スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

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力を求めて

森の追跡者

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 冒険者二人に遭遇したが、その後は生者を見かけなかった。
 ストーンバックの後についていくと、森の中にポッカリとあいた大きな穴についた。

「ご、ここ、うまー」

 太く低い声でストーンバックは穴を指している。
 何か、うまいのか?わからん。

「ぼわー」

 謎の雄叫びを上げ、ストーンバックは穴に飛び込んでしまった。
 穴の縁に立ち、下を見下ろす。
 闇夜を見通す俺の目にも、底は見えなかった。

「ドライアド、ここはなんだ?」
「地形の歪みで出来た穴ですね。地底の空気の抜けた後です」
「下には何がある?」
「岩石でしょうか…希少なものもあるかと」
 曖昧だな。まあいい、ヤツは意味がわからん。

 しかし、これからどうするか

 視界が一瞬赤くなった。
 生者が、俺の索敵範囲の際にいる。
 しかし、すぐに消える。
 一人じゃない。数人。

 ドライアドも感知したようだ。
 索敵範囲は俺と同じなのか。

「もう少し近づかないと捕縛できません。接近したら任せてください。森ならば、わたくしの力をお見せできます」

 自信満々にそう答えていた。
 たしかに、前回は見事だった。

 生者の反応に迫る。
 しかし、視界は自然の色彩を保ったままだった。
 何故だ?

「お待ちください。罠です。あの木の辺り」

 ドライアドの感覚が伝わり、そこを見る。
 なるほど、木の根元にロープを張り転倒か感知を狙ったものか。
 他にも魔法を使用したのか、落とし穴や吊り上げの罠もある。

 狙いはストーンバックなのだろう
 だが、あの程度の仕掛けなど、奴の足止めにもならないだろうが…そうか。
 やはり居場所の特定や、移動を知るためのものか。

 ならば

 あの聖女の浄化を思い出す。
 広範囲であの威力。
 あれを避けたり躱したりは不可能だろう。
 もし、またあれをやるのなら、対象をその効果範囲に誘導する必要があるはずだ。
 その為には、多方面からの攻撃や誘導を狙うだろう。

 一度、試すか。強い相手に囲まれたいが、弱すぎては無意味か。

「ビュル、罠の位置を把握して置いてくれ。後で起動させるから、その準備もできるか」
「お任せください」

 任せきってもいいのか。
 ビュルはいつか裏切るものだと思い、それも想定に組み込む。
 もしビュルが裏切り、強い冒険者に囲まれたとしても、聖女相手よりも容易いだろう。
 しかし、俺はやる。
 必ず…


 わかる範囲の罠は掌握した。
 その中心部へ向かう。
 数度、赤い生者を見たが、今は無視だ。
 怒りを抑え込み、歯を食いしばり、走る。


「ビュル、罠を全て起動させろ」
「わかりました。こちらに誘導もしておきます」

 周囲の森の数カ所の木々が動き、道ができる。
 いいぞ、俺を追い込め。

「いつ捕らえましょうか?」
「不要だ。もう手を出すな」
「しかし、わたくしの力を…」
「黙れ」
「はい、ケイ様に従います…」

 来る、三、六、十か…小さな赤い影。小人もいるのか。来い。全て食い破ってやる。


 俺を囲むように、四方向から生者が集まってきた。
 赤い視界に怒り、震えてる体を一度力ませ、震えを止め、力を抜く。自然体で生者を見渡す。
 口々に「スケルトン?」「ストーンバックはどこだ?」と言っている。しかし、対ストーンバックに向けて選ばれたのだろう。皆腕はたちそうだな。
 警戒して一定の距離を保って身構えている。

「とにかく倒しておくか」
 トサカの生えた兜の生者が、メイスを構えて踏み出してきた。
「待て!コイツ、森の力を秘めている!」
 ローブ姿の小人が、野太い声で叫ぶ。
 後、三歩で間合いに入るトサカ兜の動きが止まる。

「まとめてかかってこい!」
 大声で俺は叫ぶ。
 叫ぶと同時に、近づいていたトサカ兜に走り寄る。
 メイスなどの殴打武器は、振り上げないとたいしたダメージは出せない。
 ならば
 俺は素早く間合いを詰めて、抱きついた。
 トサカ兜の反応は早く、体の前でメイスを構えて防御姿勢だった。
 しかし、メイスも腕も、まとめて、俺は体の骨を伸ばし、関節を外し、絡みついた。ヘビのように巻きつく。

 海底に棲むタコのように、体の上を移動しながら巻きつき、その体を締め上げる。トサカ兜は力強く踏ん張り、倒れなかった。
「クソっ、なんだよコイツ!ショーン、手を貸し…ぐああああ」
 うまく手足が巻きついた。肩関節を外した手ごたえがあった。しかし、倒れないな、コイツ。

 数人の冒険者が詰め寄っていた。
 いいぞ、こんな展開を期待していた。
 近づいてくる生者は皆、赤い影は濃い。聖職者には見えないが、青い光が漏れているものたちもいる。全部、強そうだ。

