43 / 185
第四十三話『ハイブリッド土壁と、初めての燻製肉』
しおりを挟む燻製小屋の土台と心臓部が完成し、いよいよ建物の本体工事が始まった。
リディアが切り出した丸太を、俺が『ノコギリ』や『ノミ』で加工し、二人の息の合った作業で、燻煙室の頑丈な柱と梁が、みるみるうちに組み上がっていく。
問題は、その骨組みを覆う『壁』だった。
「粘土と藁を混ぜた土壁を作りますが、その下地となる格子を組むだけで、数日はかかりますね…」
俺が腕を組んで思案していると、リディアが「何日かかろうとも、やるしかないだろう」と力強く言った。だが、俺の頭の中には、すでに革命的な近道が見えていた。
「いえ、その数日を、数時間に短縮します」
ポンッ!ポンッ!
【創造力:148/150 → 128/150】
俺が召喚したのは、100均の収納グッズの定番『ワイヤーネット』を数十枚と、それを固定するための『結束バンド』。新称号『クラフトマスター』の恩恵で、素材アイテムのコストが僅かに軽く感じる。
俺は、組み上がった柱と梁の間に、このワイヤーネットを結束バンドでびっしりと張り巡らせていった。
「な…!ユキ殿、これは…!」
「伝統的な木舞の代わりです。これなら、強度は十分ですし、何より圧倒的に早い」
俺の『ハイブリッド土壁』工法に、リディアは「貴殿の発想は、もはや常識では測れんな…」と、呆れを通り越して感嘆の声を漏らした。
あとは、ワイヤーネットの両側から、粘土と藁を塗り固めていくだけ。その日の夕方には、屋根と木の扉も取り付けられ、俺たちの『常設・高性能スモークハウス』は、堂々たる姿で大地に立っていた。
「完成を祝して、早速、火入れ式をしましょう!最高の燻製を作ります!」
俺は、レンガで作った火室で、煙の出やすいサクラの木をゆっくりと熾す。立ち上った煙は、土管の煙道を通るうちにゆっくりと冷やされ、燻煙室へと流れ込んでいく。これこそ、俺が求めていた『冷燻』だ。
塩漬けにしておいたキバいのししの肉を吊るし、扉を閉じて、待つこと数時間。
逸る気持ちを抑え、燻煙室の扉を開ける。
ブワッ、と溢れ出したのは、これまでとは比べ物にならないほど、深く、そして芳醇な香りの煙。
煙が晴れた後、そこに吊るされていた肉は、美しい飴色に輝き、表面からは旨味の肉汁がキラキラと滲み出ていた。
俺は、その一切れを薄くスライスし、リディアに差し出す。
彼女は、それを口に運び、咀嚼し、そして、衝撃に目を見開いた。
「な…!これまでの燻製とは、全く違う…!香りは遥かに深く、それでいて、肉の中心は生のハムのようにしっとりとしている…!これが、本物の燻製か!」
熱がほとんど加わっていないため、肉のタンパク質は変質せず、それでいて燻製の香りと旨味だけが、芯まで浸透している。
俺も一口。舌の上でとろけるような食感と、鼻に抜ける高貴な香り。
それは、俺たちが長い時間をかけて作り上げた、最高の工房が生み出した、最初の傑作だった。
この味を知ってしまったら、もう、後戻りはできない。俺たちの食生活は、また一つ、決定的な進化を遂げたのだった。
51
あなたにおすすめの小説
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。
もる
ファンタジー
剣を扱う職に就こうと田舎から出て来た14歳の少年ユカタは兵役に志願するも断られ、冒険者になろうとするも、15歳の成人になるまでとお預けを食らってしまう。路頭に迷うユカタは生きる為に知恵を絞る。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
異世界でのんびり暮らしたいけど、なかなか難しいです。
kakuyuki
ファンタジー
交通事故で死んでしまった、三日月 桜(みかづき さくら)は、何故か異世界に行くことになる。
桜は、目立たず生きることを決意したが・・・
初めての投稿なのでよろしくお願いします。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)
愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。
ってことは……大型トラックだよね。
21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。
勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。
追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる