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第二百四十六話:真冬の甘味。雪室(ゆきむろ)リンゴと、ポイント製パイシートの誘惑
しおりを挟む石狩鍋による脂とカロリーの補給を終えた翌日。
リーフ村は相変わらず深い雪に閉ざされていたが、俺、ルークス・グルトはスコップを担ぎ、自宅の裏庭にある「雪山」の前に立っていた。
ただの除雪された雪の山ではない。ここは俺が作った天然の冷蔵庫――『雪室(ゆきむろ)』だ。
「よし。……そろそろ熟成のピークを迎えているはずだ」
俺は雪山の一角を掘り返した。
ザクッ、ザクッ。
白い雪の中から現れたのは、藁(わら)に包まれた木箱。蓋を開けると、そこには鮮やかな真紅の果実が、宝石のように眠っていた。
晩秋に収穫し、あえてすぐには食べず、雪の中で寝かせておいた『聖樹リンゴ(フジ種)』だ。
「……雪の中で保存することで、リンゴは寒さから身を守ろうと、自らのデンプンを『糖』に変える。糖度が極限まで高まった、完熟リンゴの完成だ」
俺は一つを取り出し、服で拭ってガブリとかじりついた。
――パリンッ! ジュワァ……。
硬質な音と共に、口の中に溢れ出すのは、果汁というより「蜜」そのもの。
強烈な甘み。酸味は角が取れ、まろやかになっている。
「……甘い! 砂糖なしでもジャムができるレベルだ。……さて、こいつを最高のお菓子にするには、現地の小麦粉とバターじゃ限界があるな」
俺はニヤリと笑い、リビングに戻ると、虚空に向かって指を滑らせた。
「システム、起動」
青白く発光する『農業ポイント交換システム』のウィンドウが展開される。
俺が求めているのは、異世界の技術では再現不可能な「プロの仕事」だ。
「悪いな、俺は楽をして美味いものが食いたいんだ。パイ生地を粉から作って、バターを折り込んで何層にも重ねるなんて重労働、俺は御免だ。……ここは『企業の努力』を買わせてもらう!」
俺は迷わず「製菓材料(プロ仕様)」のカテゴリをタップした。
『発酵バター使用・冷凍パイシート(144層・業務用)』:2,500 pt
『GABANシナモンパウダー(大瓶)』:800 pt
『ナツメグパウダー』:500 pt
『明治エッセル・スーパーカップ(業務用2Lサイズ)』:1,200 pt
「購入(ポチッ)!」
――チャリン♪
軽快な課金音と共に、光の粒子が集束し、テーブルの上に「文明の利器」たちが実体化した。
霜のついた冷凍パイシートの束、香り高いスパイスの瓶、そして巨大なバニラアイスの容器。
『主よ、その薄い板はなんだ? 食べ物か? 紙の束に見えるぞ』
「フェン、これは『パイシート』だ。小麦粉とバターを百四十四回も折り重ねた、職人殺しの芸術品だ」
◇
調理開始だ。
まずはフィリング(中身)を作る。
雪室リンゴの皮を剥き、八つ割りにする。フライパンにバターと砂糖を熱し、リンゴを投入。
ジューッという音と共に、甘い香りが立ち上る。
ここで、ポイント交換した『シナモン』と『ナツメグ』を、惜しげもなく振りかける。
「……っ!? なにこの香り! スパイシーで……でも甘くて……異国の王宮みたいな匂いがする!」
フィオナが鼻をヒクつかせる。この世界でスパイスは金と同等の価値がある。それを瓶ごと使う贅沢。
リンゴがキャラメル色になり、透き通ってきたら火を止める。
次はパイ生地だ。
解凍したシートを耐熱皿に敷き詰め、煮詰めたリンゴをたっぷりと乗せる。
さらに、短冊状に切ったパイシートを、格子状(編み込み)になるように被せ、表面に卵黄を塗って艶を出す。
「オーブンへ投入! あとは待つだけだ!」
