ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん

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第百三十五話:辺境伯城への旅路と、車中の密談

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 リーフ村の白い景色が、馬車の窓からゆっくりと遠ざかっていく。
 村を出発する際、母リリアは何度も俺の防寒着の襟を直し、心配そうにその瞳を潤ませていた。父アルフレッドは、多くを語らず、ただ一度だけ俺の肩を壊れそうなほど強く叩き、「自分を信じろ」と呟いた。マキナは鼻を赤くしながら、馬車が見えなくなるまで懸命に手を振り続けていた。
 彼らから受け取った温もりを胸の奥にしまい込み、俺――ルークス・グルトは、貴族御用達と思われる重厚な馬車のクッションに、その小さな身体を深く沈めていた。

「クゥン……」

 足元では、相棒のフェンが落ち着かない様子で鼻を鳴らしている。
 伝説の魔獣『ブラックフェンリル』の幼体。今回の登城には、彼も「ルークスが手懐けた奇妙な黒犬」として同行が許された。フェンは揺れる車内に戸惑いながらも、俺の足元に身体を擦り寄せ、守るべき主の気配を確認している。

「大丈夫だ、フェン。大人しくしていれば、城に着く頃にはとびきり美味い干し肉が待ってるぞ」

 俺はフェンの柔らかな頭を撫でながら、視界の隅でポイントウィンドウを静かに呼び出した。

[ 所持ポイント:134,000 pt ]
[ 目標:嘘見破り(150,000 pt)まで、あと 16,000 pt ]

 これから向かうのは、権謀術数が渦巻く辺境伯領の中心地、ランドール。
 前世のブラック企業で、数々の「無理難題」という名の地獄を潜り抜けてきた俺の直感が告げている。これから会う辺境伯レオナルド閣下は、間違いなく一筋縄ではいかない人物だ。
 この『嘘見破り』スキルは、俺の、そして村の平穏を守るための「絶対防衛装備」になる。城の門をくぐるまでの数時間。この馬車の中こそが、不足している一万六千ポイントを稼ぎ出すための「最初の戦場」だった。

「……随分と落ち着いているな、少年」

 不意に、向かいの席に座る騎士ギデオンが口を開いた。
 彼は揺れる馬車の中でも背筋を微塵も崩さず、鉄のような意志を宿した双眸で俺を観察し続けている。その姿は、一瞬の隙も見せない猛禽類を彷彿とさせた。

「五歳の子供が、武装した騎士たちに囲まれ、領主の城へ向かうのだ。普通なら震え上がるか、あるいは好奇心に浮足立つはず。だが君の瞳には、冷徹な分析者だけが持つ静かな光が宿っている。カストロをロジックで追い詰めたという報告……どうやら、ただの噂ではなかったようだな」

「……ただ、緊張しすぎて表情が固まっているだけですよ、ギデオン様」

 俺はわざと子供らしく、膝の上で小さな手をぎゅっと握りしめてみせた。
 だが、ギデオンは鼻で短く笑い、俺の演技を切り捨てた。

「白々しいな。……閣下は君の『知恵』を高く評価しておられる。特に、カストロが隠匿していた裏帳簿の矛盾を、君が瞬時に見抜いたという点にな。我ら騎士団には、剣の達人は数多くいるが、数字の化け物を扱える文官は常に不足しているのだ」

 ギデオンが馬車の小さなテーブルに、一束の羊皮紙を無造作に置いた。
 それは、広場での騒動の後に回収された、カストロの私的なメモ書きや不完全な経理書類の束だ。

「これを見ろ。城の文官たちが三日三晩かけて精査したが、正確な横領額がいまだに算出できん。奴は近隣の複数の村から、徴収時期を僅かにずらし、端数を不自然に操作して抜き取っている。君なら、これを見て何がわかる?」

 ――きた。
 これは、辺境伯側から俺への「入社試験」あるいは「査定」だ。
 ここで並の子供を演じては、利用価値なしと判断されるか、あるいは単なる「珍しい置物」として囲い込まれて終わる。
 ポイントを稼ぐチャンス――いや、これは「商談」だ。

「……少しだけ、拝見してもよろしいですか?」

 俺は身を乗り出し、羊皮紙を手に取った。
 そして、瞳に一瞬だけ青白い閃光を走らせ、『鑑定Lv.1』を発動させる。
 名前や参考価格を確認しながら、俺は前世で地獄のような決算期を、栄養ドリンク片手に何度も乗り越えた「経理・監査知識」の回路をフル稼働させた。