「おい、人間ども!お前らは逃げろ!」

 何?あの小人は何を言っている?
「対ストーンバック用に仕込んできたのに、コイツに使ったら赤字だ」
「お前、助かったらちゃんと代金を払えよ!それとギルドにも『強いスケルトンを倒した』と報告もだ」
 ドワーフたちは、口々に何かを言いながら、俺を取り囲む。たったの四人か。
「うう…早く助けてくれ」
 俺に巻きつかれ、関節を外されても倒れないトサカは弱々しい声をあげる。

「大地の神、炎の神、その偉大なる力をここに示せ」

 俺を挟む位置で、二人のドワーフは祈りだした。
 祈りに対して、俺はないはずのはらわたが煮える。
 祈る小人から黄色い光がにじみ出ている。
 トサカから離れ、近い方の祈るドワーフ目掛け走る。

「させるかよ!」
 鉄兜のドワーフが立ちはだかった。
 自身の身長よりも長い鉄棒を斜めに構えている。
 後ろで祈るドワーフも巻き込むつもりで体当たりをした。
 だが、鉄兜のドワーフを僅かに後退りさせただけであった。
「この程度か、骸骨」
 なんだ、この力強さは。これが、ドワーフの力か。

「ケイ様、いけません」

 蔓草や木の根が、そこかしこから伸び、ドワーフたちに迫る。
「わたくしが足止めをします。逃げてください!」
「余計なことをするな」
 声を出さず、思念で答える。
 しかし…

 ドワーフに絡みついたはずの草木は、力無く萎れていく。
「森の守り手にも聞いたな。ストーンバックよりも弱いんじゃないのか?」
 祈っていたドワーフの手から、何かが砕け散る。
「二つもいらなかったか。なあ、骸骨」
 ローブのドワーフに睨まれた俺は、地面に引っ張れ、倒れた。大地に引きつけられ続け、動けない。

「ケイさ…お逃げ…さい…」
 かすかにドライアドの声が聞こえた。
 だが、俺は既に鉄棒に打ち据えられ、砕けてゆく。


 俺の思考も意識も、大地に染み込み広がっていく。
 俺の体を踏み砕いていたドワーフが口を開いた。
「まあ、こんだけ砕けばくたばったか。玉は後何個だ?」
 ローブのドワーフは不機嫌そうに怒鳴る。
「後三つしかねぇ!ヤツ相手には充分だとは思うが大赤字だ」
 そんな事を言いながら、奴らは去っていった。


 俺の体は粉々に砕かれたが、大地に深く刺さり動かない。微かな意識、思念は残っていた。
 自分の意思では、もう動く事が出来ない。

 どれだけ時間が過ぎたのか、昼なのか、夜なのかも定かではなかった。
 爪楊枝のような、小枝が歩いている。
 一つではない。
 いくつもの、小さな小枝が蠢いている。
 ドライアドか。
 俺の砕けた骨を、小石を拾い上げ、さらに細かく砕いている。

 こんなところで俺は終わるのか。
 とどめは、ドライアドに刺されるのか。
 勇者と聖女に…一矢報いたかった。

 くそ…クソクソクソッ!

 怒りに燃えるが、もう俺には体が、ヤツらを討つ体も力もない。
「ケイ様…やっと、お話し出来る状態まで回復できました」
 ドライアド、俺を砕いて空に撒いてくれないか。エッジの、友の思いに答えたい。無理ならばいい。
「何を言っているのですか?無理に決まっています」

 そう…か。
 エッジ、お前の生まれた国の、砂漠に舞う風にはなれないようだ。仇もとれず、すまない。

「討つのでしょう、勇者を。倒すのでしょう、聖女を!」
 ああ、そのつもりだった。
「約束してくださいますか?」
 何だ?もうお前の好きにしたらいい。

 俺の体は完全に粉末化していた。
 粉になっても、大地に縛られて風が吹いても、舞うことはない。
 黒い煙が数か所で細く渦を巻いている。

「わたくしの事は、今後『ビュル』と呼んでください。ドライアドではなく、ビュルと言う名で」
 ああ、ビュル。ビュル様の方がいいか?支配者らしくな。

「ふざけないでください。わたくしも意識や、操作を維持するのが困難なのです。必ず助けます。約束しましたからね」
 俺を助けるつもりなのか?
 俺も意識を大地に引かれ、維持するのが難しいようだ。だんだんと揺らいでいた。




「追跡できなくなって心配していたのですよ。まさか精霊封じにやられて、精霊に助けられるなんてね」
 この感じは、ドロシーか?
「そろそろ動けるでしょう?起きなさい、ケイ」

 何かされたのか、俺の意識は急速に集まってきた。
 眠りから覚醒するようだ。
 もう少し、眠っていたかったのだが。
「では、行きなさい。精霊を操るものには気をつけなさい」
 地に倒れたままの俺の体は、幾何学模様に囲まれ、白い光に包まれた。 
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