14 Glück【フィアツェーン グリュック】

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蜂蜜と毒。

186話

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「俺のことを聞くよりも、実際に自分で体験したほうがいいんじゃない?」

「え——」

 その瞬間、アニーは一気にカシュメランの強い香りと、まるで猛禽類が獲物を狙うかのような攻撃的な匂いを嗅ぎ取った。が、時すでに遅し。気づいた時には、香りだけでなく、ハチミツとジャムの混ざったような味。舌から受ける刺激に脳が支配された。

「……?」

 突然のことにフリーズするアニー。目からは、シシーの睫毛の長さが。耳からは、水気のある淫靡な音が。唇からは柔らかく温かい質量。五感で情報を得る。ひとまず現状を整理しようとするが、やはりわからない。

(……なにが起きてるんスか?)

 初めてのカンカク。されるがまま。だが、意外にも冷静。紅茶の味もほのかにするからかもしれない。落ち着く。目を瞑る。

 数秒すると、シシーがアニーから離れ、笑顔で問いかけた。

「で、どうだった?」

 まるで手料理の感想でも求めるかのように。シシーは硬直するアニーを見下ろす。
 
「……?」

 なにか大事なものを失ってしまったような気がするアニー。だがそれがなんなのかもわからない。

「どう……っスか……?」

 原因の唇に触れる。瞬き多めに、肺から声を絞り上げた。

「……甘……」

 ……なぜだろう。ユリアーネの顔が思い浮かぶ。
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