7 / 24
祖母の微笑み、後悔
しおりを挟む
―――ジージー
―――シャワシャワ
―――ミーンミーン
庭先を真夏の日差しが照りつける。
祖母が趣味で庭に植えていた松の木や柿の木に強い光が当たり、まぶしく反射していた。
樹の下には濃い影ができている。
柚月が縁側に座ると、蝉の声が一層大きく聞こえた。
湿度も気温も高く、蜃気楼が見える。
柿の木の下で、祖母がこちらを見て微笑んでいた。
「……」
柚月は目を細める。
つい先日、この村に来てから、祖母は一言も柚月に答えてはくれない。
ただ、穏やかに笑ってこちらを見つめるのみ。
柚月は周りに人がいない時を見計らって、祖母に声をかけている。
「…今日も暑いね。お祖母ちゃん」
祖母は答えない。
柚月は腿の上で、拳を握りしめた。
汗が額から頬に流れ落ちてきた。
そして、ずっと尋ねたかった質問を投げかける。
「お祖母ちゃん、私のこと、怒ってる…?」
柚月は静かに聞いた。声が揺れていた。
「ずっと、寂しかった…?」
俯いて、スカートの裾を握りしめる。
「もっと頻繁に会いにくればよかった」
祖母はただ微笑むだけ。
「ごめんなさい」
柚月は俯いた。
蝉の声だけが辺りに響く。
その時。
「怒ってないよ」
不意に聞き覚えのある声がした。
柚月は、はっと顔を上げる。
すぐ近くに、惣一が立っていた。
ゆっくり縁側に歩いてくると、すぐ隣に腰を下ろした。
惣一の不法侵入にはすっかり慣れてしまった。
柚月は惣一を見据えた。
初めて出会ったとき、彼は祖母に挨拶をしていた。
祖母の姿は、柚月にしか見えていないというのに。
「本当に、お祖母ちゃんのこと、見えてるんですか」
問いかける声は、風にかき消されそうに小さかった。
「うん」
惣一はためらいもなく答えた。
「君の大切な人だろう?」
柚月は祖母を見つめ、そしてぽつりと口にした。
「……明日が、四十九日です。
それが過ぎたら、もう会えなくなってしまうかも」
その前に、祖母に本当のことを聞きたかった。
「君は、お祖母様に対してもっと淡々としてるのかと思ってたよ」
柚月は苦しそうに眉根を寄せる。
「でも、違ったみたいだ」
惣一は黙ったまま、柚月の横顔を見つめていた。
その視線に気づき、柚月は目を逸らした。
―――看取れなかったことを、まだ悔いている。
そんなことを、彼が見抜いている気がして。
「……でも」
柚月は庭先の祖母を見た。
微笑むばかりで、声のひとつも返してはこない。
「本当に、怒ってないみたいですね」
惣一はほんの少しだけ、目を細めた。
「笑ってるだろう」
柚月は唇を噛み、縁側の縁を強く握った。
「……そう見えるなら、いいです」
柚月の問いに、惣一は淡々とした口調のまま、しかしどこかやわらかさを含んで答えた。
「……最期まで、やさしいひとだったよ」
一瞬、柚月の瞳が揺れる。
祖母を看取れなかった後悔や罪悪感が胸を締めつけるけれど、惣一の言葉はその痛みを少しずつ溶かしていく。
「……そうですね」
かすれた声でそう返した柚月の手に、
惣一がそっと手を重ねた。
驚いて顔を上げると、彼はいつもの胡散臭い笑みではなく、どこか優しい眼差しをしていた。
柚月は一瞬、息を呑んだ。
けれどその手を振り払うことはせず、ただ静かに視線を落とした。
2人はしばらく何も話さず、静かな時を過ごした。
―――ジージー
―――シャワシャワ
―――ミーンミーン
蝉の鳴き声だけが、響いていた。
―――シャワシャワ
―――ミーンミーン
庭先を真夏の日差しが照りつける。
祖母が趣味で庭に植えていた松の木や柿の木に強い光が当たり、まぶしく反射していた。
樹の下には濃い影ができている。
柚月が縁側に座ると、蝉の声が一層大きく聞こえた。
湿度も気温も高く、蜃気楼が見える。
柿の木の下で、祖母がこちらを見て微笑んでいた。
「……」
柚月は目を細める。
