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第百五十二話:十万ポイントの正しい使い道、あるいは贅沢な日常の始まり
しおりを挟むリーフ村の北門付近に響き渡っていた、鉄錆(てつさび)と淀んだ魔力の喧騒は、驚くほどあっけなく、そして無慈悲に収束した。
宰相オルコが放った自慢の魔導騎士団は、ルークスが十万ポイントという膨大なリソースを背景にアップデートした『案山子改(バルカン・スケアクロウ)』の放つ圧倒的な魔力散弾と、意志を持つ底なしの泥沼と化した地面の前に、文字通り「根こそぎ」にされたのだ。
「……ひ、ひぃ……っ。助けてくれ、頼む……! 私はただ、命令に従っただけなんだ……っ!」
最後に残った騎士団長が、腰まで泥に浸かった状態で、へのへのもじが描かれた滑稽な案山子に向かって必死に命乞いをする。
案山子は、その首を一瞬だけ「ギギギ……」と不自然な角度で回した。その際、ルークスの視界にだけ映るシステムウィンドウには、微かなノイズが走る。
【 [SYSTEM_ERROR: L0-V3-PR0T0C0L] …… 侵入者の排除を完了。安全圏を確保しました …… 】
ルークスはその不気味な、それでいてどこか哀切を感じさせる文字列を一瞥した。「(……愛(LOVE)とも読めるプロトコルが、害虫駆除の完了を告げるなんて、相変わらず皮肉なシステムだな)」と内心で独り言を漏らしながら、彼は十歳の少年らしい仕草でパチンと指を鳴らした。
それを合図に、魔力を帯びていた案山子たちは一瞬にして活動を停止し、夕暮れ時の農村に馴染む、ただの古びた藁人形(わらにんぎょう)の姿へと戻った。
「フェン、あとは辺境伯領のギデオンさんたちに任せよう。……戦いなんて、やっぱりお腹が空くだけだね」
「ククク……主よ、同感だ。我が鋭き牙は、鉄の鎧を噛むためではなく、主の作る肉料理を食らうためにあるのだからな」
ルークスは、泥まみれで気絶し、もはや戦意を喪失した騎士たちを「後の処理」として辺境伯の騎士団に引き渡すよう手配すると、軽やかな足取りで、夕餉(ゆうげ)の香りが漂い始めた我が家へと歩き出した。
---
我が家の扉を開けると、そこにはルークスが前世で命を削ってまで守りたかった、平和で温かな空気が満ちていた。
母リリアが鼻歌を歌いながら、今日収穫したばかりの瑞々しい野菜を木製のまな板で刻んでいる。
「おかえり、ルークス。フェンと一緒に、外で何をして遊んでいたの?」
「ちょっと、庭の案山子の手入れをね。……ねえ、母さん。今日はお祝いに、俺がいくつか新しい『道具』を出してもいいかな?」
「道具? またあなたの不思議な知恵かしら。いいわよ、お父さんももうすぐ帰ってくるしね」
ルークスは、家族に見えない位置で、十万ポイントという未曾有(みぞう)の残高を示す黄金色のウィンドウを開いた。
(保有ポイント:56,850pt。……よし、まずはこれだ。スローライフの質を底上げするための『先行投資』だ)
彼が真っ先に召喚したのは、設定資料集の「スローライフの礎」をさらに発展させた、現代知識と魔力を融合させた魔力駆動式の生活革命セットだった。
【アイテム:魔力駆動・恒温冷蔵庫:5,000pt】
【アイテム:自動温度調整・全天候型温室システム:15,000pt】
【アイテム:魔法の蛇口(浄水・瞬間湯沸かし機能付):3,000pt】
居間の片隅に、突如として現れた白く輝く大きな箱。
そしてキッチンに設置された、捻(ひね)るだけでお湯が出る不思議な蛇口。
それは、中世ヨーロッパ風のこの世界においては、伝説の古代遺物(アーティファクト)にも匹敵する衝撃だった。
「な、何なのこれ!? 水がお湯になるなんて……火も使っていないのに! 聖樹の奇跡かしら!」
驚愕して腰を抜かさんばかりのリリアを横目に、ルークスは満足げに頷いた。
「母さん、これで冬の冷たい水で洗い物をして、手が荒れることもなくなるよ。それに、この白い箱に入れておけば、お肉も野菜も、あの『氷晶大麦』だってずっと新鮮なままだ」
さらに庭には、魔力によって常に最適な気温と湿度が保たれる透明な「温室」が、ルークスが加工した『スライムレザー』を透過する光を浴びて完成していた。これにより、繊細な薬草や、王都で流行した「奇跡のプリン」の材料となる果実も、リーフ村で一年中収穫が可能になるのだ。
夕食。テーブルには、冷蔵庫から取り出したばかりの瑞々(みずみず)しいサラダと、瞬間湯沸かし器のおかげですぐに準備できた温かいスープが並んだ。
父アルフレッドも、ルークスの「魔法の道具」の数々に言葉を失っていたが、最後には力強く、そして優しく微笑んでカップを掲げた。
「ルークスよ……。お前が何者でも構わん。この温かい食事と、家族の笑い声。……これ以上の幸せは、王都の王様だって持っていないだろうさ」
(……そうだよ、父さん。俺は、このためにポイントを極めてきたんだ。誰にも邪魔されない、この食卓のために)
窓の外、夜の闇に沈むリーフ村の四方では、案山子たちが静かに、だが鉄壁の守りで村を見守っている。
一方、王都。
経済的に完全に破綻(はたん)した宰相オルコは、私兵の騎士団まで失ったことで、それまで彼に虐(しいた)げられてきた商人や下級貴族たちの糾弾(きゅうだん)を浴び、自滅への道を転がり落ちていた。
ルークスは、自らの手を汚して直接的な「復讐」を遂げる必要すらなく、ただ美味しい食事を家族と囲むだけで、最大の敵を過去のものとしたのだ。
「デザートは、冷蔵庫でキンキンに冷やしておいた、新作の『氷晶大麦のプリン』だよ」
ルークスの言葉に、妹マキナとフェンが今日一番の歓喜の声を上げる。
十万ポイントの正しい使い道。
それは、世界を救う壮大な英雄譚ではなく、愛する人たちの明日を、今日よりも少しだけ便利で、温かなものにすることだった。
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【読者へのメッセージ】
第百五十二話、最後までお読みいただきありがとうございました!
ついに「ポイントの暴力」ならぬ「ポイントの豊かさ」がリーフ村に降臨しました。現代の冷蔵庫や温室システムが、農民の生活を劇的に変えていく……これこそがルークスの目指した真のスローライフの形ですね。
次回、辺境伯領編、堂々の完結!
そしてルークスの名声は種族を越え、次なる舞台、閉ざされた「エルフの森」編へのプロローグが始まります。
エルフの使節団との出会いや、新たな特産品の構想など、ワクワクする展開を準備しております。
「冷蔵庫欲しい!」「ルークスの家族愛に感動した!」という方は、ぜひ評価やブックマークでの応援をよろしくお願いします。
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