14 Glück【フィアツェーン グリュック】

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蜂蜜と毒。

166話

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「……そろそろ本題に移りませんか? 本当はどういった要件ですか?」

 全く話の展開が読めず、ユリアーネは切り込んでみる。話せて嬉しい、けれどもこれ以上は踏み込めない。踏み込んではいけない気がする。握った手の爪が肉に食い込む。

 ため息を吐きながらシシーは肩をすくめた。

「本当に少し話してみたかっただけなんだけどね。やれやれ、じゃあ場所を変えようか」

 ここでは人目につきやすい。このあとのことを考えても。天使の笑顔で悪魔の囁き。毒の矢の狙いがギリギリと決まっていく。彼女にこれだけグイグイと攻めて込まれて、堕ちない生徒はそういない。

 だが、残念ながらユリアーネは強い決意と共にそれを拒む。

「……このあと、お店に行きますので、申し訳ありませんが——」

「そう、お店に行ってみたいんだよ。俺に合う紅茶、気になるって言っただろ? アニエルカさんは今日いるのかな」

 本当の狙いはアニー。中々面白い特徴のある子。シシーは気になる。話をしてみたい。

 自分じゃない、安堵と悔しさ。ほっとする心と、ムカムカとする心。それらを必死に抑制しつつ、ユリアーネはストローでカフェオレを吸い込む。

「……今日はいません。シフトには入っていませんから」

 事実。よかった、この方とアニーさんは会わなくて済む。なにか間違ってしまわぬように……間違い? それはどんな? アニーさんとこの方が会うと、なにがあるの? なにもない、はず。

 艶のある唇を尖らせ、シシーは口惜しそうにプランを変える。

「それは残念。なら彼女の家に直接行くほうがいいか。いなかったら諦めよう」

 立ち上がり、飲み終えたカップとソーサー、そしてユリアーネのグラスも持つ。返却しよう。もうここにいる意味もなくなってしまった。

 一瞬、呆けていたユリアーネだが、意味を理解し、目を見開く。無意識に体が震えた。

「家に、行くんですか? なぜ……」

 なんのために? わからない。この方の考えも。この先の未来も。私と、アニーさんも。

「ユリアーネさんのお友達なら、ぜひ話をしてみたいから。明日まで待つくらいなら、今日行くよ。特に予定もないし」

 流し目を送るシシー。その瞳の奥に隠されたもの。深く深く、奥底に眠る渇望。

 再度思うこと、やはりこの方は美しい。どこを切り取っても。フレーム単位で切り取っても。全てが高名な画家が描いた傑作のようで。見つめられるだけで、なにか間違いでも犯しそうな。しかし。

「……アニーさんはあるかもしれませんし」

 強く意思を保つ。最後まで足掻く。無駄だとわかりつつも。

 陥落寸前なことはシシーにもわかっている。あとひと押し。もう、俺の頼み事には断れない。

「その時は帰るよ。とりあえず行ってみようか。家、教えてくれる?」
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