おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

はぶさん

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【第百七十六話】薔薇色の攻防戦と、希望の炊き出し

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***


俺たちの、穏やかだったはずのピクニックは、終わった。
これは、もはやただの救出劇ではない。罪なき人々の日常を、その笑顔を、理不尽な暴力から守り抜くための、俺たちの、初めての『聖戦』だ。夏の風が、燃えさしの焦げ臭い匂いと、俺たちの静かな怒りを乗せて、戦場となる、薔薇色の町へと、吹き抜けていった。

俺たちがロゼッタの町にたどり着いた時、その薔薇色の壁は、絶望という名の灰色の影に覆われていた。
町の入り口は、家具や荷車を積み上げただけの粗末なバリケードで固められ、その上では、見慣れた顔のレンガ職人たちが、鍬や棍棒を手に、青ざめた顔で震えている。町の外には、マルス子爵の私兵団が、まるで飢えた狼の群れのように陣を敷き、その数は、百を優に超えているように見えた。彼らは、今すぐにでも町に襲いかかるのではなく、じわじわと嬲り殺しにするかのように、包囲の輪をゆっくりと、しかし確実に狭めている。その光景は、圧倒的な捕食者を前にした、無力な獲物の姿そのものだった。

「ユキ師匠!」
俺たちの姿を認めたアニカが、涙ながらに駆け寄ってくる。
「申し訳ありません…!私の手紙が、あなた方まで、こんな危険な目に…!」
「謝る必要なんて、どこにもありませんよ」
俺は、彼女の震える肩を、力強く、しかし優しく抱いた。「仲間が困っている時に駆けつける。それが、俺たちの聖域の、たった一つの、そして絶対のルールなんですから」

その、あまりにも頼もしい言葉。だが、町の男たちの顔は暗い。レンガ工房の親方、バッカスが、壁に叩きつけていたツルハシを放り出し、悔しそうに吐き捨てた。
「賢人様…あんたたちの気持ちは嬉しい。だが、相手は百を超える手練れの軍隊だ。それに比べて、俺たちには、女子供と、土を耕すための鍬や、石を砕くためのハンマーしかねえ。もはや、これまでだ…。この町も、我らの誇りも、今日で終わりだ…」
その、諦めに満ちた空気を、俺は一言で切り裂いた。

「いいえ、これからです」

俺は、町の広場に、聖域から持参した鉄の大鍋を、ゴトン!と大きな音を立てて据え付けた。そして、恐怖に震える町の人々に向かって、高らかに宣言する。
「皆さん!戦の前に、まずは腹ごしらえをしましょう!最高の飯が、最高の勇気を、そして最高の勝利を呼び込みます!」

俺が、この絶望的な戦場で、最初に始めたこと。それは、武器を手に取ることではなかった。恐怖でバラバラになった町の人々の心を、一つに繋ぐための、**『希望の炊き出し』**だった。
俺が作るのは、冷え切った心と体を、芯から温める、究極の戦場飯…**『特製とん汁』**。
俺は、町の有り合わせの食材…干からびかけた根菜と、塩辛いだけの保存用の豚肉を、魔法のように生まれ変わらせる。

ポンッ!
【創造力:70/150 → 65/150】
Dランクの**『乾燥味噌(フリーズドライ)』**。コストは5。これさえあれば、ろくな出汁がなくても、深いコクと旨味を生み出せる。

俺は、アニカをはじめとする町の女性たちに指示を出し、驚異的な手際で野菜を切り刻み、大きな鍋で炒めていく。やて、広場には、絶望の匂いをかき消すかのように、味噌と、野菜と、そして肉の脂が焼ける、暴力的までに食欲をそそる香りが立ち込めていった。
その香りに誘われて、家の奥に隠れていた子供たちが、おそるおそる顔を出す。その瞳には、恐怖ではなく、温かい食事への、純粋な『希望』の光が灯っていた。
温かいとん汁が、木の器に盛られ、町の人々に配られていく。
一口すすったバッカスの、ゴツゴツとした岩のような顔が、驚きに歪んだ。
「…うめえ…なんだ、こりゃ…冷え切った、体の芯まで…温かいものが、染み渡るようだ…」
それは、ただのスープではなかった。明日を生きるための『活力』と、俺たちは独りではないという『絆』の味がした。
その光景を、リディアとシラタマは、聖域の守護者として、静かに、しかし誇らしげに見守っていた。

