おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第六話『俺たちの城と、最高の土鍋ごはん』

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翌日、ユウキは壁と屋根の作成に取り掛かった。
森で手頃な太さの枝を大量に集め、家の骨組みに、召喚した『麻紐』でびっしりと編み込んでいく。隙間は、粘土質の土と苔を混ぜ合わせたもので埋めていく。原始的だが、これだけでも雨風をかなりしのげるはずだ。

「(問題は、屋根の防水だな……)」

ブッシュクラフトでは、木の皮や大きな葉を使うのが定石だ。だが、この森の木が使えるかは分からない。
やはり、ここはスキルに頼るしかない。

「(ブルーシートはコストが高すぎる。もっと安価で、広い面積を覆えるものは……そうだ、あれだ!)」

ユウキがイメージしたのは、農作業や家庭菜園で使われる、黒いビニールシート。いわゆる『マルチシート』だ。薄いが、防水性能は十分。何より、ブルーシートよりはコストが安いはずだ。

「(頼む……!Bランクで収まってくれ……!)」

**ポンッ!**

**【創造力:100/100 → 75/100】**

「よし!Bランク!」

25の消費。決して安くはないが、Aランクを覚悟していただけに、思わずガッツポーズが出た。
広げると、畳二畳分ほどの大きさになる黒いシート。これを屋根に被せ、石や丸太で固定する。
最後に、入り口部分に、同じくマルチシートをカーテンのように垂らせば――

「……できた……」

目の前に、ついに二人の家が完成した。
不格好で、小さくて、お世辞にも立派とは言えない。
だが、雨風をしのぎ、安心して眠れる、正真正銘、自分たちの「城」だ。

「キュイ!キュイ!」

シラタマが、完成した家の中と外を、嬉しそうに何度も行き来している。そのはしゃぎっぷりを見ているだけで、これまでの苦労が報われる気がした。

「さあ、シラタマ。引っ越しだ」

岩陰に置いていた荷物(と言っても、肉の残りくらいだが)を運び込む。
中は大人一人がようやく寝られるくらいの広さしかないが、不思議と落ち着く。

「(次は、内装だな)」

ユウキは、残りの創造力を使って、生活を豊かにするためのアイテムを召喚していく。

「(まずは、明かりだ。夜を越すための……)」

彼がイメージしたのは、100均のアウトドアコーナーにあった、小さな『LEDランタン』。電池式の、簡素なものだ。

**ポンッ!**

**【創造力:75/100 → 60/100】**

Cランク。妥当なところか。
これを天井から吊るせば、夜でも作業ができる。

「(それから、棚が欲しい。食材や道具を置くための……)」

召喚したのは、Bランクの『ワイヤーネット』と、Dランクの『結束バンド』。
これを壁に固定すれば、立派な収納棚の完成だ。

**【創造力:60/100 → 30/100】**

「(よし、こんなものか……)」

残りの創造力は30。無駄遣いはできない。
ふと外を見ると、陽が傾き始めている。腹の虫が、ぐぅ、と鳴った。

「……なあ、シラタマ」

ユウキは、最高の笑顔で相棒に言った。
「新築祝いだ。今日は、世界で一番うまいメシを食おう」
「キュイッ!」

シラタマが、期待に満ちた目で尻尾を振る。
ユウキが取り出したのは、最後の仕上げとして召喚する、とっておきの調理器具。

「(頼むぞ、俺の相棒……!)」

彼がイメージしたのは、レンジ調理も可能な、黒くて丸い、あの調理器具。

**ポンッ!**

**【創造力:30/100 → 15/100】**

Cランク。15消費。
ユウキの手の中に、直径15センチほどの『一人用の土鍋』が現れた。

ユウキは、近くの川で汲んできた水を土鍋に入れ、先日見つけておいた、米によく似た穀物を研いで浸しておく。
そして、家の前に作った即席のかまどに火をつけ、土鍋を乗せた。

「(『はじめチョロチョロ、なかパッパ、赤子泣いても蓋取るな』……だっけか)」

フードコーディネーターとして、様々な調理器具を扱ってきた。土鍋での炊飯など、お手の物だ。
最初は弱火でじっくりと。沸騰してきたら火を強め、湯気が勢いよく吹き出してきたら、また火を弱める。
香ばしい匂いが、あたりに立ち込めてきた。

「キュゥ……クンクン……」

シラタマが、土鍋の周りをソワソワと歩き回っている。その匂いは、今まで嗅いだことのない、最高に食欲をそそる香りだった。
火から下ろし、タオルで包んで蒸らすこと10分。

ユウキは、ゆっくりと土鍋の蓋を開けた。

「…………おお…………」

そこには、一粒一粒がキラキラと輝き、ピンと立った、完璧な炊き上がりのご飯があった。
ふっくらとした湯気と共に立ち上る、甘い香り。

おかずは、先日倒したキバいのししの肉を、これまた召喚した『焼肉のたれ』で香ばしく焼いただけのもの。
だが、今はそれが、どんなご馳走よりも魅力的に見えた。

「さあ、シラタマ。食べようか」

土鍋からよそったご飯と、焼きたての肉。
シラタマは、夢中でご飯に食らいついた。その黒い瞳が、驚きと喜びで見開かれている。
ユウキも、一口。

「…………うまい…………」

噛みしめるほどに、米の甘みが口の中に広がる。焼肉のたれの香ばしさが、それをさらに引き立てる。
うまい。うますぎる。
前世で食べたどんな高級米より、どんなブランド牛より、今この瞬間に食べている、この食事が、世界で一番美味しかった。

新築の我が家の前で、小さなランタンの灯りの下、相棒と二人で囲む食卓。
それは、ユウキがずっと心のどこかで求めていた、温かくて、幸せな「日常」そのものだった。

(つづく)
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