ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん

文字の大きさ
248 / 278

第二百四十六話:真冬の甘味。雪室(ゆきむろ)リンゴと、ポイント製パイシートの誘惑

しおりを挟む

 石狩鍋による脂とカロリーの補給を終えた翌日。
 リーフ村は相変わらず深い雪に閉ざされていたが、俺、ルークス・グルトはスコップを担ぎ、自宅の裏庭にある「雪山」の前に立っていた。
 ただの除雪された雪の山ではない。ここは俺が作った天然の冷蔵庫――『雪室(ゆきむろ)』だ。

「よし。……そろそろ熟成のピークを迎えているはずだ」

 俺は雪山の一角を掘り返した。
 ザクッ、ザクッ。
 白い雪の中から現れたのは、藁(わら)に包まれた木箱。蓋を開けると、そこには鮮やかな真紅の果実が、宝石のように眠っていた。
 晩秋に収穫し、あえてすぐには食べず、雪の中で寝かせておいた『聖樹リンゴ(フジ種)』だ。

「……雪の中で保存することで、リンゴは寒さから身を守ろうと、自らのデンプンを『糖』に変える。糖度が極限まで高まった、完熟リンゴの完成だ」

 俺は一つを取り出し、服で拭ってガブリとかじりついた。

 ――パリンッ! ジュワァ……。

 硬質な音と共に、口の中に溢れ出すのは、果汁というより「蜜」そのもの。
 強烈な甘み。酸味は角が取れ、まろやかになっている。

「……甘い! 砂糖なしでもジャムができるレベルだ。……さて、こいつを最高のお菓子にするには、現地の小麦粉とバターじゃ限界があるな」

 俺はニヤリと笑い、リビングに戻ると、虚空に向かって指を滑らせた。

「システム、起動」

 青白く発光する『農業ポイント交換システム』のウィンドウが展開される。
 俺が求めているのは、異世界の技術では再現不可能な「プロの仕事」だ。

「悪いな、俺は楽をして美味いものが食いたいんだ。パイ生地を粉から作って、バターを折り込んで何層にも重ねるなんて重労働、俺は御免だ。……ここは『企業の努力』を買わせてもらう!」

 俺は迷わず「製菓材料(プロ仕様)」のカテゴリをタップした。

『発酵バター使用・冷凍パイシート(144層・業務用)』:2,500 pt
『GABANシナモンパウダー(大瓶)』:800 pt
『ナツメグパウダー』:500 pt
『明治エッセル・スーパーカップ(業務用2Lサイズ)』:1,200 pt

「購入(ポチッ)!」

 ――チャリン♪

 軽快な課金音と共に、光の粒子が集束し、テーブルの上に「文明の利器」たちが実体化した。
 霜のついた冷凍パイシートの束、香り高いスパイスの瓶、そして巨大なバニラアイスの容器。

『主よ、その薄い板はなんだ? 食べ物か? 紙の束に見えるぞ』
「フェン、これは『パイシート』だ。小麦粉とバターを百四十四回も折り重ねた、職人殺しの芸術品だ」

 ◇

 調理開始だ。
 まずはフィリング(中身)を作る。
 雪室リンゴの皮を剥き、八つ割りにする。フライパンにバターと砂糖を熱し、リンゴを投入。
 ジューッという音と共に、甘い香りが立ち上る。
 ここで、ポイント交換した『シナモン』と『ナツメグ』を、惜しげもなく振りかける。

「……っ!? なにこの香り! スパイシーで……でも甘くて……異国の王宮みたいな匂いがする!」

 フィオナが鼻をヒクつかせる。この世界でスパイスは金と同等の価値がある。それを瓶ごと使う贅沢。
 リンゴがキャラメル色になり、透き通ってきたら火を止める。

 次はパイ生地だ。
 解凍したシートを耐熱皿に敷き詰め、煮詰めたリンゴをたっぷりと乗せる。
 さらに、短冊状に切ったパイシートを、格子状(編み込み)になるように被せ、表面に卵黄を塗って艶を出す。

