おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百二十二話】薔薇色の祝祭と、水面に浮かぶ麺棒《ヌードル》

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ロゼッタのレンガ工房に革命の産声が上がってから、数日が過ぎた。
町は、生まれ変わったかのような活気に満ち溢れていた。『陽だまりのパン屋』からは、一日中、バターの焼ける罪深い香りが漂い、その扉の前には、朝から笑顔の客が絶えることがない。そして、工房からは、もはや苦しげな呻き声ではなく、効率化された作業を楽しむ職人たちの、力強い槌音と、活気に満ちた笑い声が響き渡っている。
だが、その輝かしい成功は、すぐに新たなる、そして幸福な『壁』を生み出した。
その日の午後、親方とアニカの父親が、揃って俺たちの元へやってきた。その顔は、困惑と、しかし隠しきれない喜びに満ちている。
「賢人様…!見てくれ、この注文書の山を!あんたのおかげで、俺たちのレンガは、王都の商人からも注文が殺到するようになった!だが…!」
親方が、頭を抱える。
「今の荷馬車では、この完璧なレンガを運ぶと、半分は道中で欠けてしまう!宝の持ち腐れだ!」
アニカの父親も、深く頷いた。
「うちも同じだ。ユキ殿のパンは、遠くの村からも買いに来てくれる。だが、繊細すぎて、普通の荷車では運んでやれないんだ…」
輸送手段の限界。それは、この町の発展を阻む、最後のボトルネックだった。
俺は、二人の切実な悩みに、穏やかに微笑んだ。
「大丈夫ですよ。最高の品物には、最高の『鎧』を着せてあげればいいんです」

俺は、この物流革命を実現するため、誰もが予想だにしなかった、あまりにも意外な素材を召喚した。
ポンッ!
【創造力:92/150 → 62/150】
俺が召喚したのは、Bランクのレジャー用品、『プールスティック(プールヌードル)』。コストは30。
「ユキ殿…?それは、水遊びに使う、子供の玩具では…?」
リディアでさえ、首を傾げる。
「ええ。ですが、この軽さ、弾力性、そして防水性。これこそ、最高の緩衝材…品物を衝撃から守る、究極の鎧なんですよ」
俺は、そのカラフルなスポンジの棒をナイフで輪切りにし、レンガとレンガの間に挟んでみせる。どんなに揺らしても、レンガ同士がぶつかることはない。その、あまりにも単純で、しかし完璧な解決策に、親方たちは、またしても天啓を得たかのように、目を輝かせていた。

この、町の未来を左右する大発明と、これまでの全ての感謝を込めて。親方は、ロゼッタの町で、初めての『祝祭』を開催することを宣言した。
数日後、町の広場は、これまでにない熱気に包まれていた。
広場の中心には、俺たちの紋章…『もふもふの白熊と、聖なる剣』が刻まれた、美しい薔薇色のレンガの記念碑が建てられている。
アニカの店は、クロワッサンを求める人々で、黒山の人だかりだ。あの寂れた宿屋の老夫婦も出店を出し、彼らの作る、心の底から温まるポトフが、飛ぶように売れていた。

そして、その祝祭の、一番の中心。俺は、一つの特別な屋台を出していた。
俺が、この日のために用意した、最高の祭り飯。
ポンッ!
【創造力:62/150 → 57/150】
Dランクの調理器具、『たこ焼き器(鉄製)』。コストは5。
俺は、その丸いくぼみに、小麦粉と卵、そして聖域の出汁を合わせた生地を流し込む。具は、タコの代わりに、燻製にしたキバいのししの肉と、自家製の熟成チーズだ。
ジュウウウゥゥ…という音と共に、あたりには、ソースと出汁の焼ける、暴力的なまでに食欲をそそる香りが立ち込める。俺が、竹串でくるり、くるりと生地を返すと、美しい黄金色の球体が生まれていく。その、まるで手品のような光景に、町の子供たちは、目をキラキラさせて見入っていた。
仕上げに、特製のベリーソースと、自家製マヨネーズをかけ、乾燥ハーブを散らせば、究極の祭り飯…**『ロゼッタ焼き』**の完成だ。
外はカリッと、中はとろり。燻製肉の塩気と、チーズのコク、そしてソースの甘酸っぱさが口の中で一体となる。その、生まれて初めて体験する、熱々で、複雑で、そしてどこまでも幸せな味に、町の人々は、誰もが最高の笑顔になった。

もちろん、俺たちの仲間たちも、この祝祭を心から楽しんでいた。
リディアは、普段の厳しい騎士の顔を忘れ、子供のようにはしゃぎ、ロゼッタ焼きを頬張っては「うまい!うますぎるぞ、ユキ殿!」と、素直な感想を叫んでいる。
そして、シラタマ。彼は、この祭り一番の人気者だった。町の子供たちに囲まれ、そのもふもふの毛皮を撫でられ、恥ずかしそうに、しかしどこか嬉しそうに、されるがままになっている。

祝祭が最高潮に達した、夕暮れ時。
親方が、記念碑の前で、高らかに宣言した。
「皆の者!我らが賢人様と、聖獣様、そして守護騎士様のおかげで、この町は生まれ変わった!この祝祭の名は、今日より、『聖域祭』とする!」
ワアアアッ!という、割れんばかりの歓声と、拍手。
俺は、リディアとシラタマと共に、少し離れた屋根の上から、その、どこまでも温かい光景を眺めていた。
リディアは、幸せそうに笑う町の人々を、そして、その中心で誇らしげに胸を張る親方の姿を、自分のことのように、嬉しそうに見つめている。
「…ユキ殿。あなたの優しさは、パンを焼き、レンガを作り、そして、一つの町の『心』まで、作り上げてしまったのだな」
彼女は、俺の顔を見て、最高の笑顔で言った。
「だが…これほどの光は、隠そうとしても隠しきれん。この祝祭の灯火は、きっと、遥か遠くまで届くことだろう。良くも…悪くも、な」
その、少しだけ意味深な言葉。
それは、俺たちの穏やかな旅が、やがて、もっと大きな世界のうねりと、交差する日が来るかもしれないという、新しい物語の始まりを、静かに予感させていた。
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