「……ギデオン様。この三枚目の帳簿、四行目と十二行目の『端数』に注目してください」

 俺の小さな指が、走り書きのような数字を指し示す。

「この地域の平均的な土壌の質から導き出される収穫期待値に対し、カストロが申告した種籾の『劣化廃棄率』が二割以上も高すぎます。これは実際に捨てられたのではなく、廃棄したことにして『新品の種籾』として他村へ闇流しされていますね」

「なに……? 廃棄率だと?」

「ええ。それと、ここを見てください。傭兵への支払いが、本来の王都の相場より一割五分高い。これはカストロが兵士たちに口止め料として渡した分ではありません。……傭兵ギルドの特定の窓口を介した『返金(バック)』……すなわちキックバックの構造です」

 俺は淡々と、しかし逃げ場のない事実として、帳簿の裏に隠された「不正な金の流れ」を暴いていった。
 前世で、粉飾決済を見抜くために血眼になって帳簿を洗わされた、あの泥臭い分析術が、この中世的な世界では「魔法」にも等しい預言となる。

「この合計から逆算すると、彼がこの三年間で着服した額は、銀貨数百枚などという端金ではありません。……金貨、十五枚分。さらに言えば、そのうちの三割は『王都の特定の商会』へ流れています。彼はただの横領犯ではなく、外部の勢力と繋がっていた可能性があります」

 馬車の中に、重苦しい、そして震えるような沈黙が降りた。
 ギデオンは目を見開き、五歳の子供の姿をした「何か」を、戦慄を隠しきれない瞳で見つめている。

「……金貨十五枚……。文官たちが数日がかりで匙を投げた数字を、君はほんの数分で……。しかも、王都の商会との繋がりまで読み取ったというのか?」

[ 騎士ギデオンの驚愕:5,000 pt 獲得 ]
[ 辺境伯領の不正摘発貢献ボーナス:8,000 pt 獲得 ]

 ウィンドウに流れる、心躍る通知。
 よし、いい反応だ。相手の「困りごと」を専門知識で解決し、欠かせない存在だと思わせること。それが凡人の生き残り戦略であり、最高のポイント獲得術だ。

「……少々、驚きすぎたな。君は一体、どこでそのような……いや、聞くまい。閣下が君を城へ招かれた理由、今ようやく骨の髄まで理解できた」

 ギデオンは俺への警戒を、より深い、恐怖に近いほどの「敬意」へと塗り替えたようだった。
 
 その後も俺は、道中の検問所での物資の滞留を見て、ギデオンに「あそこの物流の並びを変えるだけで、輸送効率が十二パーセント上がりますよ」と、現代のロジスティクスの知恵を小出しにした。
 そのたびに、ギデオンの驚きは重なり、ポイントが着実に積み上がっていく。

[ 現在の所持ポイント:149,800 pt ]

 あと、二百ポイント。
 
 馬車の窓から、夕日に照らされたランドールの壮大な城郭が見えてきた。
 冬の終わりを告げる風が、車内に吹き込む。
 
 俺は、小さな拳をそっと握りしめた。
 城門をくぐるその瞬間に、通知が届く。
 
[ 称号:『領地の賢者』の片鱗を確認 ]
[ ボーナスポイント:5,000 pt 獲得 ]

[ 現在の所持ポイント:154,800 pt ]

「……購入」

[ 嘘見破り (Lv.1 / 150,000pt) を取得しました ]

 脳内に、不協和音を伴うような鋭い感覚がインストールされる。
 間に合った。
 
 高く聳える城門が、重々しい音を立てて開く。
 
 牙を研げ。
 理不尽と陰謀が渦巻く辺境伯城へ、凡人の「最適解」を叩き込みに行くために。

---


**【読者へのメッセージ】**
第百三十五話、最後までお読みいただきありがとうございました!
馬車の中という密室で繰り広げられた、ルークスの「帳簿監査チート」。
五歳の子供にキックバックの構造を指摘される騎士ギデオンの驚愕っぷり、書いていて快感でした。
そしてついに、念願の『嘘見破り』スキルを獲得! ギリギリで大台に乗せるルークスのポイントへの執着心こそが本作の魅力です。
次話、第百三十六話「辺境伯レオナルドの眼差しと、響く不協和音」。
いよいよ辺境の覇者との対峙。ルークスの『嘘見破り』が、城の住人たちのどんな「裏の顔」を暴くのか。
評価や感想をいただけますと、ルークスのスキルレベルがさらに上がるかもしれません。ぜひよろしくお願いします!
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