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コン・フォーコ
54話
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「うん、本当においしいよシャルル君。このカプレーゼもバジルが効いててすごくおいしい」
「ありがとうございます……」
なぜか食事しているベルの唇を見ると、キスをされた頬と額が熱くなり、赤面に拍車をかける。そのせいでシャルルは自らの食事はあまり進まないのだが、それを見通したレティシアがちょくちょく眼前に運んでくれるので、自然とお腹は膨れていく。あまり昨日と光景に変わりは無い。違うのは雰囲気である。
「そういえばシャルル、お前は花の講義のためにここに来てるんだろ? 昨日から一つも教えてないんじゃないのか?」
「う……」
今日に限ってカミソリのような鋭さを見せるシルヴィに、シャルルは二の句を継げないでいた。そういえば、と本来の目的を思い出したこともそうであるが、ベルがなにも言わないところに訝しさを募らせる。ただランチを食べたかっただけなのか、と。
「このポテトパフも美味しいわね」
言い淀むシャルルの間に割って入ったのが、次の品に手を伸ばしていたレティシアの感想だった。「だろ!」とシルヴィも同意を示す。
「それはあたしも美味いと思ってたんだ! で、なんだったか?」
いっぺんに二つのことを考えるのが苦手であるシルヴィの盲点を突いたフォローに、胸を撫で下ろしたシャルルが感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございます、レティシアさん。助かりました」
「気にしないで。理由はなんであれ、昨日あなたに出会えて心からよかったと思ってるわ。ほら、口を開けて」
と、ポテトパフを差し出され、一瞬躊躇したが笑顔でかぶりつくシャルルの姿に、レティシアにも自然と笑みがこぼれる。
その微笑ましい光景にベルが尖らせた口を挟む。
「……なんか、妹似の子に過保護すぎる」
「なにかおかしいかしら? 好きな人にこうやって食べさせるのって、昔からの夢だったの。はい、口開けて」
「んぐ」と半ば無理矢理押し込められ、話のペースをレティシアは掌握する。
「好き、ってシャルルが、か?」
「ええ、最初は妹みたいに可愛がってただけ、だったのかもしれないけど、今ならはっきり言えるの。シャルル」
胸につっかえたポテトを叩いて流し、ようやく息を吹き返したシャルルをレティシアは真剣に見つめる。
「はい、なんでしょうか?」
ベルに宣戦布告と言わんばかりに、レティシアは彼女を一瞬ちらりと見てから、再度シャルルに移す。そして、
「愛してるわ。結婚前提に、ね」
――時が止まる。
遠くに座る高等部の男子学生が、同時に笑い声を上げた。それは凍った場ではよけいにミスマッチに響いて聞こえる。
「け、結婚!?」
「うは!」
いいぞー、とノリを重視して煽るシルヴィに対し、当のシャルルは目を白黒させて、頬を赤く染めて慌てふためく。どこに助けを求めればいいのか、目に付くもの、無機物であろうとなんであろうと、助けてくれるものを目を泳がせて探す。
なにを言うかこの女は! と、内心負けそうな気しかしてないベルが断固として割り込む。
「ちょっと! シャルル君が困ってるじゃない!」
いきなりの告白、というよりもむしろプロポーズにこちらも慌てて訂正を求めに走るベルを、シャルルがしどろもどろに継ぐ。だが準備不足にも程があった。
「いや、あの、僕、だいぶ年下ですし、それにレティシアさんは、美人でスタイルもよくて優しくて、僕なんかではその……」
こういった経験は当然初めてのことであり、どうすればいいんですか、と自分よりも人生経験豊富なベルとシルヴィを仰ぎ見るが、片や憤慨し片や笑う。いい解答は得られない、と即座にシャルルは見抜いた。
「褒め言葉ありがたく受け取るわ。そうね、美人だとか自惚れるつもりはないけど、少なくともベルよりはスタイルがいいって自覚はある」
「だな!」
「むう……」
「いや、ベル先輩、そういう意味じゃなくて、先輩にもいいところがいっぱいあるじゃ――」
「あたしは『先輩』、レティシアは『さん』て呼んでる」
ぶすくれて「もう知らない」とそっぽを向くベルに、すかさずフォローを入れるが、さらに追及されて「それは……」とシャルルは押し黙る。今がチャンス、とばかりにレティシアはさらに追い討ちをかける。
「本能でわかってるのよ。どちらについていくべきか、違う?」
「話をややこしくしないでくださ――」
「はい、あーんして」
「ん、あんむ……」
いいように掌で踊らされている自分にシャルルは心の中で喝を入れるが、どうもレティシアに逆らえずに従ってしまい、またベルとの仲が険悪になると、居た堪れなくなる。食事中なのに胃が痛い。
「……なんかレティシア、性格が変わってないか?」
まだ短い付き合いとはいえ、昨日今日で変わったレティシアの言動に疑心暗鬼が生じ、シルヴィが問う。
「そう? 自分ではわからないわ。恋は盲目というやつかしら」
簡潔に自分なりの答えを出し、レティシアはその場を言い繕う。
「やっぱり、胸は大きい方が好きなんだ……」
「あぁもう……!」
全く違う見解に辿り着くベルに、シャルルは頭を抱えてギブアップする。
