スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

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ルーの書斎

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 ルーの書斎にいる。
 何度、ここと取引の間を移動しているのだろう。
 記憶も意識もかなり曖昧に感じる。
 このような事が過去にもあったような感覚。
 ここで何日過ごしている?

「お前達はわかっている」
 ルーは机の上で祈るような姿勢をしている。
「ワシは少し外れる。ドロシー」
 ルーが消える。俺たちは動けるようになった。

「いったい、アイツは何がしたいのだ?」
 俺がそう口を開くと、エッジが笑った。
「はっは。いいじゃないか、兄弟。ここはあの陰気なヴァンパイアたちの所より退屈しないかもな。お前も強いのだろう?」
 エッジが背後のドロシーに顔を向ける。もうやる気のようだ。
「どうでしょうね。私はあなたのような野蛮人ではないので。ここの『管理』を邪魔するのなら容赦はしませんが」
 エッジは一歩、踏み込んだ。
 その踏んだ地面を俺は見たはずだ。
 エッジもドロシーも消えていた。

 そして、ドロシーだけが部屋の入口から入ってきた。
「あなたは…少しお話ししましょうか」
「お前、エッジはどうした?」
 俺は警戒して、距離を置いて身構える。
「無事ですよ。しかし、あなたからも言ってください。ここでは無駄ですと」
 俺はそれを薄々わかっている。そしてエッジにも言ってはあるのだが。
「やはり、あなたにはわかっているのですね。なら仕方ありません」
 そうか、思考は筒抜けか。
「ええ、ですから、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」
 何故か、俺には彼女が微笑んでいるように見えた。


「改めまして、私はドロシーです。マスターよりここの管理を任されています。答えられる範囲でしたら質問に答えます。あなたは…マスターは『ケイ』と呼んでいましたが、お名前は?」
 ケイ…何か引っかかる。俺の名前…だったはずだ。しかし、何か違和感があるな。
「そうですか。では、お名前を呼ぶのは控えておきますね」
 そうしてドロシーとの対話をした。

 ドロシーの話しも、少し理解が難しかった。
 あのリッチのルーに使役されるスケルトンが低能とは思えないが、知能が高いのか高すぎるのか、俺の知能が低いのか。
 とにかく、エッジは無事で、存分に戦っているようだ。
 心配しなくても、エッジに勝てるような存在はこの世に少ないとドロシーは言っている。
 お前やルーはどうなのだ、と思うが。

 そして、俺の推測の話しもした。
 ルーは俺とエッジが「交渉」に来た事を知っており、その交渉の条件を聞く「取引」の材料として使役されているのだろうと。
 ドロシーの回答も「そうだ」との事だが、その交渉の結果は対価次第だし、マスターが何を求めるかは、不確定のようだ。
 話しをするだけでも、対価を求めるのはどうなのだ。

 そして、この場所は基本的に「生者」にはたどり着けない場所で、あるダンジョンと接続されており、そのダンジョン側で「取引」を持ちかける生者と戯れに対応するのがリッチの日常のようだ。
 それ以外は、リッチはここで研究や実験をしており、その内容や全貌はドロシーにはわからないようだ。

「後一つだけ教えてくれ。ドロシー、君は生者を見ても、殺戮の衝動に駆られないのか?」
「私は克服しています。マスターに支配されていますから。マスターもあなたのお友達も克服しているではないですか」
「理解できないな。たびたび無知で申し訳ないが、『克服』とは何をどうしている状態だ?」
 ドロシーは小首を傾げて、口を抑えた。
「笑ってしまってごめんなさい。あなた、素直で良い人ですね。克服とは、アンデッドの思想を上回る理知や行動理念で振り回されない状態です。マスターなら『探求心や研究』あなたのお友達のエッジなら『戦闘』ですかね」
 そうだったのか。
 俺は…生者を討ち滅ぼしたい。
 しかし、強者との戦闘の楽しさも理解している。
 そして知恵の探求も、無知だが知る楽しさがある。
 俺は、俺自身は一体何なのだ。
 ルーなら何か知っている。
 それを聞き出す事はできるのか
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