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【第百五十九話】 ガラスの思い出と、森のカフェテラス
しおりを挟むUVレジンで作った涼やかな器が、俺たちの食卓を彩るようになってから数日。
初夏の陽光が差し込む昼下がり、リディアは工房で、完成したばかりの星形の小皿を、うっとりと光にかざしていた。透明な樹脂の中に封じ込められた、小さな赤い花びらが、まるで永遠の命を宿したかのように、キラキラと輝いている。
彼女は、ぽつりと、しかし確かな期待を込めて呟いた。
「…ユキ殿。この、太陽の光で固まるという魔法の水は、器の他に、何か別のものを作ることはできるのだろうか?」
その、純粋な好奇心に満ちた一言が、俺の新たな創作意欲に、優しく火をつけた。
「ええ、もちろんです。今日は、形のない、俺たちの『思い出』そのものを、このガラスの中に永遠に閉じ込めてみましょう」
俺が提案したのは、**『アクセサリー作り』**だった。
「シラタマの、この真っ白な毛の一本。リディアさんが大切にしている、あの緋色のショールの、ほんの小さな糸くず。つちのこが祝福してくれた、決して枯れることのない勿忘草(わすれなぐさ)の花びら…。それらは、俺たちの、かけがえのない宝物です。その魂のかけらを、お守りとして身に着けるんです」
その、あまりにも詩的で、ロマンティックな提案に、リディアは一瞬、言葉を失い、そして、はにかむように頬を赤らめた。
俺は、この世界でたった一つの宝物を作り上げるため、最後の仕上げとなるパーツを召喚した。
ポンッ!
**【創造力:87/150 → 82/150】**
Dランクの手芸用品**『アクセサリーパーツセット(丸カンや革紐など)』**。コストは5。
俺たちは、シリコンの型に、それぞれの『思い出のかけら』をそっと配置し、UVレジンを注いでいく。太陽の光を浴びて、液体がゆっくりと固まり、透明な宝石へと姿を変えていく。その、静かで、神聖な錬金術の光景を、一同は息をのんで見守った。
完成した、涙の雫のような形のチャームに、俺は金具を取り付け、革紐を通す。
一つは、リディアに。中には、彼女のショールの緋色の糸と、シラタマの純白の毛が、寄り添うように封じ込められている。
「…これは…私と、シラタマの…」
彼女は、その小さなガラスの雫を、まるで壊れやすい宝物のように、そっと胸元で握りしめた。
もう一つ、小さな骨の形をしたチャームを、俺はシラタマの首輪に飾り付けてやる。彼は、自分の体の一部がキラキラと輝いているのが嬉しいのか、誇らしげに胸を張り、「キュイ!」と一声鳴いた。
その、どこまでも平和で、満ち足りたクラフトの時間。それを破るように、森の小道から、あの懐かしい鈴の音が聞こえてきた。行商人バロンだ。
彼は、王都での大成功の報告と、新たな『聖域ブランド製品』の仕入れにやってきたのだ。だが、彼の商人としての鋭い目は、リディアが身に着けている、見たこともないほど美しく、涼やかなアクセサリーを見逃さなかった。
「お嬢さん…!そいつは、一体どこの宝石だい!?王都のどんな宝飾店でも、こんなに魂のこもった輝きは見たことがねえ!」
それが、森の素材と100均グッズで作ったものだと知ると、彼の商人としての血が、沸騰するほどに騒ぎ始めた。
「賢人様!こいつは売れる!いや、売るべきだ!王都の貴婦人たちが、自分の夫の領地と引き換えにしても、喉から手が出るほど欲しがるはずだ!」
俺は最初、俺たちの思い出の品を売り物にするという発想に、少しだけ難色を示した。だが、バロンは、真剣な目で俺を諭す。
「富のためじゃねえ。この聖域の『物語』を、外の世界に、もっと広く、深く伝えるためだ。マルス子爵のような、力だけを信じる連中に、本当の豊かさとは何なのかを、この小さな宝石で教えてやるのさ」
彼の、あまりにも熱く、そして的を射た言葉。俺は、ついに頷いた。聖域に、初めて**『経済』**という、外の世界と繋がる新しい扉が、静かに開かれた瞬間だった。
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この歴史的な取引の成立と、バロンの来訪を祝して、俺は初夏の陽気の中で食事を楽しむための、特別な空間を作ることを提案した。**『カフェテラス』**の建設だ。
母屋の前に、木のデッキを増設し、心地よい日陰を作るための『オーニング(日除け)』として、俺はあるアイテムを召喚した。
ポンッ!
**【創造力:82/150 → 57/150】**
Bランクの園芸用品**『遮光ネット』**。コストは25。
これを木のフレームに張るだけで、まるで木漏れ日のような、優しく、涼やかな日陰が生まれる。
ポンッ!
**【創造力:57/150 → 56/150】**
さらに、涼を呼ぶ音の演出として、Eランクの**『風鈴』**を軒先に吊るす。コストは1。
チリン、という涼やかな音が、夏の訪れを告げる風に乗り、聖域の空気に溶けていった。
完成したばかりのカフェテラスで、祝宴が始まる。
メニューは、夏にぴったりの、ひんやりとしたデザート…**『フルーツポンチ』**。
聖域で採れた色とりどりのベリーや果物を、先日作った蜂蜜酒《ミード》をほんの少しだけ加えた、自家製のレモンスカッシュに浮かべる。それを、レジンで作った涼やかなガラスの器に盛り付ければ、見た目も、音も、香りも、全てが涼やかな、究極のデザートが完成した。
バロンは、そのあまりの美味しさと、木漏れ日が揺れる心地よい空間に、心の底から感嘆の声を漏らした。
「賢人様…あんたは、ただ生きるだけじゃなく、人生を、そして季節そのものを『楽しむ』ことの、天才だな…」
リディアは、自分の胸元で温かい光を放つ、ガラスのチャームにそっと触れる。そこには、仲間との絆が、永遠の思い出として、確かに息づいていた。
チリン、と風鈴が、春の終わりと夏の始まりを告げるように、澄んだ音を立てる。
俺たちの聖域は、ただ生きるための場所から、人生を、そして仲間との、かけがえのない時間を、心から**『楽しむ』**ための、最高の舞台へと、また一つ、その姿を変えた。
バロンの荷車に乗せられた、キラキラと輝く小さなアクセサリーが、次に、この聖域にどんな新しい物語を運んでくるのか。初夏の風だけが、その答えを知っているかのようだった。
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