Giftbiene【ギフトビーネ】

文字の大きさ
133 / 209
Nc3

133話

しおりを挟む
「この勝負はチェスに勝つことが目的ではない。初心者でも勝てるゲーム、の本質はそこだ。勝利条件にも『相手のキング』とは言ってなかったからね」

 以上。喋り終えると、まわりが思いのほか騒がしかったんだと気づく。それだけチェスに集中していた、と言えば聞こえはいいが、余裕がなかったとも言える。ただひとつ、危険とはわかりつつも『楽しかった』。

 最後の力を振り絞り、ジルフィアは拍手でか細く讃える。

「お見事。ぐうの音も出ないほどに完敗だ。いや、こうなると思っていたし、なってほしかった。憧れたあなたなら、これくらいは、ね」

 楽しかったのは自分も一緒。覚えたいオープニングも、ディフェンスも、エンドゲームもたくさんある。でもそれはあっちに行ってからでも研究しよう。

「……美しい勝負だった。実りの多い時間、感謝するよ」

 握手はチェスを締めくくる。互いに全力を尽くして、棋譜を作り上げた。やり直したりしたので、一概に完成されたものとは言い難いが、その対局は相対した二人のもの。納得したならそれでいい。

「……じゃあ、先に行ってるよ。いずれあっちでも——」

 と、別れを告げようとするジルフィアだが、半開きの眼で見る最後の映像。

「……なにしてるの?」

「これか? せっかくミネラルウォーターも頼んでしまったし、無駄にするのも悪いと思って」

 黒いキングを水に溶かし、スプーンで軽くステア。バーテンダーのような仕草も、シシーがやると様になってしまう。

「……どこから出したの?」

 喋る余裕もあまりないのだが、無言でジルフィアは見つめる。少しずつ靄がかかったように見えづらくなるが、頭では理解した。常にマイスプーンでも持ち歩いているんだろうか。

 チェス盤をどかし、スッとシシーはコップを差し出す。

「こんなこともあろうかと、店に着いた時、カウンターからくすねておいた。使わないなら使わないで、後で返すつもりだったが。どうぞ、解毒剤の水割りだ」

 およそ、世界のどこを探しても、バーテンダーが出すことはないであろう種類の水割り。急激にではないが、自身のほうは快方に向かっている気がする。それでも、頭痛も吐き気もある。胃洗浄しないとダメだろう。

 さらに重篤な状態のジルフィアだが、鼻で笑う。
 
「……飲むと思うかい? せっかくのいい気持ちが台無しになってしまう。最高級の食材を使った料理なら、最後に皿までこだわらなきゃ。この素敵な対局は、死んで完成なんだ」

 これで果てるから意味がある。それはたとえシシー・リーフェンシュタールでも、譲ることはできない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

処理中です...