二十分後。
キッチンから漂ってきたのは、暴力的なまでに芳醇な「焼き菓子」の香り。
発酵バターが熱されて焦げる香り、小麦の香ばしさ、そしてシナモンとりんごの甘い誘惑。
チーン♪
焼き上がりだ。
扉を開けると、そこには黄金色(きつね色)に輝き、ふっくらと膨れ上がった『網目アップルパイ』が鎮座していた。
「完成だ……。だが、まだだ。ここで終わればただのパイだ」
俺は熱々のパイを切り分け、皿に乗せた。
そして、冷凍庫(保冷コンテナ)から取り出した、2リットルサイズの巨大なアイスの容器を開け、ディッシャーで真ん丸なボール状にすくい取った。
「行け! 『冷』の爆撃!」
ドスンッ。
焼きたて激熱のパイの上に、冷たいバニラアイスの塊が鎮座する。
パイの熱で、アイスの底がジワジワと溶け出し、白いクリームソースとなって網目の隙間へと流れ込んでいく。
「『焼きたてアップルパイ・ア・ラ・モード』だ! ……アイスが溶けきらないうちに食うぞ!」
◇
俺たちはコタツに入り、スプーンを構えた。
フィオナがアイスごとパイをすくい取る。
サクッ……パリパリパリッ!
軽快すぎる音。
144層のパイ生地が砕ける、繊細かつリズミカルな響き。
「……いただきます! ……はふっ、んんっ!!」
フィオナが目を見開き、フリーズした。
「……あ、熱っ! 冷たっ! ……なにこれ、口の中が忙しい! 熱々のリンゴの酸味と、冷たいアイスの甘さが……混ざり合って……とろける!」
そして、彼女はパイ生地の断面を凝視した。
「そしてこのパイ! サクサクなんてレベルじゃないわ! ハラハラと崩れるような繊細な層……。ルークス、あんたこれを魔法も使わずに手で作ったの!? 信じられない技術よ!」
「俺じゃないさ。『企業努力(ポイント)』の結晶だよ」
俺も頬張る。
バターの濃厚な風味が鼻に抜け、シナモンの香りが全体を引き締める。
雪室リンゴの凝縮された蜜の甘みは、砂糖では出せない深みがある。
そして何より、この「温かさ」と「冷たさ」の温度差(ギャップ)。これこそが、文明の味だ。
『ガフッ! ……うまい! 主よ、この白い冷たい塊(アイス)、バケツ一杯分よこせ! 熱い果実とよく合う!』
フェンも鼻にクリームをつけながら貪り食っている。
その時。
遠くから、雪を踏みしめる馬車の音と、「甘い! 甘くて香ばしい匂いがするぞ! これは……シナモンか!?」という叫び声が聞こえてきた。
「……まったく。あの公爵は、甘味処の探知機か何かなのか?」
俺は苦笑しながら、システムウィンドウを開き、追加のパイシートとアイスを購入した。
冬の寒さが厳しければ厳しいほど、甘いものは美味くなる。
雪室の知恵と、現代のチート。
二つの世界が融合したアップルパイは、瞬く間に皿の上から消滅していった。
---
**【読者へのメッセージ】**
いつもご愛読ありがとうございます!
第二百四十六話、いかがでしたでしょうか?
今回は「現地の知恵(雪室)」と「現代のチート(冷凍パイシート)」の合わせ技です。
パイ生地を粉から作るのは大変ですが、ポイントなら一瞬。
焼きたてのパイに冷たいアイスを乗せる「ア・ラ・モード」は、まさに悪魔の発明ですね。
公爵もこの香りには抗えなかったようです。
「アップルパイ食べたい!」「アイス乗せは正義!」と思ってくださった方は、ぜひ【評価・感想・ブックマーク】をお願いします!
皆様の応援が、ルークスのポイント残高を増やします!
次回、第二百四十七話――「春の訪れ。山菜採りと、天ぷらの苦味」。お楽しみに!
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