本気なのか底の見えない、翻弄する妖艶な笑みを見せ、レティシアはトーストを浅く口にする。そこには乾いた小気味いい音色が響いた。
「ありがとうございます……」
なぜか食事しているベルの唇を見ると、キスをされた頬と額が熱くなり、赤面に拍車をかける。そのせいでシャルルは自らの食事はあまり進まないのだが、それを見通したレティシアがちょくちょく眼前に運んでくれるので、自然とお腹は膨れていく。あまり昨日と光景に変わりは無い。違うのは雰囲気である。
「そういえばシャルル、お前は花の講義のためにここに来てるんだろ? 昨日から一つも教えてないんじゃないのか?」
「う……」
今日に限ってカミソリのような鋭さを見せるシルヴィに、シャルルは二の句を継げないでいた。そういえば、と本来の目的を思い出したこともそうであるが、ベルがなにも言わないところに訝しさを募らせる。ただランチを食べたかっただけなのか、と。
「このポテトパフも美味しいわね」
言い淀むシャルルの間に割って入ったのが、次の品に手を伸ばしていたレティシアの感想だった。「だろ!」とシルヴィも同意を示す。
「それはあたしも美味いと思ってたんだ! で、なんだったか?」
いっぺんに二つのことを考えるのが苦手であるシルヴィの盲点を突いたフォローに、胸を撫で下ろしたシャルルが感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございます、レティシアさん。助かりました」
「気にしないで。理由はなんであれ、昨日あなたに出会えて心からよかったと思ってるわ。ほら、口を開けて」
と、ポテトパフを差し出され、一瞬躊躇したが笑顔でかぶりつくシャルルの姿に、レティシアにも自然と笑みがこぼれる。
その微笑ましい光景にベルが尖らせた口を挟む。
「……なんか、妹似の子に過保護すぎる」
「なにかおかしいかしら? 好きな人にこうやって食べさせるのって、昔からの夢だったの。はい、口開けて」
「んぐ」と半ば無理矢理押し込められ、話のペースをレティシアは掌握する。
「好き、ってシャルルが、か?」
「ええ、最初は妹みたいに可愛がってただけ、だったのかもしれないけど、今ならはっきり言えるの。シャルル」
胸につっかえたポテトを叩いて流し、ようやく息を吹き返したシャルルをレティシアは真剣に見つめる。
「はい、なんでしょうか?」
ベルに宣戦布告と言わんばかりに、レティシアは彼女を一瞬ちらりと見てから、再度シャルルに移す。そして、
「愛してるわ。結婚前提に、ね」
――時が止まる。
遠くに座る高等部の男子学生が、同時に笑い声を上げた。それは凍った場ではよけいにミスマッチに響いて聞こえる。
「け、結婚!?」
「うは!」
いいぞー、とノリを重視して煽るシルヴィに対し、当のシャルルは目を白黒させて、頬を赤く染めて慌てふためく。どこに助けを求めればいいのか、目に付くもの、無機物であろうとなんであろうと、助けてくれるものを目を泳がせて探す。
なにを言うかこの女は! と、内心負けそうな気しかしてないベルが断固として割り込む。
「ちょっと! シャルル君が困ってるじゃない!」
いきなりの告白、というよりもむしろプロポーズにこちらも慌てて訂正を求めに走るベルを、シャルルがしどろもどろに継ぐ。だが準備不足にも程があった。
「いや、あの、僕、だいぶ年下ですし、それにレティシアさんは、美人でスタイルもよくて優しくて、僕なんかではその……」
こういった経験は当然初めてのことであり、どうすればいいんですか、と自分よりも人生経験豊富なベルとシルヴィを仰ぎ見るが、片や憤慨し片や笑う。いい解答は得られない、と即座にシャルルは見抜いた。
「褒め言葉ありがたく受け取るわ。そうね、美人だとか自惚れるつもりはないけど、少なくともベルよりはスタイルがいいって自覚はある」
「だな!」
「むう……」
「いや、ベル先輩、そういう意味じゃなくて、先輩にもいいところがいっぱいあるじゃ――」
「あたしは『先輩』、レティシアは『さん』て呼んでる」
ぶすくれて「もう知らない」とそっぽを向くベルに、すかさずフォローを入れるが、さらに追及されて「それは……」とシャルルは押し黙る。今がチャンス、とばかりにレティシアはさらに追い討ちをかける。
「本能でわかってるのよ。どちらについていくべきか、違う?」
「話をややこしくしないでくださ――」
「はい、あーんして」
「ん、あんむ……」
いいように掌で踊らされている自分にシャルルは心の中で喝を入れるが、どうもレティシアに逆らえずに従ってしまい、またベルとの仲が険悪になると、居た堪れなくなる。食事中なのに胃が痛い。
「……なんかレティシア、性格が変わってないか?」
まだ短い付き合いとはいえ、昨日今日で変わったレティシアの言動に疑心暗鬼が生じ、シルヴィが問う。
「そう? 自分ではわからないわ。恋は盲目というやつかしら」
簡潔に自分なりの答えを出し、レティシアはその場を言い繕う。
「やっぱり、胸は大きい方が好きなんだ……」
「あぁもう……!」
全く違う見解に辿り着くベルに、シャルルは頭を抱えてギブアップする。
本気なのか底の見えない、翻弄する妖艶な笑みを見せ、レティシアはトーストを浅く口にする。そこには乾いた小気味いい音色が響いた。
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