「オーブンへ投入! あとは待つだけだ!」

 二十分後。
 キッチンから漂ってきたのは、暴力的なまでに芳醇な「焼き菓子」の香り。
 発酵バターが熱されて焦げる香り、小麦の香ばしさ、そしてシナモンとりんごの甘い誘惑。
 
 チーン♪

 焼き上がりだ。
 扉を開けると、そこには黄金色(きつね色)に輝き、ふっくらと膨れ上がった『網目アップルパイ』が鎮座していた。

「完成だ……。だが、まだだ。ここで終わればただのパイだ」

 俺は熱々のパイを切り分け、皿に乗せた。
 そして、冷凍庫(保冷コンテナ)から取り出した、2リットルサイズの巨大なアイスの容器を開け、ディッシャーで真ん丸なボール状にすくい取った。

「行け! 『冷』の爆撃!」

 ドスンッ。
 焼きたて激熱のパイの上に、冷たいバニラアイスの塊が鎮座する。
 パイの熱で、アイスの底がジワジワと溶け出し、白いクリームソースとなって網目の隙間へと流れ込んでいく。

「『焼きたてアップルパイ・ア・ラ・モード』だ! ……アイスが溶けきらないうちに食うぞ!」

 ◇

 俺たちはコタツに入り、スプーンを構えた。
 フィオナがアイスごとパイをすくい取る。

 サクッ……パリパリパリッ!

 軽快すぎる音。
 144層のパイ生地が砕ける、繊細かつリズミカルな響き。

「……いただきます! ……はふっ、んんっ!!」

 フィオナが目を見開き、フリーズした。

「……あ、熱っ! 冷たっ! ……なにこれ、口の中が忙しい! 熱々のリンゴの酸味と、冷たいアイスの甘さが……混ざり合って……とろける!」

 そして、彼女はパイ生地の断面を凝視した。

「そしてこのパイ! サクサクなんてレベルじゃないわ! ハラハラと崩れるような繊細な層……。ルークス、あんたこれを魔法も使わずに手で作ったの!? 信じられない技術よ!」

「俺じゃないさ。『企業努力(ポイント)』の結晶だよ」

 俺も頬張る。
 バターの濃厚な風味が鼻に抜け、シナモンの香りが全体を引き締める。
 雪室リンゴの凝縮された蜜の甘みは、砂糖では出せない深みがある。
 そして何より、この「温かさ」と「冷たさ」の温度差(ギャップ)。これこそが、文明の味だ。

『ガフッ! ……うまい! 主よ、この白い冷たい塊(アイス)、バケツ一杯分よこせ! 熱い果実とよく合う!』

 フェンも鼻にクリームをつけながら貪り食っている。

 その時。
 遠くから、雪を踏みしめる馬車の音と、「甘い! 甘くて香ばしい匂いがするぞ! これは……シナモンか!?」という叫び声が聞こえてきた。

「……まったく。あの公爵は、甘味処の探知機か何かなのか?」

 俺は苦笑しながら、システムウィンドウを開き、追加のパイシートとアイスを購入した。
 冬の寒さが厳しければ厳しいほど、甘いものは美味くなる。
 雪室の知恵と、現代のチート。
 二つの世界が融合したアップルパイは、瞬く間に皿の上から消滅していった。

---


**【読者へのメッセージ】**
いつもご愛読ありがとうございます!
第二百四十六話、いかがでしたでしょうか?
今回は「現地の知恵(雪室)」と「現代のチート(冷凍パイシート)」の合わせ技です。
パイ生地を粉から作るのは大変ですが、ポイントなら一瞬。
焼きたてのパイに冷たいアイスを乗せる「ア・ラ・モード」は、まさに悪魔の発明ですね。
公爵もこの香りには抗えなかったようです。
「アップルパイ食べたい!」「アイス乗せは正義!」と思ってくださった方は、ぜひ【評価・感想・ブックマーク】をお願いします!
皆様の応援が、ルークスのポイント残高を増やします!
次回、第二百四十七話――「春の訪れ。山菜採りと、天ぷらの苦味」。お楽しみに!
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした

たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。 だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。 自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。 勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...