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第14話 リリィアの誕生日と、思い出のショートケーキ (14-3)
しおりを挟む焼きあがったスポンジを三枚にスライスし、下の段に、生クリームと、スライスした『陽雫苺』をたっぷりとサンドしていく。
二段目も同じように重ね、最後に、ケーキ全体を、雪のように真っ白な生クリームで、美しくコーティングしていく。パレットナイフを巧みに操り、表面をなめらかに仕上げていく作業は、まるで雪景色を彫刻しているかのようだ。
「わあ……綺麗……。真っ白なお城みたい……」
リリィアが、うっとりとため息を漏らす。
最後に、残りの生クリームを絞り袋に入れ、ケーキの上に、花の形にデコレーションしていく。そして、その中央に、選りすぐりの『陽雫苺』を、王冠のように飾り付けて、完成だ。
それは、もはや単なるケーキではなかった。
リリィアの誕生を祝い、彼女の未来を祝福し、そして、今は亡き父親の愛情を届けるための、光り輝く芸術品だった。
その夜。
店の営業を終えた「木漏れ日の食卓亭」で、リリィアのささやかな誕生日パーティーが開かれた。
集まったのは、俺と、ベアトリス、モグモグ、そして、ヴァル団長や、ルーク、街の常連客たち。
テーブルの中央に、俺が作ったショートケーキが置かれる。
そして、リリィアの歳の数だけ、小さなロウソクに火が灯された。
ロウソクの柔らかな光が、リリィアの嬉しそうな、そして少しだけ泣きそうな顔を、優しく照らし出す。
「さあ、リリィアちゃん。願い事をしながら、火を吹き消してごらん」
俺が言うと、リリィアは、こくりと頷き、ぎゅっと目を閉じた。
そして、小さな息で、ふうっと、ロウソクの火を吹き消す。
パチパチ、と皆の拍手が響き渡る。
ベアトリスが、涙を堪えながら、ケーキを切り分けていく。
そして、最初の一切れが、主役であるリリィアの前に、そっと置かれた。
リリィアは、フォークを手に取ると、緊張した面持ちで、ケーキを一口、口に運んだ。
その刹那。
リリィアの、大きな瞳から、ぽろり、と、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……っ!」
口の中に広がる、ふわふわのスポンジ。優しい甘さのクリーム。そして、甘酸っぱい、奇跡の果実の味。
それは、お父さんが作ってくれた、少し硬くて、不格好なケーキの味とは、全く違った。
だが。
その味は、彼女が心の奥底に、固く、固く、封印していた、大切な記憶の扉を、いともたやすく、こじ開けてしまった。
(……ああ、そうか。この温かさ、この優しい甘さ……。お父さんが、私に本当に届けたかったのは、この味だったんだ……!)
彼女の脳裏に、忘れていたはずの光景が、鮮やかに蘇る。
まだ幼かった自分。その自分のために、不器用な手つきで、一生懸命にケーキを作ってくれる、大好きだった父親の、優しい笑顔。
『リリィア、誕生日おめでとう。お前が生まれてきてくれて、父さんは、本当に幸せだぞ』
「……お父さん……!」
リリィアは、もう声を抑えることができなかった。
子供のように、わんわんと泣きじゃくりながら、それでも、幸せそうに、ケーキを頬張り続ける。
それは、悲しい涙ではなかった。
失ってしまったと思っていた、かけがえのない宝物の、本当の形を、最高の形で、もう一度、その腕に抱きしめることができた、喜びの涙だった。
ベアトリスが、そんな娘の小さな背中を、優しく、何度も、何度も、撫でてやっていた。
その彼女の目からも、温かい涙が、とめどなく溢れていた。
俺は、そんな二人の姿を、ただ、静かに見守っていた。
モグモグも、俺の足元で、嬉しそうに、そっと尻尾を揺らしている。
この日、一杯のケーキが、一つの家族の、失われた時間を見事に繋ぎ合わせた。
そして、リリィアの誕生日は、これまでの人生で、間違いなく、一番幸せな一日となったのだった。
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