町の人々の心が、一杯のとん汁によって、確かに一つになった、その時。俺は、バッカスたち町の男たちを集め、反撃の狼煙を上げた。
「皆さん、武器を取ってください。ただし、剣や槍じゃありません。俺たちの武器は、これです」
俺は、この攻防戦の行方を左右する、聖域の最終兵器を召喚した。

ポンッ!ポンッ!
【創造力:65/150 → 25/150】
Dランクの**『潤滑油スプレー』**を三本と、同じくDランクの**『ゴムチューブ』**を数本。コストは合わせて40。

「町の門と、城壁に、この油を塗りたくります。攻城槌も、梯子も、面白いほど滑って、ただの鉄屑になりますよ」
「そして、これが、俺たちの『大砲』です」
俺は、ゴムチューブと、レンガ職人たちが使う頑丈な木のフレームで、巨大なパチンコ…**『スリングショット』**を組み上げていく。
「ユキ殿、それで、何を撃ち出すのだ?石か?熱した油か?」
「いえ、もっと、敵の心に深く響くものを」
俺が弾として用意させたのは、町のパン屋の、古くなって売り物にならなくなった、石のように硬いパン生地だった。それを、**『片栗粉』**を溶いた水と混ぜ、独特の粘り気と不快指数を持たせる。
その、あまりにも平和で、どこか滑稽ですらある『兵器』。だが、俺の瞳は、絶対的な自信に満ちていた。

夕暮れ時。しびれを切らしたマルス子爵の私兵団が、鬨の声を上げ、ついに総攻撃を開始した。
巨大な攻城槌が、大地を揺るがし、町の貧弱な木の門へと迫る!
だが、兵士たちが、門に槌を打ち付けようとした、その瞬間。
ツルンッ!
油で滑り、狙いが定まらない。それどころか、足元まで油が撒かれており、屈強な兵士たちが、次々と無様に尻餅をついていく。
「な、何だこれは!?地面が…!門が、まるで生きているかのように我らを拒むぞ!?」
梯子隊も同様だった。城壁にかけた梯子は、面白いように滑り落ち、ただの鉄の棒と化していた。
敵が、その不可解な状況に混乱している、その隙。

「――放て!」
俺の号令一下、城壁の上から、無数の、白くて、ねちゃねちゃとした塊が、放物線を描いて飛来した!
ベチャッ!ベチャッ!
それは、兵士たちの兜や鎧に命中し、不快な音を立てて張り付く。それは、痛みこそないが、視界を奪い、動きを阻害し、そして何より、戦士としての誇りを、根こそぎ奪い去る、あまりにも屈辱的な攻撃だった。

混乱の極みに陥った敵軍の前に、ついに、聖域の守護騎士が舞い降りる。
リディアは、町の城壁の、最も高い頂点に立ち、その手に握った愛剣を、夕日にかざした。
「――悪逆なるマルス子爵が兵よ!聞くがいい!この町は、賢人ユキが庇護する、聖域の友好都市である!これ以上の蛮行は、この私が許さん!」
その、凛として、どこまでも響き渡る声。それは、たった一人の声ではなかった。一杯のとん汁で、心と活力を取り戻した、町の人々の、無言の、しかし力強い意志が、その声に重なっていた。
「この町から、一歩も退かぬというのなら…この、聖域の守護騎士リディアが、お前たち全員を、まとめて地獄へ送ってくれる!」

夕日を背に、一人で、百を超える軍勢と対峙する、美しき女騎士。
その、あまりにも神々しく、そしてあまりにも圧倒的な光景を前に、マルス子爵の私兵団は、戦う前に、完全に、その戦意を喪失していた。
彼らが戦っているのは、ただの町の民兵ではない。森の賢人の知略と、聖域の守護騎士の武勇、そして、一杯の温かいスープで心を一つにした、町の人々の、揺るぎない『絆』そのものなのだと、魂で理解させられたのだ。

俺たちの、奇妙で、温かくて、そして少しだけ美味しい攻防戦は、今、始まったばかりだった。

***

いつもお読みいただきありがとうございます!
ついに始まった、ロゼッタ攻防戦!ユキの奇策と、リディアの武勇は、町の運命を救うことができるのか?そして、この予想外の抵抗に、マルス子爵は次なる、さらに非道な一手で応えるのか?物語は、クライマックスの攻防戦へと突入します!どうぞ、お楽しみに!
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