おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第七十九話『雪見露天風呂と、灯りの道』

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冬の入浴は、もはや戦いだった。
鉄の大鍋で、辛抱強く雪を溶かして湯を沸かし、それを木の桶で母屋まで運ぶ。外の冷気に湯が冷めないうちに、急いで体を洗い、震えながら服を着る。それは、体を清潔に保つための、過酷な日課だった。
その日も、入浴を終えたリディアが、暖炉の前で火照った頬のまま、ぽつりと呟いた。
「…夏に作った、あの露天風呂が懐かしいな」
彼女の脳裏に蘇るのは、満天の星空の下、手足を思い切り伸ばして湯に浸かった、あの夜の記憶。戦のことなど何も考えず、ただ、仲間と共に、穏やかな温もりに身を委ねた時間。
「…あれは、騎士の生涯で経験した、最高の贅沢だった」
その、心からの、そして少しだけ寂しげな一言。それが、俺の心に火をつけた。
俺は、畑を広げた時に発見した、雪の下に眠るあの『宝物』のことを思い出す。
「リディアさん、最高の贅沢、復活させましょう。いえ、冬だからこそできる、もっと最高の『雪見露天風呂』を作りましょう!」

温泉までの道は、深い雪に覆われている。俺は、ただ雪を踏み固めるだけでは、吹雪で道が消えてしまう危険性を指摘した。
「夜でも、絶対に迷わない道標が必要です」
ポンッ!
【創造力:40/150 → 15/150】
俺が召喚したのは、100円ショップで200円~300円で売られている、少し高額なBランクアイテム、『ソーラーガーデンライト』を数本セット。コストは25だ。
「少しコストは張りますが、これだけの価値はありますよ」
リディアは、そのプラスチック製の、どこか頼りない杭の先端についた、不思議な黒い板を覗き込む。
「ユキ殿、これは…?」
「太陽の光を蓄えて、夜に、自分だけの力で光る魔法の灯りです。弱い冬の日差しでも、数時間分の明かりなら、ちゃんとご馳走してくれますよ」
『太陽を、蓄える』。その、神話のような概念に、リディアは言葉を失う。俺たちは、その魔法の杭を、雪を踏み固めた道の両脇に、等間隔に、一本、また一本と突き刺していく。それは、まるで、自分たちの手で、地上に新しい星座を作っているかのような、神聖で、心躍る作業だった。

温泉の周りには、風雪から身を守るための、簡易的な脱衣所兼風防も建設した。
ポンッ!ポンッ!
【創造力:15/150 → 5/150】
Dランクの『園芸用の支柱』を骨組みにし、Cランクの『シャワーカーテン(透明タイプ)』を壁として張る。床には『すのこ』を敷き、足が冷えないように配慮した。

その日の夕暮れ。昼間の太陽光をたっぷりと吸い込んだソーラーガーデンライトが、一つ、また一つと、ぼんやりと温かい光を灯し始めた。それは、青白く染まる雪景色の中に、俺たちの聖域へと続く、幻想的な『灯りの道』を描き出していた。
俺たちは、その光に導かれ、完成したばかりの露天風呂へ。
シャワーカーテンの壁に囲まれた空間は、外の凍てつくような風が嘘のように、完全に遮断されている。地熱と温泉の湯気で、そこだけが春のような温かさだ。
俺たちは、ゆっくりと、その湯に体を沈めた。
「「「はぁぁぁぁぁ…………」」」
全員の口から、魂の底から絞り出したような、幸福のため息が漏れた。
冷え切った体の芯から、じわ…っと、凝り固まったものが溶けていく。見上げれば、透明なカーテンの向こうで、しんしんと、音もなく雪が舞い落ちる。そして、そのさらに上には、冬の澄み切った夜空に、ダイヤモンドを撒き散らしたような、満天の星。
シラタマは、温かいお湯がよほど気持ち良いのか、ぷかぷかと浮いて、完全にトドと化している。リディアは、湯船の縁に頭を預け、ただ、静かに目を閉じていた。その表情は、俺が今まで見た中で、一番穏やかで、一番美しかった。

湯上がりで火照った体のまま、灯りの道を戻り、母屋へ。
暖炉の前には、俺が風呂の間に仕込んでおいた、最高の『湯豆腐』が待っていた。土鍋の中で、昆布だしと共に、豆腐がふるふると優しく揺れている。
それを、手作りのポン酢(果実酢と醤油で自作)でいただく。
はふ、はふ、と息を吹きかけながら、一口。
刺激的な味は、何もない。ただ、温かい豆腐の、大豆の優しい甘みと、出汁の深い旨味が、冷えた体に、じんわりと、どこまでも染み渡っていく。
リディアは、その、あまりにも贅沢で、そしてあまりにも優しい一日に、感嘆のため息を漏らした。
彼女は、暖炉の炎を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「冬とは…これほど、温かいものだったのだな」
それは、ただ気温の話ではない。雪見風呂の温かさ、湯豆腐の温かさ、そして何より、仲間と共に、この時間を分かち合う、心の温かさ。彼女の、冬とは耐え忍ぶものだという、固く凍てついていた心が、また一つ、この森の暮らしによって、優しく、温かく溶かされた証だった。
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