スケルトンとして生きるには、少しだけ狂っていなきゃいけない

ピモラス

文字の大きさ
94 / 99
復讐

冒険者フック

しおりを挟む
 勇者を追い、いくつかの街や村を滅ぼした。
 山間に籠った勇者もあぶり出した。

 もういいだろう。

 元々はビュルの発案だった。
「勇者を徹底的に追いつめて、心を折ってみてはどうでしょうか?」
 勇者は生者の味方だ。
 自身を犠牲にしてでも、他の人を守ろうとするのだろう。
 ならば、勇者だけは生かして、周りの生者を徹底的に排除していく。

 ストーンバックを貸してくれた山の精や、他国の間者も味方してくれた。
 偶然とは思えないタイミングに、何か力の働きを感じる。
 誰かの意志が絡んでいるような…そんな気がした。 
 勇者とは、時と場合によっては恨まれるものなのだな。
 俺を筆頭に…な。

 仕上げるのならば、そろそろだろう。
 ヤツは最終的に「ここ」に帰ってくるはずだ。
 今の俺ならば、生者に溶け込めるだろう。
 冒険者の証も運よく手に入れている。
 待っているぞ、勇者マーティン。



 …
 マーティンは、限界だった。
 守りたい人を一人も守る事ができず、最後に立ち寄った街では「災厄を呼ぶ者」と言われ、街に入る事も叶わなかった。
 逃げ込んだ山は焼かれ、もういっそのこと、楽になってしまいたい。そんな考えも頭をよぎる。
「マート。あなたを待っている人がいる。だから、お願い。私の為にも生きて」
 フィーンのその言葉を聞き、両親の姿が浮かんでしまった。
「僕が故郷に帰ってしまったら、村に災厄が及ぶかもしれない」
「マート。いえ、光の勇者マーティン。でも、休養も必要よ。私が守る」
 フィーンの言葉に、マーティンの足は自然と故郷に向かっていた。

 満足に食事を取ることもできなくなってしまっていた。
 やせ細った体だったが、移動している商人から馬を購入することができた。
 商人の護衛なども考えたが、もう気力がなかった。

 村はいつもどおりだった。
「マーティン!おかえり」
 両親も村の人々も、暖かく迎えてくれた。
 マーティンは、自宅に入ると、崩れ落ちるように眠りについた。
 …



「勇者は無事に帰郷できたようですね」
 俺は切り立った崖の上から、遥か遠くに見える勇者がいる村を見下ろす。
「ああ…ビュル、ヒャルマー。力を貸してくれ」
「ケイ様の望むがままに」
 俺の仮初の肉体に、力が漲っていくのを感じる。
 商人から奪った、身を隠すローブを纏う。
 遠目でなくても、人間に見えるはずだ。
「しばし、休息せよ、勇者よ。絶望を知る為にな」
 俺の体は、怒りで全身が燃え上がるような感覚に覆われていた。



 数日後

「俺は銀級冒険者の『フック』と言う。元勇者であるマーティン殿にお会いしたい」
 革の手袋で、首元の冒険者証を村の入口で見せる。
 眼前の生者に対し、震える体を抑える。
「アンタ、マートに何の用だ?」
 村の警護をしているらしい若者は、いぶかし気に俺と冒険者証を見る。
「勇者マーティンは光魔法の達人と聞いて、教えを乞いたい。武器はここで預けようか?」
 俺は背中にしょっているロングソードを外して、若者に押し付ける。
 剣など使わんが、この為に持ってきていた。
 正真正銘の銀級冒険者である「フック」の持ち物だ。
 持ち主はもういないが。

 若者は剣を受け取った。そして「ついてこい」と案内してくれた。
 家のドアをノックして「こんにちは」と声をかけると、中から女が顔を出した。
「この人は冒険者で、マートに会いたいみたいだ。起きてるかな」
 女は俺を家の中に入れた。

 勇者の家は、この村の中でまったく目立たない。
 狩猟を生業にする村のようで、家の外で獣やモンスターの革を干している家が多く、この家も例外ではない。
 勇者でも、給料はそれほどよくなかったのか。

 テーブルに案内され、椅子に座る。
 奥の部屋から、ヤツは出てきた。
 俺の視界は、揺らめく炎のように、真っ赤にゆらぐ。
 俺は椅子から立ち上がり、右手を胸に当て頭を下げる。
「光の勇者マーティン様。突然の訪問、失礼します」
 勇者は目を見開き固まっている。

 ふわりと空気が動く。
 どこから飛んできたのか、光の妖精が俺と勇者の間にいる。
「どうしましょうか。少し、外を歩きながらお話しを伺っても?」
 俺は席を立ち、外に出る。無手の勇者は無言でついてきていた。

「村の外、人の来ない所に行くか。一度、お前の話も聞いておこう」
 そうして、村を出て近くの河原まで歩いた。その間、勇者や妖精は何か言っていたが、俺は振り返らず、返事すらしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...