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女の子たちがパンツ見えてもさほど気にしてなかったあのころ
しおりを挟む当時の定番だったミニスカキャミソール姿の彼女と部屋に二人。
あの頃流行り始めた、アンクルソックスとかいうくるぶし丸出しのちっちゃな靴下だったと思う。
今でこそ「恋愛脳」なんて小ばかにされそうな価値観を多くの人間が共有していた時代だった。
男も女も誰かと一緒にいるのが当たり前、パートナーがいない状態など一秒だって耐えられないようなせっついた焦燥感と孤独感に誰もがとりつかれていた。
現在ではとても信じられないけれど、みんなそれぞれ「恋人を作る」ことこそを目的にして疑うことなく過ごしていた、そんなころ。
あろんぐたいむあごぉ。
むかしむかしあるところのどこかのお話。
必要とあれば致命的になりかねないどんな代償も妥協も厭わない、あらゆることに優先されて相手を求め続けた。
異性から好意を持ってもらうための努力が当たり前だった。
金があろうとなかろうと、見た目が良かろうと悪かろうと関係なく。
誰もがさほど意識もせずに当然のようにこなしていた。
どちらかというと、何か誰かを嫌いになるより好きになる方が易しい時代だったような気がする。
受け入れてもらいたい欲求と同じくらい、みんな何かを受け入れたがっていたのかもしれない。
多少の不備や不具合、理想とのギャップを何とかそれ以外で埋め合わせて自分をだましてでも関係性を構築維持しようとする強固な意思がそこらへんに溢れかえっていて珍しくもなかった。
だからその時点で最適と思われる相手を見つけて受け入れられるなんて過ぎた幸運だった。
己が持ちえた生物的アドバンテージを自覚的に最大限効率的に堪能して耽溺している真っ最中だった。
ほぼ理想的と言える相手を確保できた余裕と安心に包まれて、覚えたばかりの性的快感をその日も追及しようとしていた。
待ち合わせをして適当に遊んだ後、飯を食ってセックスして寝るという、お定まりの流れ。
食欲と性欲と睡眠欲と。
お互いそんな自分たちの在り様に何らの疑問も持ってない、生産性とか価値とか意味とか気にする瞬間なんて僅かにもなく、本能に忠実に正直にありのまま。
純粋に生物的快感を追求して堪能して耽溺できていた、当たり前といえば当たり前の自覚無き至福の日々。
ありふれた一対のつがい。
彼女は喰ったばかりのファーストフードの残骸が満載されているちっちゃなテーブルを挟んで、壁に寄りかかって足を崩して座っていた。
デニム地のミニスカートから当然のようにパンツが見えていた。
あからさまに見せびらかすような感じではなく、楽な態勢を採ったら結果的にそうなったみたいな、とても自然でムリの無い姿だった。
もちろん、そこに男がどんなものを感じて見出すかもわかりきっていたはずだった。
自分自身にそんな意味と価値があることなんて、完璧に理解して把握していたのは疑うべくもない。
男の視線を受け入れる余裕に満ち溢れていた。
「性的消費」なんて言葉はまだほとんど存在していなかった、それが当たり前で異性の視線を受けることこそに価値があった。
こちらが少なからずヤキモキして悶々するくらい、恋人以外の異性からそんなものを向けられてもさほど気にしていなかった。
不特定多数に下着が見られかねない状況があっても、あからさまでいやらしいごく一部の例外以外に嫌悪感を抱くこともなかった。
よほどあけっぴろげに開陳されない限り、ぎりぎりチラチラと見えるくらいは当然のように過ごしていた。
「そういうもんだ」という割り切りと直感。
むしろ自分という存在が持つべき武器、生存競争を勝ち抜く知恵と工夫を本能的に理解していただけなのかもしれない。
結局、そうして女たちの中での競争原理が高まって資源獲得の不平等が最大限に生まれた結果、反動的な富の再分配衝動が起こってしまったのだろうけど。
性的なものも含めた「人間的魅力」の違いで得られるものに大きな差が出てくる現実に耐えられない個体が増えてしまい、機会平等ではなく結果平等を求める声が多くなり世界は押し切られてしまうことになるのだけれど。
その当時は僅かな予兆だけで、まだ前時代の価値観と秩序が主流だった。
後付けの社会制度で不自然にゆがめられることなく、生物本来の競争原理が自然と受け入れられて機能していた。
男は繁殖欲旺盛な雄として、優秀な雌の注意を引こうと多くのリソースを割いていた。
女は魅力的な雌として、最も資源と安全を提供しうる雄を確保しようと己のアピールに余念がなかった。
だから自然な形で下着が恋人に見られることはむしろ彼女にとって望ましいことのようだった。
自覚無き無意識的な挑戦と挑発がそこにはあった。
もちろんこちらとしても、ハナからそのつもりで部屋に連れ込んでいたからその場所に注意を向けさせられたのだけれども。
でも自分の視線が釘付けになって意識が全部もっていかれたのは全然別の場所だった。
魅惑的に控えめに密やかに誘うように開陳された美脚の奥にある下着ではなく、偶然たまたま目に入ったその遥か手前。
横に崩した脚の先、くるぶしがない白い靴下の裏側。
そこにべたっと染みついている一点の赤黒いシミ。
どこでどんな風についたのか、その由来も出自も全く不明。
もしかしたらファーストフードについてきたケチャップか何かだったのかもしれないけど、今となっては確認する術もない。
少なからず身だしなみに気を使っている可愛い女子が図らずも持ってしまった一点の瑕疵。
あまりにも完璧で理想的な全体の調和を、強力に破壊して台無しにしてしまう理不尽な不整合。
生活感溢れる汚らしい色彩を発見した瞬間、なぜかとても心を惹かれて夢中になってしまった。
不躾にもまじまじとあからさまな態度で見つめ続けてしまっていた。
そして当然のようにこちらの視線に気が付いた彼女も、高度に洗練されて完成したはずの己の外観を乱す要因を把握する。
冗談的に笑い飛ばすことなく、酷く空虚な顔で見つめ続ける男の無作法を理解して反応をする。
バッと音を立てて足を畳んでそこを隠した。
野生動物もかくやというような、本能的で素早い動きだった。
そして一言二言、責めるような言葉を口にした。
怒りと恨めしさの奥に仄かに匂いたつ羞恥と後悔。
それを認めた瞬間、激しい勢いであふれ出す強烈な欲求。
この健康的で美しい雌と直接繋がって何もかもを出し尽くしてしまいたいという性的な興奮。
靴下のシミと彼女の反応が自分にもたらしたものは甚大だった。
やりたい気持ちが極まってめちゃめちゃセックスしたくなった。
そしてこれからその望みがほぼ間違いなく叶えられるのだろう己の状況を自覚してなんとも言えない充実感を感じた。
あれほど強烈な多幸感。
宗教じみた表現を使いたくなるほど、存在を根底から揺さぶられる「現実肯定」の瞬間。
生きている実感に他ならなかった。
人間であること、生物であることに何かを見出したきっかけは、恋人の足の裏にあった汚らしいシミだった。
了
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