おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

文字の大きさ
122 / 185

【第百二十一話】工場の産声と、職人たちの饗宴

しおりを挟む

「…あんた…一体、何者なんだ…?」
工房の親方が、震える声で俺に尋ねる。その視線は、俺の手の中にある、ありふれたシリコン製のマフィン型と、そこから生まれた完璧なミニチュアレンガとの間を、信じられないものを見るように何度も往復していた。
俺は、穏やかに微笑み返した。
「ただの、お節介な旅人ですよ。最高のパンには、最高の窯が必要で、最高の窯には、最高のレンガが必要です。俺はただ、この町で、もっと美味しいパンが食べたいだけなんです」
その、あまりにも純朴で、欲のない答え。だが、親方は、その言葉の裏にある、底知れない知識と、揺るぎない自信を、職人としての魂で見抜いていた。彼は、その場に深く、深く頭を下げた。
「…賢人様。どうか、我らにも、その知恵を授けてはいただけんだろうか!」

こうして、俺のささやかなお節介は、この薔薇色の町ロゼッタの、産業そのものを変える、壮大なプロジェクトへと発展した。
俺は、まず、工房が抱える二つの大きな問題点を指摘した。
「親方。問題は、型だけじゃありません。粘土をこねる『労力』と、レンガを乾かす『時間』。この二つが、皆さんの力を奪っているんです」
俺は、この二つの巨大な壁を、100均の知恵で打ち破る。
まず、粘土をこねる重労働。俺が召喚したのは、主婦の知恵の結晶だった。

ポンッ!
【創造力:135/150 → 122/150】
Cランクの洗濯用品、『手動洗濯機(かくはん棒タイプ)』。コストは13。
「ユキ殿、それは…洗濯をするための道具では…?」
「ええ。ですが、衣類を揉み洗いするこの力は、粘土と水を均一に混ぜ合わせるのに、最適なんですよ」
俺が、水の入った大きな木の樽に粘土を入れ、このかくはん棒で混ぜ始めると、これまで数人がかりで汗だくになっていた作業が、俺一人で、いとも簡単に、滑らかな粘土液へと変わっていく。その、あまりにも圧倒的な効率化を前に、職人たちは、ただ唖然とするしかなかった。

次に、乾燥の時間。俺は、工房の隣に、巨大な『乾燥小屋』の建設を提案した。
「最高の乾燥に必要なのは、熱だけじゃありません。最高の『風の通り道』です」
この小屋の心臓部となる棚に、俺は聖域でも活躍した、あの万能の建材を召喚する。

ポンッ!
【創造力:122/150 → 92/150】
Dランクの『ワイヤーネット』を、Bランク相当の枚数、大量に。コストは30。
リディアが、聖域の守護騎士から、現場を仕切る『棟梁』へと華麗に転身し、屈強な職人たちに指示を飛ばして、小屋の骨組みを組み上げていく。その凛々しい姿に、職人たちは「姐さん、かっけぇ…!」と、すっかり心酔していた。
そして、組み上がった骨組みに、俺たちはワイヤーネットで何段もの棚を作り付けていく。風が、レンガの上下左右、あらゆる方向から通り抜ける、完璧な乾燥棚だ。
その、新しくできた最高の遊び場を、シラタマが見逃すはずがない。彼は、完成したばかりの棚を、巨大なジャングルジムのように、身軽に駆け上っては、一番高い場所で満足げに昼寝を始め、職人たちの最高の癒やしとなっていた。

数日後。ロゼッタのレンガ工房は、生まれ変わった。
粘土は、かくはん棒で楽々と混ぜられ、シリコンの型で、寸分の狂いもないレンガへと次々と姿を変え、そして、乾燥小屋の棚で、春の風を浴びて静に出番を待つ。
工房には、もう、職人たちの苦しげな呻き声はない。代わりに、効率化された作業を楽しむ、活気に満ちた笑い声と、規則正しい槌の音が響き渡っていた。
親方は、一日で、これまでの数倍の量の、しかも完璧な品質のレンガが生産されていく光景を、涙を浮かべて見つめていた。

この、工房の新しい産声を祝して、俺とアニカは、職人たちのための、最高の饗宴を用意した。
大鍋で、鶏肉と、この町で採れた玉ねぎを、特製の割り下で煮込み、ふわふわの卵でとじる。炊きたての白飯の上に、それをたっぷりと乗せた、究極の労働者飯…**『特製親子丼』**だ。
煤だらけの職人たちが、木の器を手に、無心で、夢中でかき込む。甘辛い出汁が、疲れた体に染み渡る。ふわふわの卵と、柔らかい鶏肉が、空っぽの胃袋を、優しく、そして力強く満たしていく。
それは、彼らが、これまでの人生で味わった、どんなご馳走よりも、美味しかった。

饗宴の終わり。親方が、俺の前に、一つのレンガを、恭しく差し出した。
それは、新しい製法で生み出された、最初のレンガ。美しい薔薇色に輝き、驚くほど滑らかで、緻密な肌をしていた。そして、その表面には、親方の不器用な手で、一つの紋章が刻まれている。
**『もふもふの白熊と、聖なる剣』**。
「賢人様。このレンガは、俺たちの誇りであり、あんたへの、永遠の感謝の証だ。この紋章を持つ者は、このロゼッタの町が、永遠に友として迎え入れることを、ここに誓う」
その、あまりにも温かく、そしてあまりにも重い贈り物。
俺たちの伝説は、もはやただの噂ではない。この町の、新しい歴史そのものに、確かに刻まれたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ひより のどか
ファンタジー
ねぇたまと、妹と、もふもふな家族と幸せに暮らしていたフィリー。そんな日常が崩れ去った。 一見、まだ小さな子どもたち。実は国が支配したがる程の大きな力を持っていて? 主人公フィリーは、実は違う世界で生きた記憶を持っていて?前世の記憶を活かして魔法の世界で代活躍? 「ねぇたまたちは、ぼくがまもりゅのら!」 『わふっ』 もふもふな家族も一緒にたくましく楽しく生きてくぞ!

処理中です...