スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

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復讐

肉体

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 俺の頭蓋骨の中に移植されたヒャルマーと、言葉を交わせた。
 正確には、「ドライアドに取り込まれた」ヒャルマーだが。

「ワシの力をケイ殿のお役に立ててください」
 以前の壮言な口調はなく、ビュルに近い話し方をしている。
 明らかに、以前の人格など消滅していた。

 ビュルの精神を通じて、ヒャルマーの記憶が断片的に流れ込んできた。
 ヒャルマーは実際にドワーフの王族であり、侵略に対抗するために、王家に使える魔術師たちに依頼し、生前に「死んでも戦えるように」自身に魔法だか呪いを多数かけた結果、知性のあるゾンビのような今の姿になったようだ。

 王家を、あるいは民を守るために、そうなったのかは不明だが、自身も魔法や錬金術を習得した。
 その執念で、死後も研鑽を重ね、領土奪還を狙い、俺を利用しようとして、逆に取り込まれている。

「ケイ様の骨格に、わたくしの枯葉を纏い、ヒャルマーの錬金術で体表を形成すれば、生者として、街などに潜り込めるかもしれません」
 ビュルの話を聞いていたが、生者に偽装することに興味は無かった。

「今後、勇者や聖女の情報を収集したり、彼らの協力者を暗殺するなど、いくつかの使い道はあるかと」
 ドライアド、ビュルの言に、俺の視界は赤く染まる。
 確かに聖女の討伐に、生者の街に潜伏するのは効果的に感じる。
 万が一、土壇場でビュルとヒャルマーが裏切ろうとも、まとめて食い破ってやる。
 はじめから、俺は一人で全てやるつもりだ。

 うっすらと黒くなる視界の中で、ヒャルマーが告げる。
「一度、試してみませぬか?」
 ヒャルマーの錬金術と土の魔法がどの程度なのか、興味はあった。

「土と油を使えば、簡易的なものはすぐにできます。しかし、鮮度を保つには、新鮮な血肉が必要になってきます」
 ヒャルマーの説明では、髪の毛などの毛は、生者から奪ったものを流用したほうが完成度が高い。そして、みずみずしい肉体に見せる為には、定期的に血肉を補給したほうが、鮮度がいいそうだ。

「それと、申し上げにくいのですが…
 ケイ殿の身体では、手から礫は放てないようです。土への親和性などの影響で、足裏から土や石を吸収することが…」
 俺の体では、ヒャルマーがやったようなショットガンのごとき礫は打てず、錬金術も土魔法も使えないようだ。
「それでは、生者に偽装することしかできないのか?戦力的な部分はないのか?」
 はじめから、期待はしていなかった。だから怒りもなく、平坦にヒャルマーに問いかけると、ヒャルマーは自信に満ちた声で答える。
「その為に、一度、肉体化を試してほしいのです。力を実感できるはずです。ケイ殿のお力になれると信じています」

 仮初の肉体が出来上がった。
 俺の骨格をビュルの枯れ葉や草で肉付けし、ヒャルマーの術で体表を覆う皮膚ができた。
 皮膚は日照りの後の地面のようにひび割れ、髪の毛は萎びた細い木の根のようだった。
 そして、眼球はなく、落ちくぼんだ眼窩がむき出しであった。だが、見える。

「材料が足りませんので、必要に応じて集めていきましょう」
「ケイ様は元より、魔術的な攻撃には適しておりませぬが、身体機能は向上しているはずです」

 ヒャルマーやビュルは何かを言っていた。
 しかし、俺の耳は聞いていない。
 以前、勇者と戦った時にビュルの枯れ葉を纏った。
 あの時は、自身の身体能力が上がっていることが実感できた。
 力が強くなり、反応速度も俊敏さも格段にあがっていたはずだ。

 だが、この体はなんだ

 匂いがある。空気の動く音が聞こえる。
 指先の触れる感触、大地を踏みしめる足の裏、顔に感じる風。
 むせ返る青草の匂いに、胸が締めつけられるような湿気──もし呼吸をしていれば、きっと息苦しさを覚えていただろう。

 見た目は不格好でも、内部からあふれ出る力の圧倒的感覚

 俺の意志通りに動くのかを試そうと、助走をつけて目の前の木に向かい走る。
 踏みしめる大地から、木の幹に垂直に向き直り、走りあがる。
 足の裏はしっかりと幹を掴み、伸ばした手は枝を払いのける。
 高さ十メートルほどを駆け上がり、枝に立つ。

「ビュル、ヒャルマー。お前達が力を貸してくれているのか?」
 以前の俺の力では、こんな木の登り方なんてできなかった。
 俺個人の力ではないはずだ。
「ケイ殿、我が力はケイ殿の力。これはケイ殿の体ですぞ」
「そうです。ケイ様のお力になるために我々は存在しているのです」

 俺は以前のヒャルマーを思い出し、ビュルの能力を鑑みる。
「ビュル。お前は以前、俺を取り込もうとしていたはずだ。取り込まれたら、今のヒャルマーのように俺もなっていたのか?」
「ケイ様。あの時に誓ったように、わたくしはケイ様とひとつになりたいのです。こうしてケイ様の肉体となり、共にある事が望みなのです。もし…もしも、わたくしがケイ様を取り込んだとしても、何も変わることはありません」
 ドライアドのビュルの思考は、はっきりと読み取ることはできない。
 しかし、その言葉に嘘はないように思えた。

 だが、この力があれば、聖女を討つ事ができるかもしれん。
 待っていろよ…
 暗い眼窩の穴の中で、赤と黒が混ざった世界が広がる。
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