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第四話『雨と風と、快適な寝床を求めて』
しおりを挟む朝日が、木々の隙間から差し込んでいる。
小鳥のさえずりのような、甲高い鳴き声でユウキは目を覚ました。
「(……朝か……)」
視線をゆっくりと下ろすと、自分のお腹の上で、真っ白な毛玉がすやすやと寝息を立てていた。シラタマだ。ユウキの体温が心地よいのか、安心しきった顔で丸くなっている。
その無防備な寝顔を見ていると、自然と口元が緩んだ。
「(……一人じゃ、ないんだな)」
その事実が、胸の奥を温かくする。
昨日の死闘が嘘のような、穏やかな朝だ。空腹も、体の痛みも、この温かさに比べれば些細なことに思えた。
「キュゥ……?」
ユウキが身じろぎしたことで、シラタマが目を覚ました。大きな黒い瞳でじっとユウキの顔を見つめ、それから「キュ!」と一声鳴いて、彼の胸に頭をすり寄せてくる。
「はは、おはよう、シラタマ」
頭を撫でてやると、シラタマは嬉しそうに喉を鳴らした。
と、その時だった。
ポツリ。
ユウキの頬に、冷たい雫が一つ、落ちてきた。
空を見上げると、さっきまでの青空はどこへやら、分厚い灰色の雲が急速に空を覆い尽くしていた。
ポツ、ポツポツ……ザアアアアアアッ!
森の天候は、気まぐれだ。
あっという間に、バケツをひっくり返したような豪雨が、森全体を叩き始めた。
「まずい!」
焚き火だ!かろうじて熾火(おきび)になっていた火が、容赦ない雨に打たれ、ジュウッ!という断末魔のような音を立てて、白い煙と共に消えていく。
「うわっ、冷たっ!」
「キュウウウッ!?」
体温が、みるみるうちに奪われていく。濡れた服が肌に張り付き、体力を根こそぎ持っていく。
このままでは、低体温症で死ぬ。せっかく生き延びたというのに、こんなことで。
「(屋根のある場所を探さないと!)」
ユウキはシラタマを抱きかかえ、雨でぬかるむ地面を必死で走った。
幸い、そう遠くない場所に、巨大な岩がせり出した、天然の屋根のようになっている場所を見つけることができた。奥行きは数メートルほど。雨風を完全にしのげるわけではないが、何もないよりはずっといい。
「はぁっ、はぁ……シラタマ、大丈夫か?」
「フワァ……」
腕の中で、シラタマがぶるぶると震えている。その小さな体は、すっかり冷え切っていた。
ユウキはジャケットを脱ぎ、シラタマをきつく包んでやる。自分の体も限界に近いが、この小さな相棒を失うわけにはいかなかった。
「(ダメだ……このままじゃ……)」
焚き火は消えた。体は濡れ、体力は奪われる一方。食料の備蓄もない。
運良く生き延びても、また雨が降れば同じことの繰り返しだ。
必要なのは、雨風を確実にしのげる、頑丈な拠点。
二人が安心して眠れる、「家」だ。
「(……作るしかない)」
だが、どうやって?
頭の中のゲージを確認する。
**【創造力:22/100】**
昨日の無理がたたり、ほとんど残っていない。これでは、まともな道具すら召喚できない。
今はただ、体力を温存し、この雨が止むのを待つしかない。
「……なあ、シラタマ」
腕の中で震える温もりに、語りかける。
「俺さ、家を建てようと思うんだ。お前と、俺の家を」
「キュゥ……?」
「雨が降っても、風が吹いても、安心して眠れるような、最高の家だ。約束する」
それは、シラタマに言い聞かせると同時に、自分自身に立てた誓いだった。
雨が小降りになるまでの時間、ユウキは地面をキャンバスにして、木の枝をペン代わりに設計図を描き始めた。
「(いきなりログハウスは無理だ。まずは、Aフレームハウスだな……)」
ブッシュクラフトで何度も作った、三角形の簡易的な小屋だ。構造がシンプルで、少ない資材で作れる。
地面に、家の骨格となる三角形を描く。
「(主材料は、この森の木だ。だが、それを加工し、組み立てるための道具がいる)」
必要なものを、頭の中でリストアップしていく。
「(まずは木を切るための『ノコギリ』。それから、釘を打つための『金槌』。接合するための『釘』や『ネジ』も大量にいるな……)」
「(屋根には、防水のためのシートが必須だ。『ブルーシート』……いや、あれはAランク級のコストだろうな。今の俺じゃ、とても……)」
創造力のゲージが22しかないという現実が、重くのしかかる。
ノコギリや金槌ですら、BかCランクは覚悟しなくてはならない。
とてもじゃないが、今すぐどうこうできる話ではなかった。
「(……まずは、休むしかないか)」
創造力は、睡眠でしか回復しない。
幸い、雨は止み、雲の切れ間から再び太陽が顔をのぞかせ始めた。
「よし、シラタマ。今日は何とか食料を探して、夜はしっかり眠るんだ」
「キュ!」
「そして、明日から……俺たちの家づくりを、始めよう」
地面に描かれた、頼りない設計図。
だが、ユウキの目には、その向こうに、シラタマと笑いながら温かいスープを飲む、未来の我が家が見えていた。
(つづく)
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