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第15話 止まない雨と、太陽のお好み焼き (15-3)
しおりを挟む「さあ、皆さん! 自分の太陽は、自分で焼いてください!」
俺の号令で、街の人々が、次々と鉄板の前に集まってきた。
漁師のギルさんが、不器用な手つきで生地を丸く広げる。その横で、騎士団の若い衆が、歓声を上げながら肉の切れ端を乗せていく。母親たちは、子供たちに教えながら、小さな、可愛らしいお好み焼きを焼いていた。
ジュウウウウウウウウウウッ!
ジリジリジリ……!
鉄板の上で、生地が焼ける音。肉の脂が弾ける音。野菜の水分が蒸発する音。
それらの音が、まるでオーケストラのように重なり合い、食堂は、灯火祭の夜のような、熱気と活気に包まれていった。
そして、ソースが鉄板に触れた瞬間に立ち上る、あの甘じょっぱくて、香ばしい匂い!
「うおおおっ! なんていい匂いだ!」
「腹が、腹が鳴って、止まらねえ!」
人々は、もう雨のことなど忘れていた。
ただ、目の前の鉄板の上で育っていく、自分たちだけの太陽に、夢中になっていた。
やがて、最初の一枚が焼きあがった。
人々は、熱々のそれを、小さなコテで切り分け、ふうふうと冷ましながら、大きな口で頬張った。
そして、一口。
その刹那。
食堂から、全ての音が消えた。
次の瞬間、それは、爆発的な歓声へと変わった。
「う……うまいっ!!!」
「なんだこりゃあ! 家の残りもんが、こんなご馳走になるなんて!」
「ああ……体の芯から、力が湧いてくるようだ……!」
『岩間の麦』の魂を受け継いだ生地は、外はカリッと、中は驚くほどに、ふわふわ、とろとろ。
そこに、それぞれの家庭から持ち寄られた、様々な食材の旨味が溶け込み、甘辛いソースと、マヨネーズに似た酸味のあるソースが、全てを完璧にまとめ上げている。
それは、高級レストランの味ではない。
だが、今の彼らにとって、これ以上の御馳走は、この世のどこにもなかった。
人々は、我を忘れたように、笑い、語らい、そして、食べた。
空になった皿を、満足そうに眺める顔、顔、顔。
そこにはもう、数時間前までの、暗く、沈んだ表情は、どこにもなかった。
「日向さん、すごいよ! みんな、笑ってる……!」
リリィアが、ソースで口の周りを汚しながら、満面の笑みで言った。
ベアトリスも、ぶっきらぼうな顔をしながら、誰よりも大きな一枚を、美味そうに頬張っている。
その夜、「木漏れ日の食卓亭」の灯りは、街の灯台のように、温かく、そして力強く、輝き続けた。
外の雨は、まだ止まない。
だが、人々を覆っていた、心の雨雲は、鉄板の熱気と、人々の笑顔によって、すっかり吹き飛ばされていた。
この日、街の人々は、再確認したのだ。
どんなに暗い夜でも、どんなに冷たい雨が降ろうとも、こうして、皆で肩を寄せ合い、一つの鉄板を囲めば、自分たちの手で、太陽は作り出せるのだと。
この、お好み焼きの夜の物語は、後に「太陽を焼いた日」として、街の伝説になった。
そして、この街に、新しい食文化と、逆境に負けない、温かい絆が生まれた、記念すべき一日となったのだった。
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