スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

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墓地の攻防

スケルトン エッジ対軍人

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 俺たちの墓地に生者が進入してきた。
 強そうだ。楽しみだ。

 しかし、俺の前に「エッジ」が立ちはだかる。
 そして、俺を両手で突き飛ばす。
 墓地の入口を指さし、自分の頭蓋骨を指さす。
 そして、口を開け、何かを叫んでいる。
「あれは俺の獲物だ。手を出すな」
 俺は赤い影にも苛立ち、エッジの態度にも怒りを覚える。
 だが、鬼気迫るエッジの「吠える姿」に託すことにした。
 俺は下がり、墓石に寄りかかる。

 エッジは背中から二本のシミターを抜き放つが、糸の切れた操り人形のように人形のようにだらりとなった。
 二本のシミターは切っ先が地面についている。
 墓地に進入した兵士は構えながらジリジリとエッジに近寄る。
 一度だけ、エッジの僅かにあげた剣先にピクリと反応したが、盾を押し出しメイスを構え様子を見ている。

 食事も不要、疲労もないスケルトンに長期戦は不利なはずだ。
 夜間は不利と日中を選んでいるのだろうが、今日は既に黒い月は半月だが昇っている。
 様子を見て、精神的にも肉体的にも追いつめられるのは生者だろう。

 一人の兵が数歩下がる。
 そして腰から何かを取りだし、飲んだ。
「かああ」と叫んでいる。
 知っているぞ。あれは「強化薬」だろう。
 ディクト教では禁止のはずだが、軍は許可しているのか。
 何故かはわからないが、俺は「人間の知識」を知っている。

 思い出したのか、死体の知識か。
 それは問題ではない。
 その知識を使い、いかに有効に使い、効率的に奴らを、生者を殺すのかが重要だ。
 そんな思考の最中、エッジが動いた。
 土煙が上がる。
 ものすごい速度だが、単なる突進からの、二刀の十字の切り上げに見えた。
 真正面に立っている兵士の、表面だけ鉄板を貼られた盾に阻まれた。
 もう一人の兵士の反応は早く、上から振り上げたメイスを落とす。
 エッジは素早いバックステップで躱すと、そのまま数歩跳ねて下がり、また同じ「脱力」の姿勢。
 何がしたいのだ?
 そう思ったのだが、盾で防いだ兵士は盾を捨てた。
 投げ捨てられた盾は四つに「分割されて」いた。
 盾とシミターの当たる音はしたか?


 完全にはわからない。
 だが、多分…
 エッジは相手の受け方や刃の入る角度、立ち位置を測っているのだろう。
 一撃で鉄をも切断できると見せているのだ。
 そう、きっと「わざと」だ。
「死ぬ気で全力を出して戦え」
 そう言っているのが聞こえる。
 そして、狙いはもう一つの盾か?

 狙い通りなのか、盾を切られた方は、盾を構えた兵士の後ろでメイスを構える。
 二人とも顔色が悪いな。もっと楽しそうな顔で戦えよ。
 そんな事を考えていると、やはりもう一つの盾も縦に切られた。
 しかし、その攻撃直後の隙を狙ったメイスが頭上に迫る。
 エッジは盾を切った直後から、盾を切られた相手にピッタリとくっついていた。
 やれるか生者よ。
 味方の生者を巻き込む攻撃を。

 やはり、失速した攻撃になり、クロスしたシミターで攻撃を受ける。
 もう一人の横殴りの攻撃を、地面にペタッと張り付くようにしゃがんで躱す。
 あれは生者では無理な動きだ。関節の可動範囲を超えている。
 そのまま渦を巻くように素早い回転でたちあがると、今度は一気に攻勢にでる。
 二人いるとはいえ、振りの遅い、重たい金属のメイスではもうエッジを捕えられない。


 踊るエッジは二人の間を舞い続ける。
 胸当てを切り裂き、肩当を飛ばし、鉄の兜を切り刻んでゆく。
 手首や肘の関節を外し、すばやく回転させるシミター。
 エッジの変幻自在の攻撃はもはや一方的になっていた。

 しかし、突如シミターでの攻撃をやめたと思うと、一人を集中的に狙い始めた。
 シミターを握ったままの拳で殴り、肘、膝、足で打撃を加えだした。
 狙うのなら「弱い方」がいいと思っていたのだが、その攻撃も終わる。

 間合いができた時にエッジはシミターを一本鞘に収め、自分のシミターと自身の腰、相手の腰の「剣」を指先で示している。
「剣で戦え」
 明らかにわかるその動作だったが、兵士たちは応じなかった。

 カッと口を開けたエッジは、カツンと口を閉じると、「弱いほう」に最初に見せた突進攻撃をする。
 弱い方の腕が一本、メイスを握ったまま飛んだ。
 長い戦闘による疲労か、兵士は二人とも反応も顔色も悪い。

 腕を飛ばされた兵士をいたわるっていた「強い方」だったが、メイスを投げ捨てる。
「そんなに剣で戦いたいのか!この下郎が、望み通りぶった切ってやる」

 剣を抜いた「強い方」は別人になった。
 メイスは「手に持っている武器」だったのにたいして剣は「腕から生えている」と思えるような生き生きとした動きをしていた。
 左手を広げ前に突き出し、顔の横から相手へ切っ先を向ける独特の構えからの斬撃、刺突。
 エッジに匹敵する速度の剣劇は、激突するシミターと火花を散らし、エッジの骨を僅かずつだが削っていた。
 しかし、やはり剣では致命傷を与えられない。
 肉がない身では骨を断つような斬撃でなければならず、接戦ではそんな大振りはできない。
 そして、鋭い刺突は、骨の隙間を抜けてしまう。

 一度、エッジの頭蓋骨を捕えたかに見えた刺突も、エッジは刃先を口で噛んで止めていた。
「余裕があるな」
 そう感じさせる動きだった。
 そして、続いていた戦闘も、終わる。
 エッジは敢えて守勢に回っていたのだろう。
「強い剣士」は口を開け、肩で呼吸をしていたが、片膝をついてしまった。
 エッジはしばらく見守る。
「強い剣士」は腰から取り出した何かを飲み、剣を杖に立ち上がるが、その目は淀んでいた。
 バテた相手に興味を失ったのか、剣士の腕ごと剣を斬り取り、エッジは俺の隣に来て墓石に寄りかかった。

 腕の無い兵士二人は俺がとどめを刺しておいた。
 強化剤の脱力もあるのだろう。
 ほとんど抵抗もなく、あっけなく殺されてくれた。
 エッジは剣を気に入ったようだ。
 しばらく剣を見つめると、数度頷く。
 腰の剣を抜くと「強い剣士」の死体に刺して立てた。
 そして鞘を奪い、自身の腰に差した。

 朝日の昇った直後から始まった戦いだったのに、空には黒い月がでている。
 丸い白い月の光を奪うように輝く黒い光の中でコウモリが踊っている姿が見えた。
 墓地に吹く冷たい風が、静寂の帰還を知らせていた。


 軍内部

 司令官室のドアが静かにノックされる。
「入れ」の声と同時に入った将校が敬礼と同時に報告を始めた。
「報告です、デリテメト墓地にて、リック中尉とニコ少尉の死亡を確認しました」
 ハンスは椅子に崩れ落ち、おなかを両手で押さえた。
「本部になんと報告すればいいんだ…参謀を呼べ。それと、冒険者組合に連絡してくれ…」
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