おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第七十七話『かまくらと、雪の中の茶会』

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あの冬の冒険から数週間。俺たちの拠点は、深い雪と、穏やかな静寂に包まれていた。
シラタマの心にあったであろうわだかまりは、あの眠れる森の王との邂逅によって、綺麗に氷解したようだった。彼は以前にも増して無邪気に、そして力強く、この白銀の世界を駆け回っている。
だが、その雪は、恵みであると同時に、日々の暮らしに少しずつ重くのしかかる、新たな課題でもあった。

ある朝、俺が目を覚ますと、リディアが母屋の扉の前で、自作の木の板をシャベル代わりに、懸命に雪かきをしていた。夜の間に降り積もった雪が、扉の半分ほどを塞いでしまっていたのだ。彼女の奮闘むなしく、掻き出された雪は、すぐに脇の雪の壁から崩れ落ちてきて、作業は々として進まない。
「むぅ…!この雪、まるで意思を持った軍隊のように、何度退けても陣形を立て直してくる…!」
その横では、シラタマが応援のつもりなのか、巨大な雪玉をゴロゴロと転がして手伝って(?)いるが、その雪玉が時折リディアの積み上げた雪の山を崩してしまい、彼女に「こら、シラタマ!」と優しく叱られている。
俺は、暖炉のそばで温かいお茶をすすりながら、その、どこまでも微笑ましく、しかし絶望的に非効率な光景を眺めていた。彼女の真面目さと、シラタマの無邪気さが、見事なまでに噛み合っていない。
(戦っても、きりがないか…)
降り積もる雪は、倒すべき敵ではない。この世界の、自然の摂理そのものだ。ならば、戦うのではなく、受け入れて、利用する。ブッシュクラフトの基本に、俺は立ち返った。
「リディアさん、その『軍勢』と戦うのをやめましょう。いっそ、その軍勢ごと、俺たちの新しい『砦』に作り変えてしまうんです」
「砦…だと?」
俺は、雪かきでできた巨大な雪山を指さし、宣言した。
「ええ。この雪で、『かまくら』を作るんです。雪で作った、ドーム状の家ですよ」
俺は、かまくらが、外の風を完全に遮断し、中の熱を逃がさないため、驚くほど温かく、静かな空間になることを説明した。

「よし、始めましょう!」
俺は、この新しい建築プロジェクトのために、いくつかの道具を召喚した。

ポンッ!ポンッ!
【創造力:48/150 → 40/150】
Dランクの『子供用の雪かきスコップ』を数本と、同じくDランクの『プラスチック製のそり』だ。
「ユキ殿、これは…子供の玩具ではないか?」
そのあまりにも頼りない見た目に、リディアは怪訝な顔をする。
「ええ。でも、軽い雪を大量に運ぶなら、鉄のシャベルよりずっと効率的ですよ」
俺たちは、まず拠点の前の雪を、そりに乗せて一箇所に集め、巨大な雪山を作り始めた。リディアがその怪力でそりを引き、俺とシラタマがスコップで雪を積み上げていく。シラタマは、時々、自分が作った雪山に登っては、満足げな顔で周囲を見渡していた。最高の現場監督だ。

やがて、俺たちの目の前には、母屋の屋根に届きそうなほどの、巨大な雪の山が完成した。
「よし、ここからが建築の第二段階。この山に、命を吹き込みます」
俺は、入り口となるアーチを、子供用のスコップで慎重に、少しずつ掘り進めていく。最初は、ただの雪のトンネルだ。だが、数メートル掘り進み、山の中心部で、上に向かって空間を広げ始めた、その瞬間。
ふわり、と。
それまでとは全く違う、柔らかな光が、俺たちの頭上から差し込んできた。太陽の光が、分厚い雪の壁を透過して、洞窟全体を、青白く、幻想的な光で満たしているのだ。
「おお…!外の風の音が、全く聞こえん…!それに、この光は…!」
後から入ってきたリディアは、その完璧な静寂と、まるで海底の神殿にいるかのような神秘的な光景に、息をのんだ。

「仕上げに、壁を強化します」
ポンッ!
【創造力:40/150 → 39/150】
俺はEランクの『霧吹き』を召喚。中の壁に水を吹きかけると、外の冷気で瞬時に凍りつき、キラキラと輝く氷の膜がドームの強度をさらに高めてくれた。
俺たちは、中に手作りの麦わらマットを敷き、先日作ったアロマキャンドルをいくつか灯す。氷の壁が、揺れる炎を無数に反射させ、そこはまるで、宝石で作られた聖堂のようだった。

その日の夕方。俺は、この新しい砦の完成を祝うための、特別な茶会を用意した。
レンガ窯から取り出した、熱々の木炭を『スチール缶』の簡易コンロに入れ、その上で、100均の『焼き網』を熱する。
そして、その網の上に乗せたのは、これも100均の『切り餅』だ。
ぷくーっと、醤油の焦げる香ばしい匂いと共に、餅が愛らしく膨らんでいく。俺は、それを蜂蜜と合わせた甘辛いタレに絡めて、リディアとシラタマに手渡した。
熱々の餅を、ふーふーと冷ましながら頬張る。外はカリッと、中はびよーんと伸びる、とろりとした食感。そして、甘辛いタレが、雪かきで冷え切った体に、じんわりと染み渡っていく。
「うまい…!雪の中に、こんなに静かで、温かい場所があったとは…!まるで、夢のようだ…!」
リディアが、心からの感動の声を上げる。シラタマも、伸びる餅と必死に格闘しながら、夢中で頬張っていた。その口の周りは、もちろんタレだらけだ。

キャンドルの炎に照らされた、雪の中の茶会。
俺たちは、厳しい冬の象徴であったはずの雪を、自分たちの手で、最高の遊び場であり、最高の癒やしの空間へと変えてしまったのだ。
(結局、必要なのは、発想の転換だけなんだな)
敵だと思っていたものを、仲間にしてしまう知恵。何もない場所から、温かい居場所を作り出してしまう、創造の喜び。それこそが、俺がこの世界で手に入れた、何物にも代えがたい宝物だ。
暖炉の上の飾り棚では、木彫りの小熊が、そんな俺たちのことを、どこか誇らしげに、そして「お前も、ようやく分かってきたじゃないか」とでも言うように、見守っているような気がした。
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