 手を放すまでの刹那、今後何かしら彼に接触を試みようとする欲求が瞬時に沸いた。

 何でちんちんおっきくなってたの?
 どういう気持ちだったの?
 言いふらすっていったらどうする?

 私のことが好きなの?
 

 絶対的な優越感とともに、彼をいじめて苛んで追い詰める言葉の数々が一気に脳裏を駆け巡り、そしてやはり瞬時に消えた。
 掌の感触が消えるとともに、次の瞬間にはもうまるっきり冷めた心持でもう何の興味もなくなっていた。
 熱病のような一瞬の邂逅は訪れたときと同様に、幻のように消え去った。

 結局、彼のことなんてどうでもよかったのだ。
 好きでも嫌いでもない、どうでもいい人間であることを思い出したのであった。


 最後にちらっと確認すると、いつの間にかテントはしぼんで平らになっていた。





 了
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