おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

文字の大きさ
101 / 185

【第百話】旅立ちの朝と、小さな地図

しおりを挟む

餃子パーティーの熱狂が、春の穏やかな陽光に溶けていくかのような、穏やかな朝。
レオの足の傷は完全に癒え、彼はもう松葉杖を必要としていなかった。拠点の前で、ゆっくりと、しかし力強く大地を踏みしめるように歩く彼の姿は、数週間前の絶望の淵にいた男とは、まるで別人だった。彼とエルナの顔には、この聖域に来た時の疲労と恐怖の色はなく、心身ともに満たされた、穏やかな活力がみなぎっている。
その日の朝食の後、二人は、俺たちの前に、改まって深く、深く頭を下げた。
「ユウキさん、リディアさん、シラタマ…それに、つちのこも。本当に、世話になった」
レオが、その実直な瞳で俺たちをまっすぐに見つめて言った。
「俺たちは、もう大丈夫だ。…いや、あんたたちのおげで、以前よりもずっと強くなれた。心も、体も。だから、もう行かなければ」
エルナも、寂しさをこらえ、しかし晴れやかな笑顔で頷く。
その、あまりにも潔い旅立ちの決意を、俺たちは、ただ静かに受け入れた。

「命を救われた礼だ。だが、今の俺たちには、金目のものは何もない。すまない…」
レオは、そう言って、懐から、丁寧に折り畳まれた、一枚の羊皮紙を取り出した。
「だが、これだけは、あんたたちの役に立つかもしれない」
広げられたそれは、彼がこれまでの冒険で、命がけで書き溜めてきた、この森の周辺地域の、手描きの『地図』だった。そこには、俺たちの知らない町の名前や、川の流れ、危険な獣の生息地などが、驚くほど詳細に記されている。
そして、その広大な世界の中に、名もなき森の、小さな一点として、「温かい場所」とだけ記された俺たちの拠点が、ぽつんと存在していた。
俺たちの聖域が、初めて、この世界のどこにあるのかを示された、かけがえのない贈り物だった。

「レオさん、エルナさん。俺からも、餞別です」
俺は、彼らのこれからの長い旅路を想い、最高の贈り物を用意した。
俺がスキルで召喚したのは、旅人のための、最高の知恵だった。

ポンッ!
【創造力:150/150 → 136/150】
Cランクの『バルブ付き保存袋』セット。スライダー付きの袋に、小さな手動ポンプがセットになったものだ。コストは14。
「これがあれば、食べ物を、外の空気や湿気から守れます」
俺は、数食分の『魔法の即席麺』を、その袋に入れ、ポンプで中の空気を抜いてみせる。袋がぴたりと麺に密着し、その時間を永遠に封じ込めた。

ポンッ!
【創造力:136/150 → 132/150】
さらに、Eランクの『携帯用ミニボトルセット』を召喚。コストは4。
「長旅では、時に、最高の調味料が、最高の武器になりますから」
俺は、その小さなプラスチックボトルに、特製の『ポン酢』と、森の王からの恵みである『祝福の蜂蜜漬け』を、一つ一つ、丁寧に小分けにしていく。それは、フードコーディネーターとしての、俺なりの最大のエールだった。

旅立ちの朝。仲間たちも、それぞれの形で、彼らとの別れを惜しんだ。
リディアは、エルナの前に立ち、鎧を鳴らし、騎士として、深く、美しい一礼を捧げた。
「達者でな。次に会う時は、酒でも酌み交わそう」
それは、彼女が、初めて対等な『友』と認めた相手にだけ見せる、最大の友情の証だった。
シラタマは、レオの、完全に癒えた足元に、自分の体をぐりぐりと、何度も擦りつけた。まるで、「もう、二度と怪我をするなよ」とでも言うように。
温室からは、つちのこが、小さな赤い実をつけた植物の鉢を、一生懸命に運んできてくれた。それは、どんな過酷な環境でも育ち、旅人の渇きを癒やす、滋養豊富な果実だった。

エルナは、俺に向き直ると、固く約束した。
「この場所のことは、誰にも言わない。俺たちだけの、心の中の聖域にする」
しかし、彼女は最後に、少しだけ寂しそうに、そして、どこか確信に満ちた瞳で、こう付け加えた。
「でも、ユキさん。あなたの作る温かい食事や、その優しさは、隠そうとしても、匂いのように、周りに漏れ伝わってしまうものよ」
彼女は、森の奥へと続く小道を見つめ、予言のように、静かに続けた。
「あなたの伝説は、きっと、私たちが黙っていても、それを本当に必要とする誰かの元へ、いつか必ず、届くはずだから…」
その言葉を残し、二人は、何度も、何度も振り返りながら、春の光が満ちる森の奥へと、去っていった。

二人を見送った後、俺は、ダイニングテーブルの上に、レオが残してくれた手描きの地図を広げた。
リディアが、俺の隣に立ち、その地図を、感慨深げに見つめている。
「…ユキ殿。我らの聖域にも、ついに『地図』ができたな」
彼女の言葉に、俺は、地図の先に広がる、まだ見ぬ世界へと、思いを馳せながら、静かに頷いた。
「ええ。俺たちの世界は、今日、少しだけ、広くなりましたね」
それは、俺たちの穏やかな日常が、これからも続いていくことの証であると同時に、いつか、この地図の先に広がる世界と、再び関わる日が来るかもしれないという、新しい物語の始まりを、静かに予感させていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

処理中です...