スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

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墓地の攻防

リックとニコ対スケルトン

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 前を行くリックが手で止まれの合図。
 ニコにも見えていた。
 スケルトンが二体。明らかに一般的なスケルトンとは違う。
 しかし…

 スケルトン同士が、声にならない声をあげて討論しているようだ。
 一体のスケルトンが両手でもう一体を突き飛ばしている。
 そして、二本のシミターを持つ一体だけが進み出てきた。もう一体は後退し、墓石に寄りかかるような姿勢をしている。

「なんだ?一体で俺たち二人と戦うのか?舐めやがって」
 一歩前に出たニコをリックは手で制した。
「落ち着け。お前ならわかるだろう、ニコ。あれは強い剣士だ。そして知能がある」
 そう言われ、一度深呼吸をしてシミターを下げたスケルトンを見る。
 だらっとした姿に見えるが、あの構えは見たことがあった。
「まさか…」
「そうだ、達人だ。集中しろ」
 リックは盾を構え、ジリジリとスケルトに詰め寄る。
 ニコもそれに倣い、盾を前面に押し出してメイスを握る。


 たまに動く剣先は誘い。
 そして、頭蓋骨についていない眼球が、俺とリックを観察している。
 ただの眼窩の真っ暗い穴だが、しっかりと見ている。
 対峙する時間に比例して、このスケルトンに隙が無く、明らかな一撃必殺を狙っているのがわかる。
 肌がチリチリとするこの感覚が「お前よりも強い」と教えてくれた。
「な、なんだ、コイツは…こんなやつが…」

 どれだけ対峙したかわからないが、追いつめられている感覚が強くなり、不安が押し寄せる。
 さっきから、ずっと心臓の鼓動がうるさい。
「ニコ。強化薬を飲め」
 リックは振り向かずに、後方に囁く。
 一部の士官だけには「強化薬」を支給される。
 それは、精神を落ち着けると同時に興奮を促し、一時的に肉体と精神を「強化」する薬だ。
 後で脱力感と依存性を引き起こすため、ディクト教域では禁忌とされている。
 しかし、軍では暗黙の了解で使用され続けている。
 一歩、二歩、目を離さずに慎重に距離を取る。
 そして、腰から下げた三本の小さなビンの一本を抜いて飲んだ。
 熱い液体が腹に落ち、そこから全身に散らばり力が漲る。
 不安が消え、ムクムクと闘争心が湧き上がる。
 辛い味が喉の奥底からこみ上げ「かああ」と一度、吠えた。

 落ち着きを取り戻し、二人で囲むように、挟むようにすり足で動く。
 いつまでも膠着しているのかと思っていたが、スケルトンは動いた。
 低い姿勢から、すばやくニコの盾の前に来た。
 盾をしっかりと構え、受ける。強い衝撃は無い。
 しかし、「切られた」感覚だけが強く残る。
 すぐ真横にリックが来てメイスを振り下ろす。
 スケルトンはリックのメイスを後ろに下がり躱した。
 そして、また同じように脱力の姿勢。
 ニコは切られた盾を投げ捨てた。
 盾は地面に落ちるとキレイに四つに別れた。

 ヤツは、ヤツは本気になれば、盾ごと腕や体を切れたはずだ。
 挑発しているのか?
 強化薬が効いている今なら動きは見えるが、反応できる速度ではなかった。
「ニコ、俺の後ろへ。攻撃の後を狙ってくれ」
 リックの指示に従い、後ろへ周りメイスを構えなおす。
 防御はリックにまかせて攻撃を当てる。そう集中するが、ジワジワと追い詰められている感覚がまた襲ってくる。

 そして、リックの盾も切られた。
 作戦通りにニコは振り上げたメイスを体に叩きつけようとした。
 しかし、スケルトンはリックの体に寄り添うように動く。
 まるで背中を仲間に預けるように、リックに密着した。
 リックを巻き込むと思い、躊躇した攻撃になる。
 重いはずのメイスの攻撃を、スケルトンはクロスにしたシミターで簡単に受けた。
 その隙だらけの体にリックのメイスが迫るが、体が崩壊したように地に落ちかわした。

