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第四十三話『ハイブリッド土壁と、初めての燻製肉』
しおりを挟む燻製小屋の土台と心臓部が完成し、いよいよ建物の本体工事が始まった。
リディアが切り出した丸太を、俺が『ノコギリ』や『ノミ』で加工し、二人の息の合った作業で、燻煙室の頑丈な柱と梁が、みるみるうちに組み上がっていく。
問題は、その骨組みを覆う『壁』だった。
「粘土と藁を混ぜた土壁を作りますが、その下地となる格子を組むだけで、数日はかかりますね…」
俺が腕を組んで思案していると、リディアが「何日かかろうとも、やるしかないだろう」と力強く言った。だが、俺の頭の中には、すでに革命的な近道が見えていた。
「いえ、その数日を、数時間に短縮します」
ポンッ!ポンッ!
【創造力:148/150 → 128/150】
俺が召喚したのは、100均の収納グッズの定番『ワイヤーネット』を数十枚と、それを固定するための『結束バンド』。新称号『クラフトマスター』の恩恵で、素材アイテムのコストが僅かに軽く感じる。
俺は、組み上がった柱と梁の間に、このワイヤーネットを結束バンドでびっしりと張り巡らせていった。
「な…!ユキ殿、これは…!」
「伝統的な木舞の代わりです。これなら、強度は十分ですし、何より圧倒的に早い」
俺の『ハイブリッド土壁』工法に、リディアは「貴殿の発想は、もはや常識では測れんな…」と、呆れを通り越して感嘆の声を漏らした。
あとは、ワイヤーネットの両側から、粘土と藁を塗り固めていくだけ。その日の夕方には、屋根と木の扉も取り付けられ、俺たちの『常設・高性能スモークハウス』は、堂々たる姿で大地に立っていた。
「完成を祝して、早速、火入れ式をしましょう!最高の燻製を作ります!」
俺は、レンガで作った火室で、煙の出やすいサクラの木をゆっくりと熾す。立ち上った煙は、土管の煙道を通るうちにゆっくりと冷やされ、燻煙室へと流れ込んでいく。これこそ、俺が求めていた『冷燻』だ。
塩漬けにしておいたキバいのししの肉を吊るし、扉を閉じて、待つこと数時間。
逸る気持ちを抑え、燻煙室の扉を開ける。
ブワッ、と溢れ出したのは、これまでとは比べ物にならないほど、深く、そして芳醇な香りの煙。
煙が晴れた後、そこに吊るされていた肉は、美しい飴色に輝き、表面からは旨味の肉汁がキラキラと滲み出ていた。
俺は、その一切れを薄くスライスし、リディアに差し出す。
彼女は、それを口に運び、咀嚼し、そして、衝撃に目を見開いた。
「な…!これまでの燻製とは、全く違う…!香りは遥かに深く、それでいて、肉の中心は生のハムのようにしっとりとしている…!これが、本物の燻製か!」
熱がほとんど加わっていないため、肉のタンパク質は変質せず、それでいて燻製の香りと旨味だけが、芯まで浸透している。
俺も一口。舌の上でとろけるような食感と、鼻に抜ける高貴な香り。
それは、俺たちが長い時間をかけて作り上げた、最高の工房が生み出した、最初の傑作だった。
この味を知ってしまったら、もう、後戻りはできない。俺たちの食生活は、また一つ、決定的な進化を遂げたのだった。
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