おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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第八十話『盤上の黒と白と、冬の夜の熱戦』

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その日、森は猛烈な吹雪に見舞われていた。
ヒュオオオオ、と、まるで巨大な獣が咆哮するかのように風が吹き荒れ、窓の外は、絶え間なく叩きつけられる雪で、真っ白な闇に閉ざされている。
だが、俺たちの家の中は、別世界だった。暖炉の炎が、穏やかに、そして力強く燃え盛り、部屋全体を温かいオレンジ色の光で満たしている。薪小屋には冬を越すには十分すぎるほどの薪が積まれ、食糧庫には秋の恵みがぎっしりと詰まっている。
全てが満ち足りていた。

その、あまりにも平和な時間の中で、シラタマは暖炉の前で大きすぎるあくびをし、リディアは愛読していた英雄譚の最後のページを読み終えてしまい、手持ち無沙汰に、窓の外の吹雪をぼんやりと眺めていた。
(最高の贅沢は、時々、最高の退屈をもたらすもの、か…)
この光景は、俺たちが築き上げてきた、成功の証そのものだ。俺は、そんな仲間たちの姿を眺めながら、静かに立ち上がった。
「今日は、俺たちの冬の夜を、もっと熱くする『遊び』を作りましょう」

俺が提案したのは、この世界にはまだ存在しない文化、『盤ゲーム』。その中でも、シンプルで、しかし奥深い戦略性を持つ『リバーシ』だった。
「これは、ただの遊びではありません。二人で行う、陣取り合戦です。一手で、盤面の全てがひっくり返ることもある、知恵と戦略の戦いですよ」
その、騎士の心をくすぐる説明に、リディアの瞳が、キリリと輝きを放った。

「よし、まずは、この戦いの舞台を作りましょう」
俺は、ダイニングテーブルを作った時の端材から切り出した、美しい木目の板を床に置く。そして、スキルを発動した。

ポンッ!
【創造力:150/150 → 145/150】
俺が召喚したのは、Dランクの収納グッズ『ワイヤーネット』。消費は5。これを木の板の上に置くと、それだけで完璧な8×8のマス目を持つ、美しいゲーム盤が完成した。
「次は、俺たち自身の分身となる、兵士たちです」

ポンッ!
【創造力:145/150 → 135/150】
Cランクのおもちゃ、『囲碁用の碁石』だ。コストは10。
プラスチックのケースから現れた、白と黒の、美しく、手にしっとりと馴染む石。その、あまりにも専門的で的確なアイテムの登場に、リディアは感嘆の声を漏らした。
「ユキ殿…貴殿の『知恵』の棚には、一体どれだけの品揃えがあるのだ…」

こうして、俺たちの初めての盤ゲームが始まった。
序盤、リディアは、騎士としての優れた戦略眼をいかんなく発揮した。(ふっ、まずは中央という名の主戦場を制圧し、敵軍を分断する!)堅実に、しかし確実に自らの陣地を広げ、俺の石を次々と黒へと変えていく。
その周りでは、仲間たちが、それぞれの形で熱戦を見守っていた。
シラタマは、どちらを応援するか決めかねて、俺とリディアの間を行ったり来たり。時々、盤上の碁石を、その柔らかい肉球でちょい、と触ってしまい、「こら、シラタマ!神聖な盤上に、肉球の印をつけるな!」と、リディアに本気で叱られている。
つちのこも、いつの間にか温室からやってきて、盤上の黒と白の石が勢力図を塗り替えていく様を、小さな頭をかしげながら、じっと見つめていた。

やがて、戦況は、誰の目にも明らかだった。盤面は、リディアの黒石が、俺の白石を圧倒している。
「ふふん。どうやら、勝負あったようだな、ユキ殿!我が戦術の前に、もはや貴殿に打つ手は残されていまい!」
彼女が、勝利を確信して、得意げに笑みを浮かべた、その瞬間。
俺は、にやりと笑い、盤面の、たった一つだけ空いていた隅に、そっと、最後の白石を置いた。
「戦は、必ずしも中央だけで起きるわけではないんですよ、リディアさん」

パタパタパタパタパタパタパタパタ…!
まるで、絶望のドミノ倒しのように、リディアが築き上げた黒石の帝国が、一列、また一列と、その身を翻し、白の世界へと寝返っていく。
「な…ななな…!?ば、馬鹿な!?我が軍が、たった一手で、一瞬にして…!?」
初めて味わう、リディアならではの大逆転劇。その、あまりの理不尽な(?)敗北に、リディアは呆然と盤面を見つめ、やがて、本気で悔しがり、床をバンバンと叩き始めた。

「もう一戦だ、ユキ殿!」
悔し涙を、その青い瞳に浮かべながら、彼女は叫んだ。
「次こそは、我が騎士団の、奥義中の奥義を以て、貴殿をひれ伏させてくれる!」
その姿は、もはや聖域の守護騎士ではなく、初めての遊びに夢中になる、一人の少女の顔だった。

暖炉の炎が、ぱちり、と優しく音を立てる。
外は、依然として猛烈な吹雪。だが、俺たちの家の中は、盤を挟んで真剣な顔で向き合う二人の熱気と、それを見守る仲間たちの温かい笑い声に満ちていた。
俺たちの冬の夜に、新しくて、どこまでも温かい『熱戦』という名の宝物が、また一つ、加わったのだった。
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