 その後も、二人は連携し、呼吸を合わせて隙の無い攻撃を繰り返したが、一度としてスケルトンに当たらない。
 こちらの攻撃を受け流しながらも、あの剣は余裕を持って舞っている。俺たちはその動きについていけない。 
 メイスは単なる「おもり」に過ぎない。
 ただ、二人で重い錘を振り回し、その中をスケルトンは踊っている。
 人間には不可能な、肩や肘の可動範囲での背後にまで迫る鋭い斬撃。
 時に自身の骨の隙間を突く予想外の刺突。
 細かい切り傷が鎧兜や体に増えていく。
 強い攻撃は肩当を吹き飛ばし、金属の胸当てや兜をも切り裂く。
 敗北を感じていたが、突如、攻撃をやめるスケルトン。

 そして一刀の剣先をリックに向けた。その後、リックばかりを攻撃し始めた。
 シミターを握ってはいるが、リックの体を殴る蹴るような攻撃を繰り返す。
 ニコは隙を見てメイスで攻撃するが、まったく当たらない。
 リックは防戦一方になり、口で呼吸をしている。

 リックもニコもスケルトンに突き飛ばされた。
 そしてスケルトンは剣を一本鞘に収め、自身のシミターと腰の鞘を指さし、リックの腰の剣を指さして口を開閉している。声は出ていないが
「剣で戦え」
 そう言っているのがわかった。
「相手も苛立っている。メイスを一発当てるぞ」
 そうして戦いを続ける。

 しかし、スケルトンは素早い突進攻撃でニコの腕の肘から先を切り飛ばした。
 まだ薬の効いているニコは鈍い痛みを感じていた。
 しかし、激痛は無くとも、腕を失ったショックと「二人掛かりで手も足もでない」という状況に片膝を地についてしまった。
 スケルトンはそんな姿を見下し、襲ってこない。
 リックはニコの近くに来て、治療のポーションを飲ませた。
「ばかにしやがって…」
 そうつぶやいて、リックはメイスを投げ捨てた。

「そんなに剣で戦いたいのか!この下郎が、望み通りぶった切ってやる」
 そう言ってリックは剣を抜き放った。
 左手を広げ、距離とタイミングを測り、右手の剣で刺突や斬撃を放つ流派の剣術。
 一般的ではなかったが、この流派の剣術が合う剣士は皆強い。
 間合いの取り方、タイミング、威力とスピード。
 どれをとってもニコはかなわないと思ってしまう。
 体になじんだ使い慣れた名刀の直剣は、スケルトンのシミターと火花を散らす攻防を繰り広げていた。
 そして、スケルトンの体にあたり、ジワジワと骨を削っていた。

 そう思っていた時に、必殺の刺突の切っ先が頭蓋骨を捕えたように見えた。
 腕の痛みに耐えて見守っていたニコは
「勝った」
 そう思ったが、刺突の切っ先をスケルトンは口で噛み止めていた。
「なんだと…」
 ニコがそういったのか、リックがそういったのかわからなかった。二人ともかもしれない。

 その後もリックの猛攻が続く。
 スケルトンは二本のシミターを使って防戦一方に見えた。
 一時間ほど、リックは攻撃し続けていた。
 肩で呼吸をし、ふらつく足元。
 そしてついに片膝をついた。単純な疲労の蓄積だった。
 腰ベルトから強化薬を取り、飲む。
 しかし、限界を超えて疲労した精神と肉体では、もう効果がなかった。
 それでも、剣を杖替わりに立ち上がり、両手で剣を構える。
 その様子を見守っていたスケルトンは、音がしないような鋭い踏み込みからの二刀の斬撃を放った。
 今まで見た中で最も早かった。
 リックの両手首を切断し、握った両手をはぎ取り、剣を持ち去るスケルトン。

 そして、ニコとリックにもう一人のスケルトンが迫る。
 余力の無い二人の抵抗空しく、突き出された指先の突きで、首を貫かれ殺された。
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