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【第百五十七話】 ただいま我が家、そして焚き火を囲んで
しおりを挟む王都での華やかな冒険を終え、数日間の馬車の旅を経て、俺たちはついに、見慣れた森の入り口へとたどり着いた。
馬車を降り、自分たちの足で、聖域へと続く小道を一歩、踏みしめた瞬間。
空気が、変わった。
王都の喧騒や、街道の乾いた土埃の匂いがすっと消え、代わりに、雨上がりの湿った土と、初夏の若葉、そして、俺たちがここで暮らしてきた時間の匂いそのものが、深く、優しく、俺たちの肺を満たした。
「…帰ってきたのですね、ユキ殿」
リディアが、まるで長いため息をつくかのように、その場の空気を全身で味わっている。俺は、その言葉に、最高の笑顔で頷いた。
「ええ。帰りましょう、リディアさん。俺たちの家に」
拠点が見えてくる。煙突からは煙は上がっておらず、ひっそりと静まり返っている。だが、俺たちを最初に出迎えてくれたのは、建物ではなかった。
温室の扉が、ことり、と開き、そこから、小さな影が、てちてち、と駆け寄ってくる。
「…つちのこ!」
留守を守ってくれていた、小さな土の精霊。彼は、俺たちの足元にすり寄ると、頭の双葉を、これまで見たことがないほど嬉しそうに、ぴょこぴょこと、ちぎれんばかりに振った。言葉はいらない。その全身で、再会の喜びを表現してくれていた。
つちのこは、俺たちを「こっち、こっち」とでも言うように、温室へと導く。そこには、信じられない光景が広がっていた。俺たちが留守にしている間に、彼が一人で世話をしてくれていたのだろう、瑞々しい夏野菜たちが、まるで宝石のように、キラキラと輝きながら実っている。特に、以前**行商人バロンさんから譲ってもらった種**から育てた苗には、太陽の赤をそのまま閉じ込めたかのような、真っ赤なトマトが鈴なりになっていた。
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拠点に戻り、旅の荷物を解き、一晩ぐっすりと眠る。王都の柔らかなベッドも良かったが、やはり自分たちの手で作った寝床が一番だ。旅の疲れを完全に癒やし、翌日の午後。
リディアが、いつもの習慣で、すぐに暖炉に火を熾そうと薪を手に取った、その時。俺は、彼女を優しく止めた。
「リディアさん。今夜は、家の中じゃない。外で、ご飯にしませんか?」
「外で…?ですが、もう立派な食卓が…」
戸惑う彼女に、俺は悪戯っぽく笑いかける。
「ええ。でも、たまにはいいでしょう?俺たちが、この森で初めて出会った、あの頃のように。原点に返るんです」
俺は、旅の終わりと、聖域での新しい日常の始まりを祝して、原点回帰の**『キャンプ』**を提案した。
リディアは、最初こそ戸惑っていたが、その提案に込められた俺の想いを理解し、最高の笑顔で頷いた。シラタマも、久しぶりの焚き火の予感に、「キュイイイイイッ!」と歓声を上げて飛び跳ねている。
俺たちは、母屋ではなく、拠点前の広場に、ささやかなキャンプサイトを設営する。
ポンッ!ポンッ!
**【創造力:150/150 → 104/150】**
※創造力は睡眠により全回復
俺が召喚したのは、Cランクのアウトドア用品**『折りたたみ式のミニテーブル』**と、同じくCランクの**『アウトドアチェア』**を三脚。コストは合わせて46。
「俺たちの家には立派なダイニングテーブルがあります。でも、たまにはこうして、地面に近い目線で、火を囲むのもいいものですよ」
その、あまりにも贅沢で、そしてあまりにも豊かな時間の使い方。リディアは、その本当の意味を、心の底から理解していた。
料理も、原点に返る。石窯や鉄の大鍋は使わない。ただ、揺れる焚き火だけが、俺たちの厨房だ。
メニューは、**『アルミホイルで作る、夏野菜と川魚の包み焼き』**。
つちのこが育ててくれた完熟トマトとズッキーニ、そして、再会を喜ぶシラタマが、あっという間に川で獲ってきた新鮮な魚を、聖域のハーブと、作り置きの自家製バターと共にアルミホイルで包む。それを、熾火になった焚き火の中へ、そっと放り込むだけ。
そして、デザートには、キャンプの王様を。
ポンッ!
**【創造力:104/150 → 103/150】**
Eランクの**『マシュマロ』**。コストは1。
木の枝の先に刺した、白いふわふわの塊を、焚き火の炎で、慎重に、くるくると回しながら炙っていく。外はカリッと香ばしく、中はとろり、とろとろに。その、あまりにも単純で、しかし至高の甘さに、リディアは「な…なんだこの、雲を焼いたかのような食感は…!」と、子供のようにはしゃいでいた。
夜が更け、満天の星空の下、三人と一匹は、揺れる焚き火を囲んでいた。
熾火から取り出した、熱々のアルミホイルの包みを開けると、ぶわっ、と湯気と共に、魚と野菜、ハーブとバターの旨味が凝縮された、天国のような香りが立ち上る。
リディアは、その熱々の包み焼きを、ふーふーと冷ましながら頬張り、感慨深げに呟いた。
「…不思議だな。王宮で食べた、あの豪華絢爛な晩餐会も、生涯忘れられん。だが、この、焚き火の前で、自分の手で焼いた魚の味は…なぜだろう、あれ以上に、私の心に、深く、深く染み渡る」
俺は、とろとろに焼けたマシュマロを頬張りながら、答えた。
「それはきっと、これが俺たちの『原点』だからですよ。どんなに豊かになっても、どんなに世界が広がっても、俺たちの本当の宝物は、いつだって、この、ささやかな焚き火の周りにあるんですから」
王都での華やかな冒険は終わった。だが、それは非日常の、特別なイベントに過ぎない。
本当の幸福は、いつだって、この、揺れる炎と、仲間たちの笑顔の中にある。
聖域に、いつもの、そして最高の日常が戻ってきた。
その、かけがえのない事実を、一同は、パチパチとはぜる薪の音と、遠くで聞こえる森の寝息を聞きながら、心の底から、噛み締めるのだった。
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