つい先日、この村に来てから、祖母は一言も柚月に答えてはくれない。
ただ、穏やかに笑ってこちらを見つめるのみ。
柚月は周りに人がいない時を見計らって、祖母に声をかけている。
「…今日も暑いね。お祖母ちゃん」
祖母は答えない。
柚月は腿の上で、拳を握りしめた。
汗が額から頬に流れ落ちてきた。
そして、ずっと尋ねたかった質問を投げかける。
「お祖母ちゃん、私のこと、怒ってる…?」
柚月は静かに聞いた。声が揺れていた。
「ずっと、寂しかった…?」
俯いて、スカートの裾を握りしめる。
「もっと頻繁に会いにくればよかった」
祖母はただ微笑むだけ。
「ごめんなさい」
柚月は俯いた。
蝉の声だけが辺りに響く。
その時。
「怒ってないよ」
不意に聞き覚えのある声がした。
柚月は、はっと顔を上げる。
すぐ近くに、惣一が立っていた。
ゆっくり縁側に歩いてくると、すぐ隣に腰を下ろした。
惣一の不法侵入にはすっかり慣れてしまった。
柚月は惣一を見据えた。
初めて出会ったとき、彼は祖母に挨拶をしていた。
祖母の姿は、柚月にしか見えていないというのに。
「本当に、お祖母ちゃんのこと、見えてるんですか」
問いかける声は、風にかき消されそうに小さかった。
「うん」
惣一はためらいもなく答えた。
「君の大切な人だろう?」
柚月は祖母を見つめ、そしてぽつりと口にした。
「……明日が、四十九日です。
それが過ぎたら、もう会えなくなってしまうかも」
その前に、祖母に本当のことを聞きたかった。
「君は、お祖母様に対してもっと淡々としてるのかと思ってたよ」
柚月は苦しそうに眉根を寄せる。
「でも、違ったみたいだ」
惣一は黙ったまま、柚月の横顔を見つめていた。
その視線に気づき、柚月は目を逸らした。
―――看取れなかったことを、まだ悔いている。
そんなことを、彼が見抜いている気がして。
「……でも」
柚月は庭先の祖母を見た。
微笑むばかりで、声のひとつも返してはこない。
「本当に、怒ってないみたいですね」
惣一はほんの少しだけ、目を細めた。
「笑ってるだろう」
柚月は唇を噛み、縁側の縁を強く握った。
「……そう見えるなら、いいです」
柚月の問いに、惣一は淡々とした口調のまま、しかしどこかやわらかさを含んで答えた。
「……最期まで、やさしいひとだったよ」
一瞬、柚月の瞳が揺れる。
祖母を看取れなかった後悔や罪悪感が胸を締めつけるけれど、惣一の言葉はその痛みを少しずつ溶かしていく。
「……そうですね」
かすれた声でそう返した柚月の手に、
惣一がそっと手を重ねた。
驚いて顔を上げると、彼はいつもの胡散臭い笑みではなく、どこか優しい眼差しをしていた。
柚月は一瞬、息を呑んだ。
けれどその手を振り払うことはせず、ただ静かに視線を落とした。
2人はしばらく何も話さず、静かな時を過ごした。
―――ジージー
―――シャワシャワ
―――ミーンミーン
蝉の鳴き声だけが、響いていた。
0
あなたにおすすめの小説
ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~
さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、
自分が特別な存在だと錯覚できる……
◇◇◇
『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。
主人公は大学生→社会人となりました!
※先に『恋い焦がれて』をお読みください。
※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください!
※女性視点・男性視点の交互に話が進みます
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる