ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん

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第二百十話:王都炎上(比喩)! 暴露された王子の闇と、鍋釜の革命

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 深夜の『夕暮れ亭』。
 営業停止の札が貼られ、明かりを落とした薄暗い店内で、俺たちはテーブルを囲んでいた。
 中央に置かれているのは、エレナ様が持ち出した「黒いノート」。
 そして、煌びやかな宝石の山だ。

「……すごいな。これ、爆弾だぞ」

 俺はノートのページをめくりながら、思わず口笛を吹いた。
 そこには、アベル王子と癒着している商会のリスト、裏帳簿の隠し場所、衛生局長が闇カジノに通っている日時と掛け金、徴税官が愛人に貢いだ公金の額……。
 王都の膿(うみ)が、日付入りで詳細に記録されていた。

「お茶会での婦人方の噂話は、情報の宝庫でしたわ。皆様、秘密を共有することで連帯感を深めようとなさいますから」

 平民服のエレナ様が、悪戯っぽく微笑む。
 以前の彼女なら「人の弱みを探るなんて」と眉をひそめたかもしれない。だが今の彼女の瞳には、戦う者の冷徹な光が宿っている。

「王子本人は、王族という厚い殻に守られています。直接叩いても揉み消されるでしょう。……ですが」

「手足をもぎ取れば、胴体は動けなくなる」

 俺はニヤリと笑った。
 衛生局、徴税官、資材屋への圧力をかけている商会。奴らは王子の威光を借りているだけの小悪党だ。社会的に抹殺するのは造作もない。

「作戦開始だ。……俺とロベルトは『買収』に走る。エレナ様とスラムのみんなは『噂の流布(パンデミック)』をお願いします」

「承知しましたわ。……ふふ、匿名の手紙を書くなんて、初めての経験です」

「俺たちに任せな! 王都中に『面白い歌』を流行らせてやるよ!」

 スラムの子供たちが目を輝かせる。
 剣も魔法も使わない。
 だが、これは間違いなく「戦争」だ。

---

 翌朝。王都に奇妙な風が吹いた。
 
 始まりは、市場の井戸端会議だった。
 水を汲みに来た主婦たちの間で、ある噂が囁かれ始めたのだ。

「ねえ、聞いた? 最近、安くて美味しい野菜が消えた理由」
「ええ、衛生局の局長様が、賄賂をくれない店に嫌がらせをしてるんですって?」
「しかもそのお金で、毎晩賭博に興じているとか……」
「許せないわねぇ。私たちの食費を何だと思ってるのかしら」

 情報源は、路地裏で遊ぶ子供たちの「手鞠歌」だ。
 『♪局長さんは賭けが好き~ 野菜の賄賂で賭けが好き~ 負けても平気さ税金だ~♪』
 単純だが耳に残るメロディは、驚異的な感染力(バイラル)を持って王都中に拡散された。

 一方、貴族街でも激震が走っていた。
 対立派閥の貴族や、ゴシップ好きのサロンに、「差出人不明の封書」が届いたのだ。
 中には、汚職の証拠となる日付や場所が具体的に記されていた。

「おい、見たかこれ。衛生局の裏帳簿の写しだぞ」
「アベル殿下の派閥は、ここまで腐敗していたのか……」
「これは好機だ。議会で追求してやろう」

 情報のウイルスは、上と下、両方から王都を蝕んでいった。
 衛生局長が登庁した時、部下たちの視線は氷のように冷たく、街を歩けば石を投げられるような空気が形成されていた。

「な、なんだ……!? なぜ私のカジノ通いがバレている!? 誰だ、誰が漏らした!」

 疑心暗鬼。
 組織にとって最も恐ろしい毒が、内部から彼らを崩壊させていく。

---

 情報戦と同時に、俺は経済戦を仕掛けた。
 場所は、スラムへの資材供給を止めていた卸売業者の倉庫。

「か、帰ってくれ! あんたらに売る在庫はねぇ! ギルドに睨まれたくねぇんだ!」

 店主が青い顔で手を振る。
 だが、俺は一歩も引かない。懐から、エレナ様の持参金が入った革袋を取り出し、カウンターに叩きつけた。

 ドサッ!

 重い音と共に、袋の口から金貨が溢れ出す。

「……なっ!?」

「ギルドは、あんたに幾ら払うと言った? ……俺は、その倍払う。即金だ」

 俺は金貨の山を指差した。
 商人の目が、恐怖から欲望へと揺らぐ。
 遠くの権力者の脅しより、目の前の現金。それが商売人の真理だ。

「それに、考えてもみろ。ギルドの幹部や衛生局長は、今ごろ自身のスキャンダルで手一杯だ。……あんたの店まで監視している余裕があるかな?」

「……ッ!」

 店主はゴクリと喉を鳴らし、震える手で金貨を掴んだ。

「……へ、へへっ……商売に貴賎はありませんな! 炭でも砂利でも、好きなだけ持っていってくだせぇ! なんなら配達もしやすぜ!」

「交渉成立だ」

 金が動けば、物が動く。
 止まっていた物流の動脈が、再び脈打ち始めた。
 これで農園の維持は可能だ。あとは――仕上げだ。

---

 昼過ぎ。
 衛生局の庁舎前は、異様な熱気に包まれていた。
 集まったのは、数百、いや数千の「主婦」たちだ。
 彼女たちの手には、武器の代わりにおたまやフライパン、そして空っぽの鍋が握られている。

 ガン! ガン! ガン!

 鍋を叩く音が、シュプレヒコールとなって響き渡る。

「野菜を返せ!!」
「賄賂役人は出てこい!!」
「私たちの子供に、美味しいスープを飲ませろ!!」

 鍋釜の革命(キッチン・レボリューション)。
 食を脅かされた民衆の怒りは、どんな騎士団よりも恐ろしい。
 彼女たちは「ルークスを助けたい」わけじゃない。「自分たちの生活を守りたい」のだ。その生存本能に火をつけた俺の勝ちだ。

「ひ、ひぃぃぃッ! 暴動だ! 抑えきれん!」

 庁舎の窓から覗いていた衛生局長は、その光景に腰を抜かした。
 衛兵たちも、怒り狂う母親や妻たちに剣を向けることはできない。

「き、局長! もう限界です! 『夕暮れ亭』への営業停止命令を撤回してください! さもないと、この建物が壊されます!」

「わ、わかった! 撤回だ! 撤回するから、あの女たちを鎮めろぉぉぉッ!」

 白旗が上がった。
 その瞬間、広場からワッと歓声が上がった。

---

 同時刻。第二王子の屋敷。
 アベル王子は、次々と入ってくる敗北の報告に、顔を歪めていた。

「衛生局長が逃亡!? 徴税官が民衆に囲まれて土下座しただと!?」

「は、はい……! 市民の怒りが凄まじく、もはや殿下の名前を出しても効果がありません! 殿下の関与を疑う声も上がっており……」

 執事が震えながら報告する。
 アベルは、手元のワイングラスを床に叩きつけた。

 パリンッ!

「ええい、役立たずどもめ! ……切り捨てろ! 奴らの汚職は個人的なものであり、私は関知していないと発表しろ!」

「は、ハッ! 直ちに!」

 トカゲの尻尾切り。
 だが、手足を失ったトカゲは、もう這い回ることしかできない。
 王子の包囲網は、民衆の熱気によって焼き払われたのだ。

---

 夕暮れ時。
 営業再開した『夕暮れ亭』は、勝利を祝う人々でごった返していた。
 厨房ではゲイルさんが嬉し泣きしながら腕を振るい、フェンは客から差し出された肉を満足げに貪っている。
 そして、ホールでは。

「お待たせしました! 再生スープ、三丁ですわ!」

 平民服にエプロンをつけたエレナ様が、額に汗を浮かべて走り回っていた。
 その顔は、煤(すす)と油で少し汚れている。
 だが、俺の目には、どんな夜会での姿よりも美しく見えた。

「……お疲れ様、エレナ。貴族令嬢に配膳なんてさせて、悪いな」

「ふふ、何を仰いますの。……私、こんなに清々しい気分は初めてですわ」

 彼女は汗を拭い、輝くような笑顔を見せた。

「自分の手で働き、自分の足で立ち、そして勝った。……これが『生きる』ということですのね」

「ああ。……俺たちの勝利だ」

 俺たちはスープで乾杯した。
 店内に満ちる熱気と笑顔。これこそが、俺が守りたかったものだ。

 だが、俺は知っている。
 アベル王子は、まだ終わっていない。
 社会的な権力を失った彼が、次に手を伸ばすのは――法も倫理も超えた「禁忌」だ。

---

 暗い執務室で、独りになったアベル王子は、狂気を孕んだ目で笑っていた。
 彼は壁の隠し扉を開け、地下へと続く階段を降りていく。

「……愚民どもめ。私の慈悲を拒絶し、あまつさえ私を愚弄するか」

 辿り着いたのは、異様な魔力が渦巻く祭壇の間。
 そこには、古びた壺と、どす黒い水晶が置かれていた。

「もういい。手加減はしない。……表の権力が通じぬなら、闇の力でねじ伏せてやる」

 アベルは水晶に手を触れた。
 
「出でよ、古の捕食者……。我が血肉を糧に、あの農民の全てを喰らい尽くせ」

 王都炎上の煙が晴れたその先で、更なる絶望の火種が燻り始めていた。

---


読者の皆様、第二百十話「王都炎上(比喩)! 暴露された王子の闇と、鍋釜の革命」をお読みいただきありがとうございました!
民衆の怒りと現代的な情報戦による、大逆転劇。
おたまを持って戦う主婦たちの強さ、そしてエレナ様の生き生きとした姿。
スカッとしていただけましたでしょうか?

しかし、追い詰められた王子は禁断の手に……。
次回、第二百十一話。
「禁忌の召喚と、王都最大の危機」。
ついに「世界の捕食者」の片鱗が姿を現す!?
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皆様の応援が、ルークスとエレナの「未来」を守る力になります!
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