スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

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力を求めて

炭鉱町とストーンバック

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 俺は森に入り、木に登った。
 街に向かったストーンバックの動向を見る為だ。

 町の入り口付近にいた二人組の門番。地響きに反応し出てきたが、ストーンバックの姿を見ると、すぐに街中へ逃げた。
 鐘の音が鳴り響く。
 ストーンバックは町に侵入後も疾走する。
 道があろうと無かろうと。
 建物に体当たりし、人を轢き倒し、時には屋根の上に乗り、踏み砕き、何かを目指し突き進む。
 その身に矢や投げ槍などを受けても、気にしている様子は無い。
 たまに、「ウォー」とか、「アー」と重低音の奇声を上げている。

 町中が大騒ぎだ。
 一部の地区は統率が早い。
 人をまとめて避難させて、戦うのか、足止めの部隊を作っている。
 それ以外の人々は、パニックなのか、バラバラに逃げている町人が大半だ。

 ストーンバックは、高い建物にたどり着くと、建物を持ち上げようとしている。
 石積みの二階建ての建物は大きい。
 大きなストーンバックが両手を広げても、壁面一つの両端に届いていない。
 しかし、建物は崩れながらも、地から離れた。
 ストーンバックの十倍もある大きさの建物が、ストーンバックの体の上にある。
 崩壊し続けているが、傾いた建築物が持ち上げられる光景は、沈みかけた夕陽に照らされ、現実感がなかった。
 持ち上がる前から、ストーンバックの隙だらけの体を攻撃していた者たちも、蜘蛛の子を散らすように逃げた。

「ほー」

 大きな重低音の叫びと共に、建物が宙を舞う。
 ふわりと飛んだ建物は、他の建物と激突する。
 派手な音を撒き散らし、周囲一帯は瓦礫の山になる。

 移動したストーンバックは、両手を高く上げた。
 そのまま静止する。
 一瞬だけ、風も止み、町の悲鳴や絶叫もなくなる。
 その静寂をも砕く勢いで、ストーンバックの両手が地面に叩きつけられた。

 町中には地割れが走り、地面は一部波打ち、周囲の建物は倒壊、崩壊している。
 半径五十メートル内に、立っている者は中心のストーンバックしかいない。
 ストーンバックは、崩壊した民家の残骸に入ると、鍋のようなものを摘み上げ、そのまま固まった。

「身体活動を停止しているようです。何故かは不明ですが、思考にリソースを割いていると思われます」

 ドライアドの発言の意味はよくわからないが、ストーンバックは生者の味方ではないのか。
 既に何十人も人間を倒している。
 わからないものはわからない。
 また動き出すのか不明だが、明日の日の出までは様子を見ようと決めた。

 混乱していた町の警備兵たちが、その指揮を取り戻していた。
 町人を誘導して海の町へ逃したり、ストーンバックの周囲に人員を配置して警戒している。
 生き残りの救助をするものや、崩壊した自宅を見上げて呆けている者もいる。
 動かないストーンバックを武器で攻撃するものもいたが、単なる岩を攻撃し続けるものはいないようだ。


 完全に日が落ち、篝火や松明の火が揺らぐ。
 まだ避難している者や、仮設のテントなどが立てられている。
 ストーンバックの周りにも、篝火が囲み警備の者が数名ついている。
 啜り泣く声も風に乗る。

 町は半壊し、夜半には鎮まり帰っている。
 ストーンバックはゆっくりと動き出す。
 胸の口に鍋を入れてから、うたた寝をしている二人いる警備兵の兜を頭ごと、ちぎり取った。
 もう一人の兵士が気づいて叫び逃げた。
 ストーンバックは、中身の入った鉄兜を胸に抱きしめ、片手で撫でているように見える。
 愛おしそうに、優しく、何度も何度も撫でる。

 数人の兵士が遠巻きに取り囲むも、ストーンバックは兜を撫でていた。
 兵士たちはストーンバックを攻撃しない。
 指揮官の指示か、無駄だと思ってか。
 町は多くの炎がゆらめき、再び騒がしくなった。

 重装の全身鎧の兵士たち四人が現れて、ストーンバックに近寄る。
 ストーンバックは、鉄兜を投げ捨てると、重装の兵士一人に襲いかかる。
 軽々と重装兵を持ち上あげ、そのまま隣の兵士に投げつける。
 数人の兵士たちが攻撃するも、多少岩が欠ける程度だ。
 ストーンバックは怯みもしないし、気に留めている様子はない。
 周りの兵士数人をなぎ倒し、突然走りだす。
 四足移動で地を響かせ、建物に体当たりをする。
 崩壊した建物を入念に殴り破壊している。
 稀に瓦礫を近くの兵士に投げつける。

 動きに規則性はない。
 重装兵士の鎧を剥ぎ取ると、胸の口を開けて、鎧を咀嚼しているようだ。
 もう町の住民どころか、兵士たちも町を捨て逃走をはじめている。

 俺は森から街道に出た。
 こちらに来る人間は少ない。
 馬車用の運搬用の道路で、人用は別の道があるのだろう。
 無造作に街道に来る者を殴り、突き、蹴り、殺す。
 俺が町に侵入した時には、動けない人間くらいしか、生きているものはいない。
 朝日に照らされる廃墟に、赤い視界に映る人影は少なかった。
 ストーンバックの攻撃と言うよりも、建物倒壊に巻き込まれて、圧死している者が多い。

 突如、ストーンバックが俺の元へ走り寄る。
 何がを大量に抱えている。
 それを俺の前でガラガラと落とす。
 再度、背を向け何かを拾い集めて俺の前へ積み上げていく。

「ケイ様への供物…のつもり…でしょうか」
 ドライアドの自信無さげの言葉。

 建物の瓦礫、中身の入った鉄兜、剣、鎧、鍋や壊れたテーブルや椅子にタンスなど。
 統一性はない。

 積み上げられた、それらの前にストーンバックが座りこんだ。
 一本の剣と槍の穂先を掴み上げ、自身の胸の口に入れ咀嚼している。
 共に食えと言う事か。
 わからん。
 だが、多くの生者たちの骸に囲まれて、気分は良かった。 
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