おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百二十四話】聖域への帰還と、招かれざる光

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薔薇色の町ロゼッタを後にしてから数日。俺たちの旅路は、往路とは全く違う空気に包まれていた。
世界は、変わらず春の生命力に満ちている。だが、俺たちの心には、商人たちが語っていた『王都の調査団』という、小さな、しかし無視できない影が落ちていた。
「…ユキ殿。追手はまだない。私の索敵範囲に、不審な気配はない」
リディアは、荷車を引くその歩みを止めることなく、しかし、その五感は常に研ぎ澄まされ、周囲の森のざわめき一つひとつに、鋭く注意を払っていた。彼女はもはや、ただの旅人ではない。帰るべき城(いえ)を、見えざる脅威から守るため、全神経を集中させる、真の守護騎士だった。

そして、ついに俺たちは、見慣れた森の入り口へとたどり着いた。
空気が、変わる。町の喧騒や、街道の土埃の匂いがすっと消え、代わりに、湿った土と、若葉と、そして俺たちがここで暮らしてきた時間の匂いが、深く、優しく、俺たちの肺を満たした。
「…帰ってきたな、ユキ殿」
リディアのその声には、ただ任務から帰還した騎士の安堵ではない、心から安らげる場所へ戻ってきた者の、深い、深い感慨が込められていた。
「ええ、帰りましょう、俺たちの家に」
その言葉を合図にしたかのように、荷台でうとうとしていたシラタマが、ぱちりと目を開けた。そして、故郷の匂いを嗅ぎつけたのだろう、「キュイイイイイイッ!」という歓喜の雄叫びと共に荷車から飛び降りると、自慢の真っ白な毛皮が汚れるのも構わず、懐かしい苔の絨毯の上を、何度も、何度も嬉しそうに転げ回った。

その夜の食卓は、無事の帰還を祝う、最高の『我が家の味』が並んだ。
俺が作ったのは、旅の間、ずっと食べたかった、日本の家庭料理の王様…**『肉じゃが』**だ。
聖域の畑で採れた新じゃがと人参、玉ねぎを、燻製にしたキバいのししのバラ肉と共に、大きな鉄鍋で煮込んでいく。出汁と、ほんの少し召喚した醤油と砂糖の、甘辛い香りが、家中に満ちていく。
熱々の肉じゃがを、翡翠の器によそい、一口。ほろり、と口の中で崩れるじゃがいもに、肉の旨味と野菜の甘みが染み込んだ、どこまでも優しく、そしてどこまでも懐かしい味。その、あまりにも温かい味わいに、旅の緊張で張り詰めていた心が、ゆっくりと、優しく解きほぐされていくようだった。

食事の後、俺たちは暖炉の前に集まり、今後の対策を話し合った。
「ユキ殿。万が一に備え、拠点の周りに罠を仕掛けるべきだ」
リディアが、騎士としての現実的な提案をする。だが、俺は穏やかに首を横に振った。
「いえ。俺たちの聖域は、砦ではありません。戦うのではなく、まず『知る』ことから始めましょう。彼らが、いつ、どこから来るのかを」
俺は、この見えざる脅威に対し、戦わずして優位に立つための、聖域ならではの防衛網を構築する。

ポンッ!ポンッ!
【創造力:55/150 → 50/150】
俺が召喚したのは、Eランクの化粧品、『手鏡』を数個と、同じくEランクの『吸盤フック』。コストは合わせて5。
「鏡は、光を反射させます。この力を利用して、遠く離れた場所に、光で合図を送るんです。狼煙よりも速く、そして、敵に気づかれることのない、静かな伝令ですよ」
その、あまりにも平和で、しかし軍事機密にも匹敵する、高度な情報伝達の概念。リディアは、その発想に息をのんだ。

翌日、俺とリディアは、聖域を見渡せる丘の上の木々に、吸盤フックを使って、手鏡を慎重に設置していく。彼女の騎士としての地形把握能力が、敵の侵攻ルートを完璧に予測し、最も効果的な監視ポイントを割り出してくれた。
そして、その日の午後。俺が聖域の畑で、ロゼッタから持ち帰った種の世話をしていると、温室の屋根から、つちのこが顔を出し、俺に向かって、必死に頭の双葉を左右に振った。それは、俺にしか分からない、彼からの『警告』だった。
俺が、はっと顔を上げる。
それと、ほぼ同時。
丘の上の監視ポイントにいるリディアから、約束の合図が送られてきた。
キラリ、と。
春の、まだ弱い太陽の光を反射させた、鋭く、しかし言葉のない光の矢が、俺の目に、確かに届いたのだ。
一つ、そして、間を置いて、二つ。
――**『敵影、二』**。

俺は、鍬を置き、静かに立ち上がった。
ついに、来たのだ。
俺たちの、ほんのささやかなお節介が生んだ、抗いがたい世界のうねりが、今、この穏やかな聖域の入り口まで、確かに、たどり着いたのだ。
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